第4話 歪む心と四谷先生との出逢い

三条さんが学校に来なくなって大分経つ。


その後どうなったのか、よく分からないけれど、噂好きのクラスメイト達の話によると、両親は離婚し、三条さんは転校する予定らしい。


私が一枚噛んでいるらしい、という事も聞こえよがしに近くで喋っていたけれど、私の反応が無い為か、去って行った。


また一人ぼっちに戻ってしまったけれど、寂しさも特に感じはしなかった。



そんな事を考えながら、ノートを取っていたら、文字を間違えていた。


筆箱を探ると折れた消しゴムしか無く、家に替えがあった事を思い出す。


「…新しいの見つけないと」



――…



今まで放っておかれたのに、どうやら今回はそうじゃないらしい。

私に寄って来た物好きな男子生徒の彼女が、イジメっ子で、面倒な事になっていた。


「何とか言えよ!人の彼氏取っといて!」


髪の毛が引っ張られる。痛い。

別に取ってもいないんだけれど、嘘でもついて私が悪者になってるのかもしれない。


「聞いてんのかよ!!」


口の中が切れてて喋りづらいだけなのに、また蹴られそうになった時、小さく足音が聞こえた気がして、咄嗟に足元のごみ箱を蹴り倒す。


「ん?…おい!何してる!!」

「やば…逃げよ」

「うちら悪くないから!!」


上手い事気付いてくれたみたいだ。

女生徒たちのバタバタ走り去る音が聞こえる。


「市岐?大丈夫か?!」

「う…」


名前は覚えていないけれど、新任の先生だった。

そこまで痛みも無かったので、ゆっくりと起き上がった。


「大丈夫です」

「本当か?怪我は無いか?保健室行くか?」

「全然…いたっ」


ワタワタと動き回る先生を見て、体を軽く動かして大丈夫だとアピールするものの、おでこがピリッと痛んだ。


手をあてると、1ミリ程度の小さな血がついていた。

ああ…爪長かったもんな、あの子。


「やっぱり怪我してるじゃないか!!保健室に行こう!!」

「いや、大丈夫ですって…わ!」


抱き上げられ、咄嗟に先生の首に腕を回すと、勢い良く教室を飛び出した。と、同時に教頭先生に出くわした。


「コラ、四谷!廊下を走るな!!」

「すみません!怪我してる生徒がいて!許してください!!」


教頭先生の怒鳴り声が廊下に響いているけれど、先生は無視して保健室へ走った。

変わった人だ。



保健室に着くと誰も居なかったので、先生が代わりに手当てをしてくれた。

絆創膏はよれてるし、髪についたり試行錯誤しながら、何とかなったみたいだ。


「…良し。はい、終わり」

「ありがとうございました」


「その…いじめられてるのか?」

「え?いや…誤解されただけで、今回が初めてですし」


「そうか…でも、何かあったらすぐ言ってくれ!それと、誰かは分かってるから、後でこってり絞っておくから!」


「いや、別に…」

「あ!でも俺の方が先に、こってり絞られるのかな~」


お互い無言のまま固まってしまい、先生の顔がみるみる赤くなると、思わず吹き出してしまった。

先生は驚いた顔をしたあと、嬉しそうに顔を綻ばせた。


「…あ、あの!ありがとうございました。それじゃ」

「え!あ…気を付けて」


なんだかあの先生は苦手だ。自分が自分で無くなりそうで怖い。

私は足早に教室を去ると、鞄を取りに向かった。









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