28. 「頑張って」と「無理しないで」

 ひとは時に

「頑張って」

と、言って良い瞬間と、悪い瞬間がある人がいる。

 例えば。

 もう頑張り切っていて、疲れているひと。

 身体が動いている。呼吸ができている。それが奇跡のようなことで、精一杯に頑張っているひと。


 私は、よく考えてしまう。

頑張って、と言いたい場面だけど、そう言っても大丈夫なのだろうか、と。

 このひとは、それを言っても良いひとなのか、と。


 そして、同時に。

「無理しないでくださいね」

 よく、使う言葉ではあるけれど。

 それを言われた相手としては、その言葉もよく言われているのかもしれない、と。

 聞き飽きた言葉だ、と。

 そして。

 そう言われて、素直に「頑張らない」で「無理をせず」にいるひとは、どれくらいいるのだろう、と。



――現在、2021年、3月11日。

 今から10年前のこと。

 地震から始まり。

、津波、地割れや液状化に、原子力発電所の事故など、日本にとって忘れられない災害があった。

 それらを合わせて、「東日本大震災」と、後から呼ばれることになった出来事。

 「3.11」としても知られている、その瞬間。

 きっと、その当時にはたくさんの

「頑張って」と

「無理しないで」

 が、あちこちで使われたと思う。


 きっと、それと同じくらい。

 不安や絶望に押し潰されるひとも多くいただろう。

 大切なひとと連絡のつかないこと、探しにも行けないことへの歯痒さ。

 なかには、目の前でひとが津波に流される瞬間を見て、悲しみと恐怖に涙するひとも、少なくないような。そんな状況だったのだと思う。

 そうして、心がボロボロのズタズタに傷ついたひとに、どんな言葉をかけられるのだろう。


 その言葉探しに、正解も見つからなければ、きっとそれを不正解なのだとも、言いきれない。


 「頑張って」も「無理しないで」も、人によっては糧になるし、逆に負担になってしまう場合もあるだろう。


 それらの「言葉」を手探りしながら、人々は助け合い、生きていくしかない。

 きっとそれも、亡くなったひとに、天国で安心してもらうための方法の一つだと、私は想う。


 ――貴方の発したその言葉は、刃物という凶器ですか? 毛布という名の労りですか?

 どうか、世界に少しでも、相手をそっと包み込むような。そんな風に優しくなれる人が、多く有りますように。

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