この問題に対して

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●テクストと翻訳

 Ad quaestionem dicitur quod quaestio utrum aliquis possit amare individuum reducitur ad quaestionem utrum aliquis possit cognoscere individuum in quantum individuum. Aliquis enim non potest amare hominem de quo nihil scit. Ergo considero hanc secunda quaestionem. Respondeo infra ad exemplum supra dictum et difficultas quae dicetur, et ex hoc probo quod intellectus humanus cognoscere individuum ut individuum, et ostendo aliquem posse amare individuum.


 この問題に対しては、以下のように言われる。「ある人は個別者を愛することができるか」という問題は、「個別者を個別者として認識することができるか」という問題へと還元される。というのも、ある人は、それについて何も知らないところのものを愛することはできないからである。それゆえ、私は第二の問題 1) について考察する。以下では、先に述べられた例 2) と、〔下で〕述べられるであろう難問 3) とに対して答えることで、人間知性は「個別者を個別者として認識することができる」ということを証明し、それによって「個別者を愛することができる」ことを明らかにしよう a)。


  1) 訳註。「個別者を個別者として認識することができるか」という問題。

  2) 訳註。第三段落に挙げられている二つの例のこと。

  3) 訳註。第六段落で提示される、完全に類似した二人の人間の問題のこと。


●註釈

a) ここから私たちは無名氏による主文を見ることになる。ここでは、無名氏によって、この問題においては何が問われており、解決のためには何が達成されねばならないのか、ということが整理される。すでに第一段落への註釈 a で詳しく見たように「ある人は個別者を愛することができるか」という問題を解決するためには、「ある人は個別者を個別者として認識することができるか」という問題が解決されねばならないことが明らかにされる。「ある人を愛する」ということは、その最も強い意味において、「その人をまさに個別者として認識している」ということを含んでいるからであり、個別者の認識は、愛するための必要条件となっているからである。個別者の認識が可能であることが、個別者を愛することを可能たらしめる。執筆の順序に関して、第三段落と同様、この箇所の「以下では」云々 (« Respondeo infra... ») 以下に続く後半部も、あとから追記されたと考えられる。詳細は第六段落への註釈 a を参照せよ。

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