南国カクテル・長期熟成ウィスキー・ナム酒
デザートを食べ終えた一行は酒や茶を飲むなり、煙草を吸うなり、思い思いの時間を過ごす。シルタ家の客人を満腹にするというポリシーにより、皆満腹の様子。耕助は酒を嘗めながら、煙草をふかす。
「お料理はこれでお仕舞いですが、お酒、お茶をおだしします。ごゆっくりとおくつろぎください。なにしろ新農業大臣閣下の就任のお祝い、シルタ家全身全霊をもっておもてなしさせて頂きます。食後酒ですしもう少しお強いものをカクテルでおだししますか」
「カクテル、いいわねぇ。酒自体が貴重なこの世の中、中々呑む機会もないし。お勧めは?」
「そうですね…… ヘルサ様は酒精が強めのものがお好きなご様子、一方で若い女性ですから甘めのものが宜しいでしょう。フルンジ地方特産のスミナの蒸留酒で特段強いものに南国の果実を搾った果汁を混ぜた『フルンジ・南国スペシャル』がお勧めでございます」
「じゃあそれを頂戴」
「畏まりました」
ヘルサはゴブレットに残った蒸留酒を一気に飲み干す。
(ミラは酒にも通じている、ソムリエも兼ねているのか。多分だがこの店で一番教育された店員なのだろうな)
「閣下は何か飲まれますか」
ミラが尋ねる。
「私はそんなに強い訳ではないので軽いものを。微炭酸がいいかな」
「では一番等級の高いナム酒をお持ちします。先ほどまでのナム酒も上等な品ではありますが、食糧難の世にあっての価値です。冷害以前の最高級品となるとやはりひと味違います」
「騎士の皆様はいかがしますか?」
ミラは倉田と耕太に目を合わせ、尋ねる。
「スミナの蒸留酒がうまかった。そうだな樽の香りが楽しめるものがいい、ハーブを入れたものでも構わない。アルコールの強いものがいいな」
(倉田もなかなか難しいオーダーをする)
「左様ですか。ふむ…… そうなるとやはりスミナの蒸留酒。お好みの香りは御座いますか?」
「残念ながらこちらの香りの例えがよくわからない、芳醇なものがいい」
「そうですね…… バヌという香木がございます。樽を炭火で炙り、より一層香りを高めたものを加速魔導で五十年分経過させたものです。それをロックでいかがでしょう」
「それにしよう」
「畏まりました。お若い方は」
ミラは耕太に目を合わせる。
「親父と同じやつを。キツいのはあまり得意じゃないから」
「畏まりました、そのようにおだし致します」
ミラが若い女中宇に目配せする、女中は一礼し下がる。
「酒って蜂蜜酒以外ないと思ってたけど意外と種類あるものだね」
「前は様々な酒が御座いました。蒸留集、果実酒、リキュールにエール。農奴も酒を飲めるだけの余力があり、賦役の労をねぎらい酒盛りもしばしば開いていました。しかし、冷害で農業が打撃を受けたあとはめっきり減りました。蜂蜜酒はいわば火事場しのぎに過ぎません。閣下、ジャガイモという作物は酒になるのでしょうか」
「ええ、アクアビットという酒になります、蒸留酒ですね。でも私の国ではそんなに流通していません。私は飲んだこともないし、作り方も知らないので」
耕助は首を横に振る。
「ジャガイモの生産性の高さを活かして酒造りできれば、いずれ庶民の手にも入るようになるでしょう。しかし今は飢餓の世、食糧に回すので精一杯ですよ」
「いえ、近々の話でなくとも良いのです。シルタ家は農業、食糧だけでなく酒造りにも関心がありまして。もっとも伝統ある酒蔵には勝てませんが、ジャガイモが世に普及した暁にはジャガイモの酒造りの先駆者の座を得られればと」
「ふむ。そういうことですか。ユミナさんにはこれまで手伝ってもらった恩もあるし、今後も協力してもらう事になるでしょう。アクアビット造り、微力ながら協力させていただきます」
「ありがとうございます」
ミラは深々と礼をする。
若い女中がカートを押してくる。艶のあるチョッキ、真っ白なシャツを着込んだ中年の男が女中の後を追う。
「私め、酒の統括をさせて頂いておりますジュガと申します、オーダーはお聞きしております。『フルンジ南国スペシャル』、ナム酒の特上品、スミナの蒸留酒。バヌ樽五十年もので宜しいでしょうか」
耕助は首肯を返す。ジュガはミラに目配せする。ミラは酒瓶をとり、耕助と耕太にナム酒を注ぐ。
「では『フルンジ南国スペシャル』は御前でおつくりさせて頂きます」
ジュガは恭しく一礼、黄色、オレンジ、紅、彩り鮮やかな果実を金色のカクテルグラスに盛り付ける。カップでフルンジの酒を量り、グラスに注ぐ。
「我、スラッタの系譜に連なる者なり。力、弱けれど、その全力を尽くす。神よ、我に力を与え給え」
ジュガが詠唱するとグラスが僅かに震え、魔導陣がグラスを包み、光る。盛り付けられた果実がどんどんグラスに吸い込まれていく。ジュガは斬撃魔導をジューサーとして使っている。
(意外な使い方だ。スラッタ派は武闘派と聞いていたが調理人になる魔導師もいるのか)
耕助は疑問を抱く。
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