8. 「普通」の定義 ―理解するのは―

 「普通」とは、なんだろう。なにが「普通」で、なにがそうではないのか。

 皆がみんな、普通でなくてはいけないのだろうか。



 とある意見を聞き、ふと疑問が浮かんだ。

 我が家では、二人の自閉症の兄がいて。彼らはいつも、何かしら無理難題を出してくる。

 こちらがそれに応えられないと、怒りをぶつけられる。

 穏便に一日を過ごせる日と、荒波のような日がある。

 ――それが、幼い頃からの、私にとっては当たり前な、「普通」の日常だ。



 それは今でも。案外変わってないのだから、時々疲れて、怒り返してしまう日もあるし、宥める余裕がある日もある。



 きっと、生まれた時からだからだろう。騒がしい音に、慣れているのは。

 きっと、まだまだ知らないからだろう。彼らのことばの意味を、読み取りきれないのは。



 とある偉人が、こんな言葉を残した。

「私はなにを知っているのか」

 今の自分に、問うてみる。すると。

 返ってくるのは、「さて?」なんていう、曖昧な返事だ。

 そもそも。「本人」でないひとが、そのひとの病気や、抱える不安を「100%」理解できることが、本当にできるのかといえば、答えは「NO」だ。

 仮に「yes」と答えるひとがいるなら、問うてみたい。

 「『あなた』は、どこにいるの?」

 自分の、最初の理解者は、ほかならぬ自分だと、私は思う。

 同時に、誰かの全てを知ってしまうと、時に自分の今までの考えや、人格すら、どこかへ変わってしまうのではないかと。

 それだけ、「ひと」は一人の生き物で、何かのために強くなれるし、誰かの言葉で、意外なほど脆くもなるのだ。



 ――だから。

 「全て」を理解しようなんて、そこまで思うこともないのかもしれない。そこまでしたら、こちらが持たなくなる。

 理解者は、支え役であり、止め役だ。決して「共感者」にも「共鳴者」にも、なりすぎてはいけない。

 ひとは、機械でも、微生物でも、ましてや植物でもない。

 ――人間、なのだ。

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