秘密兵器
これからが本番である、唯の一揆とは異なる点、革命だ。
「では、社会主義の話をしよう。叛乱にも思想があった方が結束力は強まるというものだろう」
伊藤は声を一層ひそめる。
「僕が目指す社会は平等で、自由な社会だ。そして簒奪の無い社会。貴族は今農奴から略奪を行っている。わかるかい、貴族は自ら畑を耕すことなく、君らから収穫物を奪っているのだ」
伊藤はゴブレットに水を注ぎ、一口だけ飲む。
「農奴は自由で平等な人民として立ち上がるべきなんだ。自由というのは、自分の事は自分で決められるということ、出自にとらわれないと言うことでもある。平等というのは、皆が等しく権利を持つということだ」
「権利? 」
「何をなせるか、もしくはしないか、という決定する立場にあるということだ。みな同じ立場にあるということ、王も貴族も関係ない」
「俺にはよくわからんが」
老けた男が切り出した、伸びた髭をリボンで結んでいる。この世界にひげそりなんてものはごく僅かしか流通していないだろうと伊藤は察した。
「農奴が政治を取り仕切るのか、俺達にそんな能力はないぞ」
「皆で知識を集めるんだ。議論をして、何が正しい政治か決める。皆が政治に参加するんだ、平等にね」
「村長などはいないのか」
「長は皆で選ぶ。誰が能力があり、そして皆を守れるか選ぶんだ。貴族の様に血統で決まるわけじゃ無い。皆から支持を集めるためには誠実でありつづける必要がある、だから貴族制よりも皆に寄り添った政治が出来るんだ」
「なるほど、農奴の為の政治がなされるという訳か」
キヌルは合点がいったようだ。
「そのとおりだよ。人民の為の政治だ。それをもたらすのが革命だ」
「革命……か」
「それで、あんたはどう革命までの作戦を立てる。そこまで言っているなら当然案はあるんだろうな」
キヌルは尋ねる。
「ああ、それなんだ、問題は。魔王と戦争しているだろう。革命に乗じて魔王に負けては意味が無い。誰か軍事的なリーダーが欲しい。反王の貴族とか居ればいいんだが」
「貴族に頼って良いのか、一番肝心な所だぞ。兵権を握られたら俺達農奴は勝ってこないんだ、コッチは素人だからな」
ブルが迫る。
「一時期だけでいいんだ。革命の後まで面倒を見てやる必要は無い。ジャガイモを転送するのをやめる、それだけでいいんだ。飢えた貴族の軍を農兵が倒す」
「前線はそれでいいとして、俺達はどうやって戦う。素人だぞ」
「秘密兵器がある。それを使って治安維持の兵士を倒す」
「秘密兵器、なんだそれは」
「それは秘密だ」
火炎瓶、それにパイプ爆弾が秘密兵器。同時多発的に兵糧庫、兵舎を爆破、炎上
させ、無力化する。そうすれば訓練されていない農奴でも勝ち目はでてくる。なにせ後方に居る兵士は老兵ばかりだと聞く。先ず敵を爆破で混乱させ、同時に蜂起できれば効果はあるだろう。
火炎瓶、爆弾を作る道具は伊藤宅にそろってある。
「おい、秘密って信用できるのかこの異世界人は」
若い男がヤジを飛ばす。
「この中で今後貴族に密告する者、捕まり拷問を受ける者が居るかもしれない。道具は秘にしておきたい。理解してくれ」
革命分子は極めて高度に分散化させねばならぬ。芋づる式で検挙されるリスクはとりたくない。それにこの世界で爆発物という切り札は最高位の秘密に値すると判断した。
「そうかい、肝が秘密じゃのれないね」
男が外に出ようとする。
「俺は信用している」
ブルが男に立ちはだかる。
「それにここまで聞いてしまったんだ。もう外には出せない、ここで殺すほかない」
ブルはポケットから金のナイフを取り出した。男はすごすごと元の位置に戻り座る。
(脅迫によるオルグは信頼できない。密告が心配だ。この男は後で始末する必要があるかもしれない)
「君、名前は」
「オラムだ」
「オラム、君はなにをして徴兵を免れたんだい」
「貴族の落とし子ってヤツだ。忌々しい出自だよ」
「そうか、貴族様の気まぐれに振り回された運命か。それで反貴族に? 」
「そう言うことだ」
(落とし子……貴族とつながりがあるかも知れない。こいつは始末だ)
伊藤は決心した。
(だが今ではない。今すぐ始末しては今後の革命に波がたたぬとも限らない。喧嘩でもあったかのように殺そう)
「いいかい、革命は叛乱と大きく異なる。ただ反貴族で貴族を討ち取るだけが目的ではない。国家を作り替えるんだ、そのことは肝に銘じてほしい」
皆、頷いた。
(ここからこの国を、世界を変えるのだ)
伊藤の心に火が灯る。
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