『報告書』
<帝国暦865年>
「────についての政策を行う方針である。今すぐ、国民中に知らせよ。」
「はっ。」
皇帝は新たな政策を行う為、国民の声を取り入れようと思ったのだ。国の各地に無名可能の意見書を入れる<帝国政策意見書提出箱>略して<ハコ>と呼ばれる提出箱を配置したのだった。
「私は政務室へ行く。何か伝えるべき内容があれば、政務室へ来てくれ。」
そう伝えると皇帝は、政務室へ行った。政務室には、今日までの全ての皇帝の政策について書かれた資料や
その政務室に入った皇帝は資料を読み始めた。
それは皇帝が資料を読み始めて、20分後の事であった。
皇帝が資料を読んでいると、政務室の扉が開く音がした。
「どうしたのだ?」
しかし返答が無い。不思議に思って政務室の扉の方へ行くが、誰もいなかった。扉も開いていない。空耳かと思って、皇帝が振り返ると────
────そこには一人の男がいた。
「誰だっ!!」
すぐさま逃げようとする皇帝であったが、距離が近すぎた。すぐに男に捕まり、ナイフを首に向けられた。
「静かにしてろ。殺したりはしない。ただ、静かにすれば良いんだ。」
「分かった、殺さないんだな。」
皇帝は静かになる事を承諾した。
「物分りの良い皇帝だな。」
「……」
「……はぁ、まあいいさ。……俺がここに来たのは、とある目的があったからだ。それは皇帝暗殺では無い。」
「では、何だというのだ。」
「皇帝と話がしたいからだよ。誰も聞いていない場所でのな。」
「ふむ……だが、その前に一つ良いか?」
「なんだ?」
「お前はどうやってここに入った。」
「そんな簡単か事か?」
続いて男はこう言った。
────この政務室には外と繋がる扉があるんだよ、と。
「それが万一あるとして、何故それをお前が知っている。」
「その話も今からするからよ。少しばかり声を小さくしてくれ。」
分かった、と皇帝は黙った。それを見て、男は話し始めた。
「俺が今からする話は、とある帝国の建国の前の話だ。」
「何故、それをお前が知っている。」
「……さっきから言ってるだろ。いいから聞いてろ。」
「……分かった。」
男は再び話し始めた。
「これはとある帝国の建国の前の話だ────」
帝国の建国前。各地では戦争が相次いでいた。
食糧や水も尽きかけ、兵士や農民も疲れ果てていた。しかし、戦争は終わらない。
この戦争は後に<千年戦争>と呼ばれる事になる。
終わりの見えない戦いの毎日。敵を恨む気力すら無くしてしまった人々。本当の意味での終わりが近付いていた。
では、それを巻き起こした人々はどうなのか。
この長きに渡る戦争の幕開けの原因は、国同士の喧嘩のようなものであった。喧嘩、と言ったのは、正確には国家間では無く、とある二人の男女によって起こった喧嘩が始まりだったのだ。
一言で言えば恋愛から発展した戦争だ。
……とある一国の王子。彼は兄弟がおらず、政略結婚を強いられていた。
「嫌です!あの者との結婚は受け入れられません!!」
王子は親である王とその妃に反対するのであった。王子が結婚を強いられているのは、王子が子供の頃から亡霊のように後を付け回す女であった。
それは決して常人の耐えうるものでは無かった。王子を付け回した女 ── 一国の王女 ── は、徐々にエスカレートして行き、遂には王子の部屋に侵入して、部屋を荒らしたりする行為に及んだ。
「あの女だけは嫌だ!辞めてくれ!」
「すまない。だが、小国であるこの国は、あの大国に支援を求めなければ、国民の不満が解消されないのだ。」
「そうは言っても!!!」
────私には好きな女性がいます!そう言いたかったのだが、王子には言えるだけの勇気は無かった。
王子が恋をしたのは平民の娘であった。
ありふれた話である。だが、同時に絶対に認められない結婚である。その娘も美形である王子の事は当然好きである。国の女性の皆が好きなように。
結婚話は一旦お預けとはなったが、王子の恋心は膨らむばかりであった。
王子はその夜。王宮を抜け出した。平民の服に着替え、臣下の目を盗んで王宮から抜け出すと、市街地を走った。
偶然にも市街地には人がいなかった。これならば、見ている人もいないだろうと思った。しかし────災いは向こうからやってくる。
馬車は突然、前方に現れた。魔法の一種だ。<転移魔法>を操る魔術師をも保有しているとある大国はとある結婚話の為に訪問したのであった。
そう、目の前にいる王子とであった。
王子の美形は異性、同性にも人気のあるものであったため、他国の兵士もすぐに気付いた。その報告を聞いた女性は、すぐに馬車を出た。
「王子、待っていて下さったんですね。」
「や、やめろ……来るな!」
王子はこの女性 ── 自分を付け回すストーカー ── に恐怖さえ抱いていた。
「どうして?私はこんなにも好きなのに。」
「来るなぁぁあ!!!消えてくれ!!」
「お前、何を言う!!」
兵士は激怒した。それもそうだろう。自分の国の王女を馬鹿にされたのだ。激怒しても仕方が無い。
「やめてくれ……助けて……。」
王子は憔悴していた。しかし、王子に降り掛かった災難はこれのみでは無かった。
「王子……?」
そう呼び掛けてきたのは、王子の恋した女性であった。王子は咄嗟にその女性の名前を呼んでしまった。大国の王女と兵士がいる状況で。
「貴方様はこれほどの愛を受けて尚、私が嫌だと申すのですね。分かりました、国へ帰りましょう。貴方様の国は数日後、地図から消えるでしょうが……。」
大国の王女はそう告げた。しかし、王子にはその言葉が聞こえていなかったのだ。王子は恋した女性と会えた喜びで一杯だったのだ。
数日後、大国は王子の国へ宣戦布告した。王子の国は、王子の身柄を渡す事で許してくれと懇願したが、怒った王女は、既に王子などどうでも良かったのだ。
そのまま戦争へ突入した。小国と大国との戦争であれば、軍事力の問題で小国の消失ですぐに終わる戦争の筈だったのだが、その戦争に大国に恨みを持っていた多くの小国が戦争に参戦してしまった。
いつからかその戦争は、敵味方が分からない状況になった。近くにいる人を殺し、殺す。人々は阿鼻叫喚の悲劇となった。
それから数百年。遂に一人が立ち上がろうとしていた。ただ、その者は女であった。力が足りないのだ。戦争を終わらせるだけの。
その女は力を蓄えるために各地を転々とした。その途中で左腕を失ってしまった。だが、女は諦めなかった。各地を転々とした後、一人の男が呼び掛けてきた。
「戦争を終わらせたいですか?では、私が助けて差し上げましょう、と。」
ここで男は一旦、話を辞めた。皇帝は今聞いた話を呑み込むのに精一杯であった。男が今、皇帝を本当に殺そうとしていたのであれば、瞬殺であっただろう。だが、男は殺さなかった。
しかし、その話が続く事は無かった。
「皇帝陛下!!至急、お伝えしたい事が!!」
兵士が飛び込んで来たのだ。クーデターである。貴族の新制度に不満に堪えきれなかった貴族がクーデターを巻き起こしたのだ。
兵士は顔を上げると皇帝のすぐそばにいる男に気付いた。
「何者だっ!!」
「ふん、皇帝、いつか会えたらな。」
男はすぐさま何処かへ去っていった。そのまま、皇帝は話を聞けずじまいでクーデターに巻き込まれるのであった。
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