第2話 きっかけ
「…どうしたの?」
「あの…えっと、」
私の行動に気付いたおじさんが、問いかけてくるけど、どう切り出せばいいのか、よく分からない。
隣まで行って見上げると、おじさんは、ただじっと私を捉えたまま、話の続きを待っていた。
「おじさんは…おばさんが居なくて、寂しくないの?」
「それは…寂しいよ」
やっと口から出た言葉は、子どもっぽく、そして分かりきった事だった。
けど、少しでも、私なりに心配していると伝わっただろうか。
おじさんの目に、熱く、たぎるような何かを見て、少し怖さを感じつつも、シンクに置かれていた手に、私の手をそっと重ねた。
「…っ」
おじさんが息を呑む。
少しの静寂に包まれたけれど、それは束の間で…気付けば私の指は、反対におじさんに絡め取られ、もう片方の手で肩を抱き寄せられていた―…。
自分が、やっている事は、きっと間違っている。
けど、寂しさを紛らわせるには十分だった。
きっと、お互いに。
――…
あの日から、三条さんが居ない日を狙っては、おじさんと逢い、いつからか"お小遣い"を貰うようになっていた。
母と同じ稼ぎ方だけれど、少しでも生活が楽になるなら、きっと喜んでもらえるはず。
そして、使い道も無いので、すぐにお金は貯まって、久しぶりに帰ってきた母に渡す事にした。
「…お母さん」
「なに」
母が連れて来た男の人が帰ったのを見計らって部屋に入ると、母は化粧を落としながら私を一瞥し、また鏡の方を向いた。
「あの、これ…使って」
おじさんに貰った封筒に入れたお金を渡すと、母の大きな目が見開かれる。
そして中を見ると、私から視線を反らしたまま、ゆっくりと口を開いた。
「…何処で稼いだの?」
「…お母さんと、同じ…」
母の目に、じわじわと怒りが滲み、私をきつく睨み付ける。
…違う、こんな顔してほしいなんて思ってなかった。
「こんな金いらない」
「…どうして…?お母さんは良くて、私は駄目なの?」
「っ…私が、何の為に…」
乾いた音が響く。
頬が熱を持ちジンジンと痛んだ。
「…出てって。顔も見たくない」
母はそれだけ言うと、私に封筒を押し返し、鏡に向き直った。
もう私と話す気は無いらしい。
これ以上怒らせたくなくて、私は足早に部屋を出た。
「…どうして上手くいかないんだろ」
お金も受け取ってもらえなかったし、話もまともに出来なかった。
ただ喜んでもらいたかったのに、私はまた空回りしてしまったみたいだ。
…この日から、母は今まで以上に帰って来なくなってしまった。
けれど、時々私が居ない間に帰っているみたいで、テーブルにお金が置かれているが、以前より金額が増えていて。
私は、母の考えている事が理解できなかった。
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