貢ぎ物と未来予知

「そうだ、伝え忘れるところだった」

耕助は今正にアノン家から帰るという時に廊下でイムザとバッティングした。


「国王陛下に何かしら貢ぎ物が必要になる、そちらの世界の技術を示せるような何かだ」

「貢ぎ物ってたいした物ありませんよ、これといった名産物のないド田舎ですから」

耕助の言葉は謙遜ではない、本心である。


「鉄の加工品でいいんじゃないの耕さん」

「王都は鉄にあふれている、無意味だ」

渡の助言もダスクによってはねのけられる。


「うーん、貴重な道具は我々も必要とするから……かみさんの宝石でも献上するか」

耕助は頭をひねる。

「まぁ貢ぎ物は後々決めれば良い」

「では一旦コッチでこの話は預かります、では」

耕助は作業帽を脱帽し礼をし、辞した。


「なぁ貢ぎ物ってなにがいいだろうな」

農協事務所へと向かう車内で渡に問う。

「こっちの世界にない物でいいんじゃないですか、プラスチック製品なんてどうです」

「確かに、樹脂はなさそうだな。その線はアリだ」

渡の提案は妥当に思える、が樹脂製品でなにがいいのか。

そういえば去年かったソーラーの壁掛け時計がある、太陽光なら電池切れの心配もいらない。それに「耕助の世界」ではかつて時計は貴重品だったと聞く、いい線いくかもしれない。


「ソーラー時計にしよう、時計は多分貴重品だ、電池切れもない」

「それだ、耕さん流石。よ、御大臣」

「はっ、馬鹿野郎」

一笑する。まぁ、これから大臣になるのは確定しているから間違っては居ないのだが。


「旅路にはだれ連れて行くんですか。護衛要員は必要でしょう」

「それな、倉田さんと耕太にしようかと思ってる」

「倉田さんは妥当だとして、どうして耕太君を」

渡はいぶかしむ。

「いやな、今耕太ははっきりいって殺気立ってる。この世界の良くない面を見てそっちに目がいっちまってる」

「確かに。最近耕太君銃やら筋トレ凄い頑張ってますよね」


原因はゴブリンの襲撃だ。この一件以来耕太はこの世界の残酷さにあらがっているようだ。銃の扱いやトレーニングに余念がない。しかし、この世界にいるのは耕助がジャガイモを普及させるまでのこと。

まだまだ若い耕太を「この世界」に合わせ、成長させるのは耕助の意にそぐわぬ。


「俺は耕太をこの世界に順応した形で成長して欲しくないんだ。王都に行くのは安全な道のりを使う筈だ、ちょっと耕太を連れ出してのんびりさせようかと思ってな」

「なるほど、やっぱこの世界で成長しても現代社会じゃ生きる技能じゃないですからね」

「お前はもともとの職業とこの世界でやることマッチしてるからいいけどな」

「そうですね、警備に聞き込みは本職の仕事でありますから」

渡はピシッと敬礼してみせる。

「あいつが警察やら自衛隊に行くってなら話は別だが、まだそう時期でもないだろ」

「まぁ、いいんじゃないですか。息抜きになると思いますよ。旅行程度に考えれば」

車は農協についた。


耕助はプレハブの戸を開く、が居るはずのマダムの姿はない。

「あれ、マダムは? 」

「最近調子悪そうだったから休んでるんじゃないですか。結構無理してたっぽいですよ」

マダムが居ないか、耕助不在の穴を埋めてもらおうと思っていたが無理がありそうだ。

「マダム、どうも魔導が使えるっぽいんだ」

「それ、聞いては居ますが本当ですか」


「どうも未来視ができるらしいんだ。ただそれが暴走してるらしく、頭痛やらが出るらしい。ちょっと魔導師として訓練して、使いこなせるようにならないとこの世界キツいかもな」

「元々あの人の勘鋭かったですもんね、あれ魔導だったのか」

渡は合点がいったようで、一人で頷いている。

「ってことは現代の超能力者みたいなのってテレビの演出じゃなくて、こっちの世界の魔導に相当する力だったのかもしれませんね」

「あー、なるほど。そういう線もアリだな。ユリゲラーとか宜保愛子とか魔導師の資質があったのかもしれないな」

しかし、そうだとして耕助の穴埋めをしないといけないのは確かである。誰が適役であろうか、耕助は頭をなやます。

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