王都にて

 王都の中心、宮殿。この世界において神聖なる鉄のレリーフが至る所に飾られたこの場所は正にこのヘルゴラント王国の中枢である。情報が日々舞踏会の如くあっちへいったり、こっちへいったり、あるいはどこにも行かなかったりしている。


「国王陛下、重要なお話が御座います」

 アノン家から使わされた執事、アルドが玉座の後ろから王へと語りかける。王はつねに鉄家御三家からなる忠臣から使わされた執事をはべらせている。緊密な情報のやりとりが目的であり、王の玉座の後ろに座していると言う事は彼らへの信頼のあつさを物語っている。背後から突かれぬという信頼を寄せている証だ。


「ほう、なんじゃ、なんじゃ」

 王、ベルモガ二世は周囲を伺いながら小声で答える。王は『呆けた』ふりをする。生前退位をスムーズに運ばせると同時に、この『乱心』に乗じて王家を狙わんとする不忠の輩をあぶり出す謀略を図っている真っ最中である。従って正気の所を御三家の執事以外に見せることはあってはならないのである。


「第二号勅令を巡り参謀本部とアノン家、そして軍神ダスクが反発しております」

 アルドは一切の感情を交えること無く語りかける。

「第二号勅令、ジャガイモをこの王国に根付かせる命令だな。何故、反発しておる」

「は、参謀本部は最低限のジャガイモの収穫をもって、魔王軍に攻勢をしかけ早期終戦を図っております。一方でアノン家、ならびにダスクはジャガイモの普及を待ち、その後決戦を強いる作戦を推しております」

 アルドはアノン家から派遣されたものの、客観的に物事を語る。王の『耳』としてふさわしい振る舞いである。なにがしかの勢力に肩入れした報告は誤った判断のもととなる。


「ふむ、これは戦略レベルでの方針の相違よの。難しいな。現場は拙速を、後方、さらにダスクは慎重を図れと」

 ダスクは青銅家にして、王からすこぶる高い評価を受けている忠臣である。彼がいなければ今頃王都が戦場になっていても不思議では無かったからである。

「は、その件につきましてアノン家とダスクが異世界人を爵位に推挙、ジャガイモ専従大臣として生産、流通をコントロールする計画を練っています」


「なんともまあ、奇抜な発想だ。まだ勅令二号はたいした成果を挙げておらぬ内から要職につこうというのか。いささか気が早いのではないか」

「現状、ジャガイモの第一期目の栽培が終了し、収穫が始まっています。それを守る為の行動かと」

「ふむ、種を守りたいわけだな。ふむ、参謀本部、アノン家、どちらを選択すべきか・・・・・・」


「国王陛下、先だって行われた実験ではジャガイモはこの地での生産に適しているようです。また魔王軍を倒した所で農兵を帰農させ、国家を復興するにはジャガイモの力が必要です」

 だがグンズ家より派遣された執事が反発する。

「僭越ながら陛下、魔王軍の撃滅後にジャガイモの普及を行っても遅くはありません。むしろ飢えを原動力に帰農した農兵が一層農業に励む可能性もあります」

 アノン家、グンズ家の執事が相対する具申をする。


「ワシはジャガイモとやらに国家の命運を賭けている。普及は必要不可欠と認める。アルド、異世界人の爵位推挙を認める。王都に遣わせ、どれほどの人間か確かめたい。確か名前は・・・……」

「スズイシコウスケという名です」

「そうだった、スズイシじゃ。そやつを直接連れてこい。ジャガイモについて直接聞きたいこともある」

「はっ」

「それとジャガイモの現物があればワシも食ってみたいところだ」

「承知しました、そのように本家へ伝達いたします」

「そやつがワシの目にそぐわない場合はグンズ家の言う速攻戦略をとることとする。他には」

「以上で御座います」

「そうか、下がれ」

 

アルドが玉座の後ろから引く、グンズ家の執事も表情を変えることなく引いていく。

  王の耳は常に冷静であれ、その掟を守っている。

 が、内心は本家の意とそぐわぬ決心を『勝ち取られた』ことで悔しさと同時に本家より下されるであろう叱咤を忌々しく思っているに違いない。


 かくして耕助は異世界の王の前でジャガイモの有用性の売り込みのキーパーソンとなった。ヘタをすれば参謀本部の意向通りジャガイモの早期接収を現実としてしまう。そんな大役を任ぜられたのである。



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