K博士の鉄球

 こんにちは。K博士です。今日は最近話題の「アルミホイルから鉄球を作ってみた!」をやってみようと思います。

 用意したものはコンビニで買ってきた何の変哲も無いアルミホイルです。見えますでしょうか?……はい。では、これを鉄球にしていきたいと思います。

 ところで、皆さんは「原子」という概念をご存じでしょうか?大人の方は勿論ご存じだと思いますし、小さいお子さんはこれから学んでいってもらえれば良いかなと思います。「原子」とは、辞書的に言えば「荷電粒子を発生させることなく分割できる物質の最小単位。」(ブリタニカ国際大百科事典)のことです。この原子の概念からいくと、アルミホイルを構成するアルミニウムと、鉄球を構成する鉄は別の原子なんですね。これを叩くといった物理的要因や化学反応といった化学的要因で変換することは不可能です。

 では、題名の「アルミホイルから鉄球を作ってみた!」は不可能なのでしょうか?いいえ、違います。これを可能にするために今回使用するのはこちら、核融合炉です。そもそもアルミニウムや鉄といった原子は恒星内での核融合反応によって生み出されたものなんですね。鉄までの原子なら超新星爆発を起こさずとも水素から生み出すことが出来る――


「ストップ、ストップ!」

 K博士の言葉を遮ったのは博士の友人A。彼は突然博士に呼び出され、研究所を訪れたのだった。

「一体これはなんですか?動画を撮らせたりして」

Aの手を見ると、そこにはビデオカメラが握られている。撮影するよう博士に言われていた。

「知らないのかい?動画を投稿するんだ」

「それはなんとなくわかる気がします。知りたいのは動機と内容です」

「最近、動画サイトに『アルミホイルから鉄球を作ってみた!』とか『アルミホイルを叩くと鉄球になる!』みたいな動画が上がっているのを見つけたんだ。期待して見てみると、出来上がったのはただ叩いただけのアルミ玉だ。そこで私が本当の『アルミホイルから鉄球を作ってみた!』を見せてやろうと思ってだな」

博士の言葉にAは仏頂面をした。

「そんな下らないことの為に……。見せるにしても核融合炉は未発表な上に未完成でしょう?」

「下らないことはないぞ。成功すれば世界初だ」

博士は得意げに言う。Aを論破した気でいるのだ。

「誰もやったことのない実験に巻き込まないで下さい!研究所のどっかに三脚くらいあるでしょう。それにカメラを固定して撮影すれば良いじゃないですか。私は帰りますよ」

「そんなー、待ってくれよー」

部屋を出て行くAを追いかけるK博士。部屋にはアルミホイルが残された。

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