第3話 一度崩れ始めたら止まる事はない

…三条さんに会いたい。

快活に笑い、途切れる事なく話す彼女に会えば、不安も吹き飛ぶかもしれない。

明日は、私から声をかけてみよう。



―…次の日。珍しく、まだ登校していない三条さんを、少しソワソワしながら待っていたら、教室のドアが開き、彼女が入ってきた。


「あの、おはよう」

「紗弥!おはよう!ねえ聞いてー!私、彼氏が出来たんだ!」

「え?」

「前に話した他校生の!さっき、通学路で会っていきなり、好きです!言われてさー」


三条さんが、そう言って大口を開けて笑うと、近くにいた子たちが寄って来て、各々喋り始めてしまった。


嬉しそうな三条さんを見て、私は言葉ひとつ発せなかった。



その日はあまり三条さんと話せないまま授業が終わり、帰り支度をしていると、人影で手元が暗くなった。

見上げると三条さんが申し訳なさそうに立っていた。


「紗弥!」

「あ…どうしたの?」

「ごめん!今日、一旦用事済ませてから家帰れるんだけど、今朝言ってた子と買い物行く約束しちゃったから」

「…そ、うなんだ」

「うん、ごめんね。また埋め合わせするから! 」




この前は部活の大会で優秀な成績を残して、テストも毎回学年トップ10圏内。

クラス委員では無いけど、先生も生徒にも頼りにされている。


そんな子が友達だなんて、誇らしい事だけど、素直に喜べない。

大好きだったのに、憎らしい。

離れて行きそうで、寂しい。


いっそのこと―…

壊しちゃおうか。




「ねえ、おじさん。私、今日はリビングでしたいな」

「えっ?…いや、それは…」

「…だめ?」


肩に腕を回して軽く口づけると、簡単に落ちた。

慌ただしく私の身体を這い回る手に答えつつも、頭は冷静だった。


用事済ませてからなら、もう少しで帰る筈。

三条さんは帰宅時に、リビングに入るまで喋らないし、大きな音も立てないから、見られるまで、おじさんも気付かない筈。




―…全てがスローモーションのようだ。


ソファーに沈み、おじさんが私に覆い被さったのと、リビングのドアが開くのは、ほぼ同時だった。


そして、おじさんがドアの方を見た瞬間、三条さんの悲鳴が上がるのも、ほぼ同時。



大切な人の崩れ落ちる姿に、少し苦しく、胸が締め付けられる思いがしたものの、私は少なからず昂りを感じていた―…。




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