革命軍の作戦
「革命軍にも魔導師が欲しいな、お父さん下級とは言えど魔導師だったんでしょ。何か案はないかな」
伊藤は呟いた。魔導師は現代技術を超える能力がある、また攻撃能力も有しており目の上こぶなのである。
「今はどこもかしこも魔導師が徴兵されてるからな。前線に居ても革命に使えないし、後方にいる連中は忠誠心の高い、秘蔵っ子だと思うぜ」
確かにそうである、アノン家のメイド達もそれなりのバックボーンのある連中であり、アノン家への忠誠心はかなり高そうである。
「いや、前線にいる人間を動かす方法はあるよ。家族でも親しい人間をこっちでおさえれば良い」
「おさえるって事は拉致か」
「そうだよ。親しい人間が後方にいる分作戦は大分やりやすくなるはずだ。なに、王国軍と戦えと命ずる訳でなくてもかまわない。魔導を使わず、『何もしない』だけでも効果はある。戦力としての魔導師は怖いからね、連中をおさえられるだけで効果は絶大だろうよ」
伊藤は心を平静に保ったまま、この計画を発案した。そこに平素から見せる好好爺の姿は無く、一人のテロリストがいた。
「でもそれじゃ革命が終わったらどうする? 王国は消えても魔導師が死ぬわけじゃない、返って魔導を使って王の座を狙う輩が増えるだけだと思うけどな」
「なに簡単さ。拉致した奴らを味方につければいいんだよ」
「拉致した人間を味方につけるだって」
「そう。きちんと食事を与え、革命の理念を伝える。食事は効果あると思うよ、今は飢饉だろう。餓えに一番効くのが飯だ。それに魔導師はこの社会を支える基盤だ。革命が終わっても彼らの役割はそう変わらないだろう、魔導師は絶対に味方につけないといけない」
魔導師を中心とした革命が必要かもしれない。伊藤はそう考えた、がそれが魔導師エリート中心とした不完全な革命となるかもしれない。
どうするべきか、確たる革命像が浮かばない。異世界で絶大なる力を発揮する魔導師を活かし、自由平等の社会を築けばその社会は発展するだろう。しかし、その力を恐れるあまり皆殺しにしてしまうのはポルポトの再来である、さけねばならない。
「社会に貢献した分だけ受け取る利益も大きくなるからな、魔導師が受け取る利益が大きいことも広く知らしめなければならないだろうね。それに魔王軍に背中から刺されないよう、前線を守ってもらわないといけない」
「難しいものだなぁ革命ってのは」
「難しいよ」
その言葉には重みがあった。
かつて日本で革命を志していた伊藤にとって、革命は困難なものであるとの認識が込められていた。
革命、それは人心、組織、そして力があってこそ生まれるものである。かつて日本では大学生達が大衆の理解を受け入れることなく、暴力的革命を推し進めた結果革命は頓挫した。
今回の革命では革命の概念すら知らない農奴と、絶対的な力を有する魔導師の支持を獲得しなければならない。
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