『クーデター』

 <帝国暦865年>


「クーデターを引き起こしたのは、幾つの貴族だ!?」


「5つの貴族です!既に王宮周辺に兵が集まりつつあります!」


「囲まれているか……。」


「はい。」


 帝国は危機に面していた。クーデターである。この皇帝が出した政策である新貴族制度。貴族の猛烈な反対を押し切って施行した政策のため、いつかは起こると考えていたクーデターだが、事前に気付けなかった。


「入念な準備をした、か。今すぐ、訓練中の騎士を集めよ!!また、長期戦になる事も考えて、各地に派遣した騎士も集めよ!!」


「それでは各地で反乱が起きる可能性も」


「構わん!今はここだ。私が死んでは跡継ぎがいない!跡継ぎ争いになるぞ!!」


「は、はい!至急、各地に連絡させます!」


 皮肉にもこのクーデターは約850年前に終わった<千年戦争>が再び起こる可能性を示唆していたのだった。


 ……まさに先程まで男からその話を聞いていたばかりなのだがな。


 皇帝は政務室から玉座へと戻った。続々と騎士が集まっている。ただ、少なからず謀反を起こした騎士もいるようである。騎士の中には少なからず貴族出身がいる。


 ……騎士も見直す必要があるようだな。


 皇帝はこの状況をたった一人で挽回する必要があった。皇帝は一人で指示するものも一人。


 クーデターを危惧して、権力を集中させたのが、逆にクーデターを巻き起こした、か。皮肉なお返しだな。どうにもこの世は皮肉ばかりだ。


 と、皮肉を込めているかどうかも分からない神を恨む。だが、神は救ってはくれない。


 騎士が何人集まるかが勝負を決しそうであった。


 結局、騎士は数万以上の人数が集まった。


「よくぞ集まってくれた。現在、王宮は私を殺そうとクーデターを起こした貴族に囲まれている。諸君には全員を倒せ、とは言わない。だが、誰も死なないで欲しい。そして、国外から来る騎士達を待っていて欲しい」


 皇帝は言葉を続ける。


「そして、私に謀反した同じ騎士達を説得しようとしなくても良い。人にはそれぞれ考えがある。その考えを私は尊重したい。だが、私は皇帝だ。謀反を起こした者達を放置する訳にはいかない。国民を守らなくてはいけない。その為に騎士達よ、立ち上がってくれるか?」


 皇帝は騎士達に問い掛ける。そして、騎士達は立ち上がる。一人、また一人と。立ち上がった騎士達は、やがて己の剣を掲げる。我らの主君の為に。我らの正義の為に、と。



 先程から貴族側と皇帝側で一進一退の現状が続いている。どうやら皇帝側の騎士達が統制された動きで貴族側についた騎士達を蹴散らしているようだ。貴族側についた騎士達は、各人がバラバラとなって戦っているため、戦術が無い。


 力だけの者は戦術に勝つ事は出来ない。


 これは誰が言った言葉であろうか。古くから帝国では言われている言葉だ。それを貴族達は嘲笑し、必要ないものとして扱った。そして敗北する。


 決して貴族側についた騎士達が弱かった訳では無い。謀反を起こした騎士達の中には、騎士団長もいた。だが、負けた。すなわち戦術にだ。短気な怒りは決して強さとはならない。


 騎士団長は己の怒りの余りに騎士達の長としてのカリスマ性を失ってしまっていた。それが貴族側の騎士達を敗北へと導いた一つの原因なのでは無いだろうか。後に評論家はこう言ったのだ。


「もう少しで国外の騎士達が到着するぞ!押されるな!!」


 貴族達がクーデターを起こして既に二週間。各地へと派遣されていた騎士達が帝都周辺へと集まってきていた。


 帝都に住む国民達は、貴族達に見つからないように最大限に注意しつつ、どうにか避難所への案内を済ませた。現在は王宮から離れた施設に帝都全国民を集めている。


 その施設も皇帝側の騎士がしっかりと警備しており隙はない。これもである。


 貴族側は国民達を避難させ、皇帝に怒りの矛を向かわせる事も可能であった。権利が集中しすぎる余り、貴族達は考える事を既に何代も前から放棄していた。


 自分達の不利となることに対してのみ怒り、自分達の有利となることに対しては歓喜する。それだけしかしないへと成り下がっていたのだ。


 その意味を込めてもこの皇帝が出した新貴族制度は、効果があったと思われる。能力のある者をその能力に応じて、位を与える。能力無き者は、己の能力を見出すために努力する。


 帝国では既に幾つかの新しい貴族が誕生していた。当然、その者達は皇帝側についている。


「帝都周辺に集まりし騎士達よ!叛逆者を倒す為に立ち上がろうでは無いか!」


「「オォォォォオオオ!!!」」


 騎士達は王宮で帝都内の騎士達がしたように、剣を空へ掲げる。誰かが貴族側の騎士達へ雷の魔法を放った。


 それが反撃の幕開けとなった。


 貴族側は当然、囲まれている為に逃走経路は存在しない。また、帝都内は戦う騎士達で溢れかえっている為にクーデターを引き起こした貴族本人も逃げ出す事が出来ない。


 魔法を使用して逃げ出そうとした矢先に誰かに殺されるのがオチだ。




 それから一週間後。クーデターは沈められた。皇帝の名の元に。しかし、これは始まりに過ぎなかった。本当の混乱はここより始まる。


「皇帝!!各地で国民達が皇帝に反逆せんと立ち上がっております!!騎士達は全員こちらにいるので……。」


「分かっている。これより騎士達による派遣部隊を結成する。国外にいた騎士達を中心とした統制の取れた部隊とせよ。」


「「はっ!」」


 騎士達はまた立ち上がる。皇帝の為に。この皇帝は国を革新させた<革新者>として後世まで語り継がれることになる。


 そして、帝国はより盤石なものとなるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る