第4話 体慣らし

今日はしっかりと朝起きて、二度寝をせずに顔を洗って外に出て、日の光を体いっぱいに浴びた。


今日は今までで少し感じていた、この体のことだ。

この小屋は森の中ということで少し高い位置にある。その高い位置にあるこの小屋まで、前までの俺だったら普通に登るだけども息を切らしていただろう。しかし、今は息一つ、いや、まったく疲れたと感じない。

俺をこの世界箱庭に送り出す際にレミリアが運動神経などを底上げしてくれていたはずだ。



やってきたのは森と村との間にある草原。ここなら周りに気にすることなく身体検査、もとい体慣らしができるだろう。


まずは草原の端から木のフラッグを立てた約100メートルの距離の短距離走だ。時間タイムを測る道具は昨日のうちに作っている。

和也がスタート位置に着くと、金属の旗を持ったカカシのような人形がカウントダウンを始める。


「10・9・8・7─」


耳に聞こえる機械音が緊張感を煽る。短距離走なんか1年ぶりだ。


「3・2・1。スタート」


機械の旗が降ろされると同時に地面を力強く蹴る。蹴った地面は抉れ、砂埃を後方に巻き上げる。体が空気を切る感覚がする。

体感速度でどれくらいだろうか?今まで走った中で一番以外と言えないほど早かった。走るごとに体を風が通り、どんどん加速していく。気づけばゴールのフラッグはもうそこだ。


ピィッー


笛の音が聞こえた。けれどこのまま走っていたい、どこまでも、どこまでも、走り抜けたい感覚に襲われる。

機械が目の前にやってきて、その手に持っている旗をタイミングよく足と足の間に滑り込ませる。和也は地面にキスをしながら5メートルほど気持ちいいくらい滑っていった。


「イテテテ」


起き上がると機械が旗をを振りかぶり、俺の頭に標準を合わせて立っていた。


記録は5秒ジャスト。100メートルを5秒ジャストだ。地球だと世界で一位の成績だろう。この世界でもそうだが、まだ和也の記録に近い人ならかなりの数が存在する。

どんどん強くなっていく魔物に対抗するために、日夜この世界の人たちも進化しているのだ。じゃなきゃ今日まで生きていられない。


こんなにもすごい記録を出しておきながら、和也は息一つ乱さない。いたって正常だ。


(やっぱり強化されていたんだな)


心の中では少し疑っていたことが解決して大満足だ。まだ持久走とかも測りたいが、今のを見る限り1日ぶっ通しでも走っていられそうで怖い。


次は握力だ。これも和也が自作した握力計もどきを使って行う。


バキッ


握力計を握り力を込めるとどこからか鈍い音がした。

折れたのは握力計の握る部分だ。幸い折れた部分が手のひらに刺さってはいなかったようで安心した。しかし、握力計が壊れては測定ができない。

どうするかと悩んでいると、一つ頭の中に浮かび上がってきた。


(確かリンゴを片手で握りつぶせる人は握力70以上あるんだよな?リンゴは確か小屋の周りに生っていたはずだから後回しにしよう)


解決策が見つかったところで次に行こう。


次は腕力かな?これも昨日のうちに作っておいたドラゴンボ〇ルに出てくる測定器みたいなやつを使う。

基本は殴る部分に書かれた◎《二重丸》の真ん中を力いっぱい殴るだけだ。殴った後は機械音声が威力(㎏)を教えてくれる。これはかなり丈夫に作ったつもりだから壊れたりはしないだろう。

和也は息を整えて(大して乱れていないが)、息を吐くと同時に拳を的の中央目がけて振り切った。


ズバンッ


野球のミットにボールが入ったような音がした。次に—


「1500キログラムデス」


機械音がする。要は一トン近くのパンチ力ということだ。この世界でも随一だろう。たとえるとすればワンパン〇ンぐらいだろうか。

そんなに強いパンチをした割には手が少しジンジンするくらいで別状はない。

そしてこのパンチ力に耐えた機械の頑丈さに驚きだ。


ほかにも耐久力や瞬発力など、知りたいことは尽きないが今はこれだけでいいだろう。この世界には魔物という敵もいるし、いつかわかるだろう。


和也はいったん小屋に戻り大瓶を手にして村まで一走り、湖の水を汲んできて今日は半日が終わりそうだ。午後は何をしようか。



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