第19話 世界を救う理由

 魔王ガチャから現れたキルユーを撃退――仲間にしたあと、俺たちはソシャルの案内で街の教会へとやってきた。

 キルユーに倒されていた衛兵たちは幸い誰も命に別状はなく、教会で検査と治療を受けると俺たちに感謝を述べ、笑顔で自分たちの持ち場へと戻っていった。


 ――『貴方こそ俺たちの希望だ、勇者様』、か。


「カツキさん? ぼーっとしてどうしたですか?」


 ガチャリカが隣から俺の顔をのぞきこんでいた。

 俺たちがいまいるのは、教会の中にある客間だ。教会は街の建物の中ではかなり大きく、客間もそれに併せて広かった。

 二人がけのソファーについている。


「いや、ちょっと残してきた積みゲーのことを思い出してな」


「罪ゲー?」


「なんか違う字になってないか? 買ったままクリアせずに放置しちゃってるゲームのことだよ」


 いずれ攻略するとは決めていたが、こうして異世界に来てしまった以上は難しいかもしれない。

 俺が攻略するのを待っていただろう世界ゲームのことを思って、少し感傷的な気分になってしまったというわけだ。


「お待たせしました。勇者様。あと、おつきの女神様」


 と、客間の扉を開けて、ソシャルが入ってきた。

 教会の中で見る白い法衣は、彼女の役職を強く意識させられる。


「では、改めて自己紹介をさせてください」


 彼女は俺たちの前に来て、深々と腰を折った。


「わたくしはソシャル・スフィールド。デルマデ教の司祭をしております。この度は、わたくしの召喚に応じていただき、誠にありがとうございました」


「ほう。デルマデ教。親近感のわく教えですね」


「ソシャル。堅苦しいのはなしで行こう。俺たちは俺たちの目的があって召喚に応じたんだ。変にへりくだる必要はない」


「勇者様たちの目的?」


「ガチャです。わたし、まだ出来てませんけどね……」


「ああ。俺たちは、身も蓋もない言い方だが――ガチャをするためにこの世界に来た。べつにこの世界を救いたいから来たわけではないんだ」


「そう、なんですか……?」


「ガチャをするには目的がいる。その目的が、結果的にこの世界を救うことに繋がっているってだけだな。ひどい話だろ?」


「いいえ、報酬を求めるのは当然です。むしろ信用できます」


「そうか? ああ、まあ、そういうものかもな」


「ええ。そういうものです」


 ソシャルは柔らかく微笑んだ。


「ところで、あの……杭打ち少女キルユーは、いまどこに?」


 問われて俺は腰のポーチに手をやった。

 中からカプセルを取り出す。

 ガチャから出した、プラチナの輝きを持つカプセル――

 ただし、今は手のひらで転がせるサイズになっている。


「この中に入ってもらってるぞ」


 ガチャの塔から手に入るものは、すべて排出時のカプセルに収納することができる。

 そしてカプセルは任意の大きさにして持ち運ぶことができるのだ。

 特殊なガチャだった杭打ち少女キルユーも、例外ではないのだった。

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ガチャの攻略法 ~ガチャ欲に溺れた女神をガチャを攻略した俺が指南する~ 春日秋人 @kasuga555

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