アンドロイド達の見る夢

川田 海三

アンドロイドたちが見る夢

 始めは誰しも、そんなことは空想の世界の話でしかないと思っていた。知能を持ち、我々と同じような身体を持ち、一定の教育を施せば自ら考え、判断し、行動することができる物が実際に実現されることなど。

 

 それは十年前の事であった。政府直轄機関の中でも最も優秀とみなされている研究所が、ある発表を行ったのだが、その内容が冒頭に記した事柄であった。

 発表を行った研究所の所長は多数のメディアを前にこんな話で発表を締め括った。

 「私たちはこれまで本当に良く働いてきました。かつて荒廃しきっていたこの地球を長い年月をかけ復興し、自然を取り戻すことに成功しました。また枯渇した資源を求め、大宇宙に乗り出し有用な植民惑星を数多く保有するに至るとともに、その間に接触した多数の異星人との交流や交戦を経て、現在では宇宙連邦の主要国のひとつに数えられています。私たちの持って生まれた義務感と勤勉さが、かつてない大繁栄をこの地球にもたらしたのです。本当に喜ばしい限りです。本当に喜ばしい限りのはずなのです・・・。しかし、この虚しさは何故なのでしょうか。私はもう隠すことなどしません。どんなに素晴らしい偉業も、繁栄も、満たされることのない空虚の前に何の意味があるのでしょうか。そう、そして私は知っています。これは私だけの見解ではなく、皆さんの・・・いや、全世界の実直な思いであることを。私はこの研究が実を結んだとき、この問いに答えが出せるのではないかと確信しています。」


 あの発表から十年、研究所の大講堂は全世界から集まったメディアで埋め尽くされていた。檀上に現れた所長はあの時と同じ無表情と抑揚のない声で定刻通りに発表を始めた。静まり返った大講堂には、この研究の概要を説明する所長の淡々とした声だけが静かに響き渡り、説明はきっちり一時間で終了した。

 「質問は省略させて頂きます。というよりも実際にご覧になれば質問が必要でないことを理解して頂けると思っています。」

 そして、所長は演壇右側の舞台袖に向かって声を掛けた。

 「さあ、二人ともこちらに来なさい。」

 すべての注目が舞台袖に注がれる。

 少しのためらいを感じさせた後、二人の子供が手を繋ぎながら壇上の真ん中に向かい走り出てきた。一人は男の子で白のポロシャツに紺の半ズボンをはいており、もう一人は女の子で白のポロシャツに赤いスカートをはいていた。二人は檀上の中央まで来ると立ち止まり、正面を向き一言一言を確かめるように大きな声で挨拶をした。

 「みなさん、はじめまして。」

 所長は足元で静かに微笑みながら立っている子供たちの頭を撫でながら言った。

 「この研究の成果である、細胞分裂を応用した有機個体です。」

 見るからに非力で、特別な能力を持っているわけでもなく、ましてやこの地球でしか生息することができない小さな二人の有機個体を前に一瞬、大講堂は異様な沈黙に包まれたが、それは全てのことが理解された瞬間でもあった。

 この大講堂に集まった者はもとより、今や全地球の支配者となっているアンドロイド達に継承的に刷り込まれている言葉がある。

 所長が発言した。

 「私はこの有機個体を、こう呼ぶ事としました。かつて、この地球の支配者と言われ、私たちの創造主とも言われ、そして遥か昔に絶滅してしまった者たち。{人間}と。」

 そして、全てのアンドロイド達が一斉に唱和した。

 「すべてのことは、人間のために。」

  

    



 

 

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