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●テクストと翻訳
Potest obici. Non possumus cognoscere individuum ut huiusmodi. Quacumque enim potentia cognoscendi utuntur, quoad sunt viatores, non poterit cognoscit individuum ut individuum. Ergo distinguendi sunt intellectus beatus et viatoris, et impossibile est ut cognoscamus individuum in quantum individuum.
次のように反論され得る。私たちは個別者を個別者として認識することはできない。実際、〔私たちが〕どのように認識能力を用いたとしても、私たちはこの世のものである限りで、個別者を個別者として認識することはできないだろう。それゆえ、至福的な知性とこの世のものである知性とは区別されねばならず、私たちが個別者である限りでの個別者を認識することは不可能である a)。
●註釈
a) 街は物音一つなく静まり返っている。ほとんどすべての人間が寝静まった夜、無名氏は眠ることもできず、ぼうっと部屋の闇を眺めていた。いかなる反論を練り上げても、膨大なテクストの群れによって知性の中で再構成される様々な偉大な哲学者たちが、逐一それに反論する。吐き気の催す雑踏から家に帰り来たったとき、耳鳴りのように頭の奥底で、自分を疎外する、自分を対象としていない、街を歩む有象無象のさまざまな声が蘇るときのようであった。何も聞こえていないはずなのに、ざわざわと頭のなかで無名氏の議論を踏みつけてゆく。この真夜中、無名氏はついに一人きりになったにもかかわらず、知性の内に潜む人々がめいめい騒ぎ立てる。街も静まりかえるこの数時間だというのに、暗黒のなか、彼はくつろぐことを許されていない。無名氏を苦しめるものは、無名氏自身しかいないというのに。「ああ、全知なる神よ、偉大なる哲学者たちよ!」無名氏は何度も祈った。「どうか私に知恵を授け給え、この問題を明晰なしかたで解決することのできる知恵を!」食卓で、パリの街で、書物の前で、自分の執筆部屋で、寝台の中で、意識ある限り、彼は何者かに祈り続けた。彼の常に「第二問題」の解決を望み、それに向けて行動していた。解決がほとんど不可能であることが、顕在的に意識されるに至り、第十二段落を執筆する段階で、無名氏は底知れぬ不安に冒されていた。知性に住まう哲学者たちの議論が彼を容赦なく打ち負かすので、彼はほとんど眠れない日々を送っていた。そうして昼夜を繰り返し、目に見えて憔悴していた。睡眠が彼の唯一の安息であったと言ってもよい。彼の愛する人は、彼を慰めようとして、幾度も優しいことばをかけた。愛撫するように柔く寄り添った。その都度、彼の肉体はその甘い香りによって癒やされていた。しかしながら、肉体は問題ではなかった。彼の精神、彼の知性は、そうした質料的、物体的な慰めによっては決して安らぐことはなかったのである。「第二問題」というきわめて形而上学的な問いは、彼が自らの愛のためにその探求が開始されたというのに、彼の精神はすでに彼女の愛によるのみでは満足できなくなってしまっていた。いつのまにか彼の満足は、生きながらの至福、知性の浄福、永遠的な愛の確証によってのみ得られるという、非常に高次のものとなってしまっていたのである。花園の甘さ、鐘の音の芳香、蜜の響きという交感する五感が、かつて白昼に見たその夢が現実のものとなるのでなければ、今の彼は満たされることはなかったのであった。
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