第14話 『別れと誓い』(執筆者:美島郷志)
城を抜けるのは至難の業だったが、スノウ様の導きもあって無事に出る事ができた。と言っても状況は最悪で、私たちは僅かな水と食料だけをなんとか確保して、城下町から少し距離のある離れへと堕ち伸びてきた。
険しい山道を登り、崖を壁伝いに歩いていく。こんな場所を選んだのは他でもない、女王様だ。
「お姉さま! 一体どこへ向かわれるのですか!?」
「いい隠れ場所があるの! 黙ってついてきなさい!」
下を見れば足が震える。私と南方さんはできるだけ、お互いの顔を見合わせて先を進んだ。
しばらくして、女王様が小高い丘を登りきったところで立ち止まった。
「はぁ……はぁ……ここは?」
女王様の隣に立って、目の前に現れたのは古びたピラミッドのような建造物。黒い石を積み上げられ、対角線上に四本の丸い柱がそびえたつそれは、まさしく遺跡と呼びたくなる趣だった。
「……ここ、私が女王様と出会った所だ。」
南方さんが眠そうな目を擦りながら呟いた。女王様はその言葉に頷く。
「そうよ。そして、私がジョーカーと出会った場所でもあるわ。」
「えっ……お姉さまとジョーカー様がこんなところで!?」
驚くスノウ様を残して遺跡へと駆けていく女王様を追いかける。
遺跡の階段を駆け上がり、吹き抜けから中へ入っていく。遺跡の中は、意外にも細かな光が差し込んでいて明るい。どうやら石積みに所々隙間があるようだ。
広間には魔法陣のようなものと、その中心より少し上に台座がある。その台座に、女王様はさも当たり前のように座り、足を組む。
「……久しぶりね。辛いことがあった時は、よくここで歌っていたわね。それをジョーカーに聴かれて……あんなに恥ずかしい事はなかったわ。」
各々が思い思いに広間を観察する。壁の石はザラザラしているが、床は滑りやすく光沢が目立つ。
「こんな場所が……それにしても、これはなんなのですかお姉さま?」
「さぁ? 私が生まれる前からあるもの。よく知らないわ。」
「そんなに昔からですか? かなり古いですね。」
「えっ……女王様って幾つなの?」
「死んでも言わないわ。」
年齢を尋ねたら睨まれてしまった。たぶん、それなりにお年なのかもしれない。
「……これ何かな? ここに来た時からずっとあるけれど。」
しゃがんでいる南方さんが指先でなぞったのは、私たちの足元にもある魔法陣のようなもの。
「さぁ? ジョーカーが来た時からずっとあるけれど、調べても何もわからなかったわ。」
「へぇ……。」
女王様の言葉に、南方さんはがっかりした様子で魔法陣の線をなぞる。
その時だった。突然視界がぐらりと揺れ、直後に足元から地鳴りがこみ上げてくる。
「……何? 何が起こっているの?」
スノウ様がたじろぐ最中に、突如として魔法陣が発光し、眩いほどに輝いて視界を埋め尽くす。
「何これ!? 何が起こってるの!?」
眩しすぎて何が起こっているのかがわからない。それでも指と指の隙間から僅かに見える視界を頼りにする。
目に飛び込んで来たのは、異様な光景だった。
「南方さん!?」
「ナナミ!? あなたどうして光って……!?」
「……へっ?」
大地が響き揺れる世界で、何故か南方さんが発光していた。
「待ってナナミ、何をしたの!? いくらあなたがぼーっとしているからって!!」
「わ、わからない! 怖い、怖いよヒマリちゃん!」
「南方さん!!」
駆け寄って来た南方さんと手を握り合わせる。しかしその手には既に温度が無く、徐々に遠くに離れていくような感覚が強まっていく。
「ヒマリちゃん……私……」
「南方さん、待って!!」
南方さんの涙ぐんだ表情を最後に、その姿は残像を残して消えてしまった。掴んでいたはずの手の力を強めると、はらりと空を撫でる指の感触があまりにも虚しい。
「そんな……ナナミ……。」
女王様も、スノウ様も唖然としていた。何が起こったのか、誰一人として状況を飲み込めていないのだ。
「ナナミは……どうなったの?」
女王様の問いに答えられる者はいない。ただ一つ、南方さんが光に包まれて消えてしまったという事実だけが広間に反響する。
無言のまま、どこからか人の声が響く。それも、一人や二人ではない。
「これは……まさかもう追っ手が!?」
クーデターは終わらない。もうすぐそこまで追っ手は迫って来ている。
「……ヒマリ、行くわよ。」
女王様が私とスノウ様を交互に見つめた。スノウ様はそれに無言で頷くが、私はまだそれを受け入れられない。
「ちょっと待って! 南方さんは!?」
動揺し叫ぶ私の手を、女王様が乱暴に掴み取る。しかし彼女の瞳は、迷いのない真っ直ぐな瞳だ。
「きっとどこかで生きてるわ。もしナナミがさっきみたいにこの世界に現れたのだとしたら、元いた世界に帰ったというだけよ。今はそれしか考えられない。だからそう信じて、私たちは私たちのすべきことをするだけよ。」
握られた手は力強く、だけど少し震えていた。南方さんのことは心配だけれど、女王様のいう通り、今は南方さんの無事を信じるしかない。
私も覚悟を決めて、女王の言葉に頷いた。
「それでいいわ。さぁ、いくわよ!」
私たちは南方さんの行方に後ろ髪を引かれながら、再会を心に誓って遺跡の外へと出た。
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