5. 足掻いた先に ―矛盾するひと―

とあるひとは言う。

「戦争は嫌いだ」

「戦争する人は嫌いだ」

「戦争に関わった、天皇陛下は嫌いだ」

 一概に、「正しい」とも、「間違ってる」とも、断言はできない。そういう考えは、個人の自由であるから、否定もしなければ、同調もしない。



 私は、「昭和天皇」を知らない。想像もつかない。「今」の天皇陛下、皇太子ですら、想像の範疇は超えないだろう。

 けれど。

 

 思い描くのは、いつもにこやかに、そっとひとに語りかける、寄り添う姿だ。

 ――過去は変えられない。

 けれど、時に記述と事実は、同じではない。言葉と本心だって、そうだ。

 昭和天皇だって、一人の「ひと」だ。

 ――ひとは、時に臆病で、嘘つきで、自分を守りたい。けれど、正義を信じ、綺麗なものが好きで、自分以上に誰かを守る。

 

 ――つまりは、矛盾する生き物だ。

 変えられない過去を、憎むばかりより。未来を夢見て、足掻いてみたら。

 足掻いた時は「過去」となり、見えない未来に、大切なひとがいたら。

 憎んだ過去すら、愛しい時間のうちの一部になるのではないだろうか。

 そう思えば。

 

 「今」が、もっとも愛しい時間に、なるのではないだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る