第10話 出番のない女神

 黒い巨大な球体の中から現れたのは、パイルバンカーを右手に提げた女の子だった。

 俺の隣でソシャルがぶるりと体を震わせる。


「あれは『くい打ち少女キルユー』です……!」


 殺意の高い名前だった。

 ぼさぼさの白い髪の下、赤い瞳がこちらを見ている。


「きるる」


 細い喉からそんな音が聞こえた。

 それが開戦の合図だった。

 杭打ち少女は、手にした杭打ち機パイルバンカーをくるりと回す。

 射出口を地面に向け――

 ドガ!

 杭を射出する反動に身を任せ、こちらへと猛スピードで飛来してきた。

 空中で、杭の射出口がこちらに向けて構えられる。

 俺はソシャルを後ろに下がらせた。

 前に出る。

 俺は無詠唱で、拳の先に物理障壁を100層作り上げ、射出された杭を受け止める。

 だが100では足りないようだった。

 50層までが一気に貫かれ、60層、70層と続けて砕かれた。

 やられはしない。

 砕かれる先から障壁を追加展開して持ちこたえる。

 そして、やられっぱなしでもない。

 俺は反対側の手に魔力を込め、無防備な相手の脇腹に突きだした。魔力を相手にぶつけるだけの初歩的なスキルだが、出が早く、威力は魔力量に比例する。ガチャリカが放っていた光以上の威力はあった。


「きるる」


 杭打ち少女キルユーの目が細められる。

 ぱしゅん。

 俺の放った魔力はキルユーの体に当たるなり、霧散した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る