社交の誘い
耕助、ユミナ、ヘルサは茶を飲み、今後の農政のありかたについて語り合っていた。耕助も農業に通じているといっても政治はわからない、貴族という支配階級の支援が不可欠だ。
その点、ユミナは安心できる。自由農民の育成、ジャガイモの普及といった農業の革新的政策を受け入れ、異世界になじむよう案を出してくれる。
それに苦労くさくないのがいい、イムザは苦労人のオーラを隠せていない。話していてこっちも疲れてくる。ユミナは相手をしていて気が楽になるのだ、長時間顔を突きつけあわせるには重要なポイント。
にわかに玄関の方が活気づく、耕太達が帰ってきたらしい。もう昼も過ぎたが昼食はとったのだろうか。
「ただいま、親父」
耕太は少し上機嫌である。倉田、ジュセリが続いて部屋に入ってくる。
「お帰り、何してきたんだ」
「服を買ったんだ。胸の所が鎧になってるやつ、それと一杯ひっかけてきた」
「おいおい、真っ昼間から酒か。まさか倉田さんも」
「ええ、本職も蜂蜜酒を一杯。酔うほどはのんでいませんよ」
「倉田さんもですか、意外ですね昼間から酒を飲むタイプには見えない」
「酒は嫌いじゃありませんよ。それに案内人がいたので」
倉田は素面のようだ、まぁ蜂蜜酒なら弱いし一杯程度なら酔うこともないか。
「それで農業の方はどうなったの、進んだ? 」
耕太は椅子を引き、座る。
「簡単に言ってくれるな。まぁ進んだよ、自由農民とか堆肥作りとか」
「良かったじゃん。政治の事情で全然進んでいないかと思ったけど」
「ユミナさんがいてくれたからな、結構なやんだけど」
「ワシが居たところでジャガイモの力が無ければ無力よ。ジャガイモ、期待して居るぞ」
ユミナは微笑む。
「王都も案外人がいないものですな、近衛の兵士と商人くらいしか出会いませんでしたが」
倉田も椅子に座る、汗をナプキンで拭う。
「ええ、領主は各領地を治めるので手一杯。商人も王都を撤退し、町人も農地へ行っていますから」
ヘルサが答える。町人が畑、どこかに土地でも持っているのだろうか。
「町人ってのは土地持ちで? 」
「いえ、王都の近郊に公共の畑があります、そこで」
「なるほど、みんな出稼ぎという訳ですか」
「はい、今は食糧が高い、貨幣による収入だけでは胃袋を満たせぬのです」
「そうだ、貨幣、貨幣。服と飯の支払いは農業大臣のツケにしといたよ」
「おい、そんな話聞いてないぞ。金は父さんもカネはってない、一文無しだ」
「国王陛下からの俸給があります、ご安心を。農業大臣ですからそれなりの額が」
「そうですか。勝手につかうなよ、耕太」
「本職が言い出したのです、申し訳ない」
倉田が軽く頭を下げる。
「他人のカネを当てに酒を飲むとは」
倉田はその手のタイプには見えなかったから意外だ。
「いや、現地の食事に慣れておくのも悪くないと思いまして」
倉田はピッチャーから水を注ぎ、一気に飲み干す。
「お考えがあってのことならいいんですけど」
「無駄な出費はないよ、安心して親父」
「まぁ、無駄金を使ってないならいいんだ。なにせコッチのカネ事情はわからないから、出費はおさえるに超したことはない」
耕助は茶を飲み干す、カフェインが入ってるのだろうか、目が冴える。
「失礼します」
鎧を着込んだ兵士が入室する。鎧はしっかりと磨かれてい、階級は高そうだ。
「ユミナ様、邸宅の用意が整いました。いかがされますか」
「ふむ。鈴石、ワシは今までの話をまとめて貴族連中に伝えようと思う、一旦ワシの屋敷へ戻る。何せここには気軽に使える魔導師がおらぬ」
確かにこの屋敷で魔導が使えるのはヘルサだけ、ユミナにとっては階級が上だ。使いっ走のようには使えないだろう。貴族へ御触れを知らしめるには不便には違いない。
「ええ、話もまとまったことだし構いませんよ」
「また何かあったら教えてくれ、直ぐ参る故。それではヘルサ様、失礼致します」
「ええ、また」
ヘルサは微笑む。ユミナは兵士を伴い退出した。
女中がミカン箱ほどの大きさの箱を持ち入室する。
「失礼します、こちら農業大臣閣下へのお手紙です」
「え、コレ全部ですか」
「はい、そうでございますが」
「えーと、社交とかはアルドさんが断ってくれたのでは」
耕助はヘルサに尋ねる。
「それは国王陛下主催の話です、貴族が個別に開くものについては」
ヘルサは首を横に振る。
「出ないとマズいですか」
「異界の農業大臣、今のうちにコネクションを作りたいのでしょう。断っても構わないと思いますが」
断っても構わない、どっちつかずな言葉だ。
「アノン家でジャガイモ見学会があるからそれでいいでしょう、その時にお目見えということで全部断ります」
多少の付き合いならいい、だがここまでの数をこなすのは大変だ。それに関わりたくない『政治』ってやつが見え隠れする。
全て断る、耕助は決心した。
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