『昔話』
<帝国暦870年>
帝都で起こったクーデターを始めとした各地の民によるクーデターは、皇帝の名の元に騎士達に沈められた。
この事件は、改めて皇帝の権力を揺るぎないものとし、帝国を盤石にするのだった。
クーデターが起こった帝国暦865年。皇帝は32歳であった。皇帝のために勇猛果敢に戦った騎士達は、皇帝の年齢を超えるものが多くいる。
ただ知っていたのである。皇帝は先代皇帝とは違うと。先々代皇帝とも違うと。当代皇帝のカリスマ性は民衆を虜にした。その美しさも加わったのだろう。国民からの人気はとても高かった。
現在の皇帝は37歳。つい先月、全ての地域でのクーデターを沈めた。それには皇帝自らも向かった。騎士達の士気を上げるためだ。
……私はこれからどうすれば良いのだろうか。
皇帝の心の中を知る者は誰もいなかった。
各地でクーデターを起こした者達は当然処刑された。中には罪の重さによって情状酌量で許された者もいた。だが、殆どが処刑された。
このクーデターを沈めるために活躍した者の中からは、この皇帝が立てた新貴族制度によって、貴族となったものがいる。
ただ、元々が貴族でない者達はマナー面で見劣ってしまう。これを改善する為に皇帝は教育する為の場を必要と考えた。当然、貴族だけでは無い。全国民が、だ。
皇帝が新たに施行した政策は<教育革新>と呼ばれ、皇帝の『革新者』の二つ名はより一層広まる事となった。
皇帝は帝国各地……すなわち全世界に教育するための場を設けた。これは<学舎>と呼ばれた。
貴族よりも金銭理由でこの<学舎>に通えない子供達の為に皇帝は無償教育とした。
現在はまだ<学舎>が設立されて、数ヶ月しか経っていない為、50%ほどしか通っていない。だが、初めにしてその値は賞賛すべきものだろう。
さらにこの<学舎>は全年代が通う事が可能である。その年代に応じた教育過程が組まれており、一人一人に見合った教育をする。
この裏の意図として、皇帝一人が行う政治を辞める、という目的がある。但し、これを知る者は当然、皇帝だけである。
また、皇帝は騎士団内部の見直しを行った。今までは、貴族だからと高い地位につく者がいた。
これがクーデター時に騎士達にも貴族側についた者がいた原因だろう。
騎士内部の腐敗も直すため、皇帝は騎士達に問い掛けた。
「お前達は騎士として何をしたい?」
皇帝は騎士達に己の騎士道を尋ねた。それぞれがそれぞれの騎士道を語る。騎士達は互いの思いに対して、時に頷き、時に異を唱えた。
結果、騎士達は大きく変わった。騎士達は今まで以上に騎士という職に意味を感じることであろう。
新たに就任した騎士団長は、帝都のクーデター時に最も活躍し、さらに各地の派遣部隊を率いた人物だ。元は騎士副団長であった。実力・活躍ともに申し分ない者だ。騎士団内部からも支持されていた人物である。
教育制度や組織改革を始めとした、様々な取り組みを『革新者』という二つ名の元に皇帝は執り行った。時には国民に反対される事もあった。その場合は、しっかりと国民の意見を取り入れている。
また、文化面においても皇帝は数十年文化を進歩させたと言われている。
皇帝は文化に対する勲章を設けた。それは<文明発展勲章>と呼ばれる。大衆文化から貴族文化まで様々な文化に皇帝は勲章を与えた。
新貴族制度による新しい体制の貴族、また国民ともに愛された皇帝であった。
皇帝は37歳である。未だに結婚していない。要するに跡継ぎがいないのだ。そろそろ結婚しなくてはならない。この時代の平均寿命は55歳。死も寸前となっていた。
皇帝がいつもと変わらず政務室にこもっていたある日あいつはやって来た。
「久しぶりだな。5年振りと言ったところか。」
皇帝は気付いていた。そろそろ来るだろう、と。
「ああ、気付いていたのか。また驚かしてやろう、と思ったのにな。」
「そうか……お前には気付けたが、やはりこの部屋の隠し扉には気付けないな。」
「そんなの簡単だ、見てろ。」
5年前と同じようにやって来た男は、付いてこいと言った。皇帝は素直についていく。
男が足を止めたのは、初代皇帝の政務資料が纏められた棚だった。
「ここに……?」
「ああ、そうだ。ここでとある人物の名前を唱えればいい。それは口に出す必要は無い。」
「その名前とは……?」
「それは昔話をしながら教えてやるよ。」
皇帝は男と共にまた政務室の元いた場所に戻って来た。二人は椅子に座った。しばらくして男は語り出した。5年前と同じように。
「5年前に話した内容は覚えているか?小国の王子と平民の娘、大国の王女の話を。」
「ああ、覚えている。」
「そうか。復習も含めてもう一度、そこから話すか。」
そして、男は語り始める。
昔話。とある小国の王子がその国の平民の娘に恋をした話を。その王子を愛していた大国の王女が振られた話を。そして、王女が怒りのあまり戦争を始めたことを。
「という訳だ。」
「そうだったな。そこで一人の女が立ち上がった……だったか。」
「ああ、そうだ。」
そうして、男は5年前に話さなかった話を始めた。
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