シルタ家のメイド
耕助は食堂で煙草を吸っていた、急ぎ決めるべきことは済んでいる。暇という程ではないが時間を持て余していた。倉田とヘルサ、ジュセリも一緒、耕太は筋トレをすると中庭に向かった。
突如玄関をノックする音が響く。
「ジュセリ」
ヘルサはジュセリに目配せする。女中は新たな女中捜しに出かけている。今使いっ走りができるのはジュセリだけだ。ジュセリは無言で頷き、玄関へと向かう。
(貴族の社交じゃないだろうな)
耕助は一抹の不安を抱く。
「まさか私を貴族が直接誘いに来たって訳じゃないですよね、口頭でどう断るかなんてしりませんよ」
「どうでしょうね…… その場合は私が仲介いたします、ご安心を」
ヘルサは茶をすすり、澄まし顔である。
ジュセリが食堂へと戻ってくる、一礼し入室する。
「シルタ家から魔導が使えるメイドが二名送られてきました、どう致しますか」
「ユミナさんが。気をつかってくれたのかな」
「そうらしいですね…… むげに断る訳にはいかないでしょうし、それに人手不足は実際問題としてありますから…… 受け入れましょう、屋敷の案内をしてあげて」
「了解いたしました」
ジュセリは一礼し、玄関へと再び向かう。
「魔導が使えるメイドが二人…… 読み書きが出来る者がいたら鈴石殿にお付けの者として配置しましょう、今後そうした役回りは必要ですからね」
「ふむ。そうですね、書記は必要でしょう。というか、大臣職を務めるのなら補佐官が欲しいところですが」
耕助は煙草の灰をおとす。
「補佐官ですか、必要でしょうね。アルドが本来その役目になるかと想定していましたが、王に仕える方が忙しいようですからね。普通は古くから仕える者から抜擢するのですが、そういうわけにはいかないですね……国王陛下からの俸給で雇うのがよろしいかと」
「どんなルートで人材募集すれば」
「そうですね…… 補佐官となるとギルドではそうそう賄えません、王宮に仕える役人から抜擢するのがよろしいかと」
「ヘッドハンティングか…… 勝手がわからないな、お願いできますか」
「承りました。アルドに準備させましょう」
ヘルサは文をしたためる。
「失礼致します」
ドアが開かれ、ジュセリが入室する、後ろには女中が二人控えている。ユミナが送ってくれたのは彼女達か。
「こちらがアノン家ご息女、ヘルサ・イム・アノン様。そして農業大臣鈴石耕助閣下である。そして閣下の騎士の倉田殿だ」
「シルタ家より遣わされました、わたくしフェリア、こちらがヴェルディでございます」
女中達が腰を折る。フェリアの方は若いがどこか知性を感じさせる顔つきである、どこか上品なブロンドのショートカット。ヴェルディの方はオバサン、パーマがかかっている。
「今後よろしくね」
ヘルサは手をかざし、答礼する。女中は面を上げる。
「さっそくなのだけれど、書記が出来るものは」
「はい、両名ともできますがわたくしの方が慣れております」
フェリアが答える。
「では鈴石殿の付き人として働きなさい、今補佐官を探している最中なの。社交につかうような文章は書ける?」
「は、シルタ家では不在中の文章管理を任されておりました」
「適役ね、では鈴石殿のお世話を」
「フェリアさん、よろしくね」
耕助は一礼する。
「よろしくお願い致します」
フェリアが恭しく頭を垂れる。
「ヴェルディ、貴女は先任のメイドの指示で働いて頂戴」
「畏まりました」
「お、新しいメイドさん?」
耕太が汗を拭きながら入室する。
「息子の耕太です」
耕助は二人に紹介する。
「鈴石耕太です、よろしく。一応騎士って事になってるのかな。いや、貴族か」
耕太は一礼し、二人が返礼する。
「そろそろ夕食の頃合いじゃないか」
「だから筋トレ切り上げて戻ってきたんですよ」
耕太は喉を鳴らし茶を一気飲みする。
倉田が腕時計を見る。
「そうですね、本宅に準備するよう指示を」
「はい承りました」
ヴェルディが答える。紙束を取り出し、文を書き付ける。
「読み書きが出来るメイドを二名も。後でユミナには礼をしなければなりませんね」
ヘルサが空のカップを示す。フェリアが歩み寄り、茶を注ぐ。
「そうですね、手間が省けた」
耕助はラッキーストライクを取りだし、火をつける。倉田も続く。
「フェリアさん、夕食の後でいいんですが貴族から来た晩餐会や舞踏会を断る手紙を書いてもらえますか」
耕助は机に置かれた箱を指さす、大量の便せんが詰められている。
「畏まりました」
フェリアが頷く。
「では厨房で料理の支度をして参ります」
フェリアとヴェルディが一礼し退出する。
「またスミナの粥かぁ」
「だからリゾットだと思えばイケるって。兵糧よりもずっと美味しいでしょ、出汁も効いてるし」
「まぁ…… な」
耕助は煙草を取りだし火をつける。
(リゾットだって毎食なら飽きるなぁ)
内心愚痴をこぼす。
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