【解説】パロヌ塩湖会戦前編

 今回はパロヌ塩湖会戦の解説です。


 魔王軍は水攻め、スライムの投入により重装歩兵を撃破し、鎮護軍を包囲殲滅。パロヌ塩湖を魔王軍が手中に収める。これをうけ国王は無制限戦争を決心、徴兵の御触れを出す。戦力の逐次投入を防ぐ為、パロヌ塩湖より五十キロほどの平野に陣を張ることに決定、戦力を集中させた。

 また叛乱防止の為温存していた王国近衛並びに青銅家騎士団を投入。大軍を指揮するため軍事を担う御三家グンズ家を筆頭に鉄家、一部の青銅家からなる参謀本部を設置した。


 金家は軍功をあげ、序列を高めるため多数の農奴を徴兵する。農閑期であったため、その数は五十万を超えた。といっても農兵は十分な防具も無く、また武器は生産が間に合わず熊手などの農具であったため主力とはならない。しかし、五十万の数的戦力は王国軍の寡兵を埋め合わせた。これまでの対魔王戦では数的不利を強いられていた王国軍が初めて数的優位に立ったことは参謀、士官、そして職業軍人たちの士気を高めた。


 一方の魔王軍は問題を抱えていた。人間の味をしめたゴブリン、そしてその長は人間の家畜、奴隷化を望んだ。魔王の意思である人間廃絶とは相反する、しかしゴブリンは主力であり、魔王といえどもゴブリンの意向にはできなかった。結果、パロヌ塩湖を毒で汚染するなどの焦土作戦は不可能となる。塩は人間を家畜化する上でも必要となるからである。魔王軍はパロヌ塩湖の実効支配を行うため、塩湖を縦断し、彼岸に陣を敷こうと行軍。

 しかし行軍中に問題が起きた。塩によりスライムが炎症を起こし移動ができなくなった。魔王軍は重装歩兵対策で最も有効な駒を失った。


 スライムを失いながらも塩湖を渡りきった魔王軍は簡易な防塁を何重にも築く、防御力の高い城を築いたところで斬撃魔導や転移魔導を使った上空からの杭の雨には耐えられないのは承知の上。質より数を優先した。この間、防衛陣地構築妨害のため、時折国王軍が散発的な攻撃を繰り出す。が、本格的な戦闘は生じなかった。

 王国軍はゴブリンの略奪、繁殖を防ぐ為、陣地とパロヌ塩湖の間にある村に火を放つ。結果、ゴブリン軍の兵站はスワリスコの召喚魔導に依存する状況に陥る。いかに魔導力が高いスワリスコといえど四十万からなる軍勢の腹を満たすのは至難の業。すでに大量の水を召喚し、水攻めを行ったスワリスコは魔導力を限界まで消費した。これにより、スワリスコの強力な攻撃魔導は封じられた。


 魔王軍のパロヌ塩湖支配より二ヶ月後、国王軍五十万は集結を完了。パロヌ塩湖へ出撃を開始する。パロヌ塩湖右翼に森がある以外、平野が続く。参謀本部は右翼に重装歩兵、農兵の一部、正面に農奴からなる徴兵軍、左翼に王国近衛、各貴族の騎士団、常備兵、そして多数の魔導師からなる軽装歩兵を展開した。

 魔王軍との戦闘は左翼から始まる。魔導師の陣前出撃、弓兵からの猛烈な曲射射撃を繰り返した上で軽装歩兵が防塁を攻め落とす。

 ゴブリンの体躯の小ささは攻撃に際し有効である。が、陣地の防衛には不向きであった。突破口を一度あけられるとそれを埋めるのには多数のゴブリンが必要となるのだ。突破口をふさぐ為ゴブリンが移動すると今度はそこが穴となり、次の突破口が開く、結果防塁はじわじわと陥落。魔王軍は左翼から圧迫される。


 スワリスコは王国軍が右翼重装歩兵を金床とした金床戦術を企図していると考えた。金床戦術とは機動力の高い部隊が敵を突破し、金床となる防御力の高い部隊と共に挟撃を行う戦術である。翼竜からの偵察情報でも右翼には重装歩兵以外の戦力を確認できなかった。スライムの居ない現状、重装歩兵中心の右翼への攻撃は容易ではない。

 一方左翼には軽装歩兵と魔導師の諸兵科連合が展開され、機動力も高い。実際、防塁は失われている。偵察では左翼後方に王国軍騎兵が展開し、左翼防衛陣が突破されては騎兵による側面攻撃も行われうる状況である。

 スワリスコは右翼からの猛攻を防ぎきり、王国軍の金床戦術の決心を阻止せんと決心した。正面は農兵、戦力はさほど高くなく、士気も低いだろう、右翼の重装歩兵は動かない筈だと判断した。左翼の猛攻さえ凌げばこの戦闘を勝利におさめられるだろうと観た。


 無論、次の戦闘についても考慮に入れなければならない。この戦いは防衛戦である、魔王軍が勝利をおさめたとしてもまた王国軍は攻撃を仕掛けてくるであろう。戦術的には防御に徹し、左翼を機動戦力とした王国主力にダメージを与え、魔導師の魔導力が尽きたところで逆襲し防塁を奪還。ゴブリンに防塁に重なる死体を食わせ軍を再編せんとした。

 戦略も考えなければならない。王国軍の多数を占める農兵は戦力が低い。防衛戦で魔導師と高度に訓練された兵士を削り続ければいずれ戦力差は逆転すると考えた。

 スワリスコは正面、右翼からゴブリンを抽出し、左翼の援護へと向かわせる。


 しかし、王国軍の戦術は全く逆のものであった。右翼の森、そこに巧妙に騎兵を展開させていた。その数は五千を超え、魔導により高度な指揮統制が敷かれていた。率いるのは忠臣ダスク、個々の騎兵も高い練度を誇る。この騎士団こそが攻撃の要であった。

 一方、左翼に展開されていた多数の騎兵は魔導による幻術、実際は百ほどの囮であった。

 王国軍は左翼において積極攻撃を仕掛け、正面、ならびに右翼の兵を左翼に移動させ、その隙を突いて騎兵による右翼突破、包囲を企図していた。


 ダスクは右翼のゴブリンが減っていることを騎兵による偵察で知るや否や、総突撃を命令する、参謀本部は騎兵を二個部隊に分け、ゴブリン中央軍を二重に包囲するよう命じた。手薄になった右翼ゴブリン軍は騎兵の奇襲に対応できなかった。ダスクは騎兵を加速できる魔導師を国中から集め、全ての騎兵に魔導をかけいた。ゴブリンは加速された騎兵の攻撃を躱すことが出来ず、次々と防塁を突破される。


 人類のパロヌ塩湖会戦の攻勢については次回に続きます。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る