21. いじめと戦わない勇気

 まずは、私の体験談から。

 

 学生時代の真ん中ごろに、私は「いじめ」と戦った。

 舌打ちやら、蔑みの言葉から始まり。

 私の周りを巻き込んでのいじめ。

 運動靴を隠されたり、上履きにいくつかの画びょうを入れられた。

 テストの悪かった点数を、たくさんの生徒がいるときに、大声で廊下に響くくらいに叫ばれたこともある。


 それでも、私は学校に通った。

 無視をしていれば。

 何食わぬ顔をしていれば。

 ダメージなんて食らっていないと、思わせられれば。

 いつか、きっと出口がどこかにあるんだと、信じていた。


 ――でも、どこにも出口は見つからなかった。


 クラスが変わっても、私にとっては大きな変化は無かった。

 担任は、「しょうがない」と言う。そして、やたらと「いじめ」の事実は隠したがっていた。

 たぶん、よくある

「自分の担当のクラスで、問題が起こった」という事実を、認めたくなかったのだろうか。私には分からないけれど。

 悪口は、ここで終わりにはならないんだ、と。

 学校に、「本当に信じられる人」が正直いない。いたとしても言えないと思う。自分の事だと尚更に。

 そうして、私は「不登校」となり、「死にたい衝動」にかられ、親に連れられ、今通っている心療内科で、「統合失調症」の診断書をいただいた。



 よく、ひとは「逃げたら負け」みたいなことを聞くけれど。「勝たなければ」という心意気を持つけれど。

 「いじめ」に関して言うと。


 ――逃げるのも、立派な勇気だと思う。

 

 自分の心を守るために、目の前から逃げだすのも、時には賢い選択だ。大切だと思う。

 世界には、いじめと向き合って。

 戦って、戦って、疲れ果てたその終わりに。その命の灯火を、自らの手で消しさるひともいる。それもたくさん。


 でも。その元の、加害者側は。きっと何も背負って生きてなんてはくれないのが、大半だとも思う。

 そういう心を持ち合わせるくらいなら、ひとを追い詰めることが、どんなに酷い行いなのかも少しくらいでも分かるんではないのか、と。

 ……だから。


 ――あなたが、消える必要なんてないんだよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る