黒髪美少女になったけど、とりあえず人生逆転する

斎藤帝都

黒髪、爆誕

「はぁ、はぁ、はぁっ・・・・」


 夕闇の下、狭い路地の中を、俺はひたすら走っていた。途中で誰かにぶつかるが、そんなことに構っている余裕はない。


「くそっ・・・・」


鉛のように足が重いとはよく言ったものだ。もはや、下半身の感覚はほとんど無いに等しい。


「はあっ、はあっ、はあっ・・・・、ここまでか・・・・。」


既に体力の限界を超えていた俺は、走りながら、履いているジーンズの尻ポケットから、カプセル剤を取り出す。


「はあっ、はあっ、はあっ・・・」


直後、不要な動きをしたせいか、バランスを崩して自ら路上に体を叩きつけしまった。


「畜生っ・・・・」


俺はカプセル剤を口に放り投げ、躊躇なく噛み砕いた。


景色は、薄汚い路地裏から、漆黒の闇に切り変わる。


走馬灯なんて、見る暇もなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 誰かの、声が聞こえる。


「・・・・っ!・・・づ!」


若い女の声のようだ。歳は20代中盤から後半くらいだろうか。聴いていて、不思議と心が落ち着く。


「ねぇユズ!起きてるんでしょ?」


今度は、はっきりと言葉の意味が脳内で変換された。状況は全く理解できないが。


「早くしないと、遅刻しちゃうわよ!」


遅刻。なんだか平和なフレーズだ。しかし、声の主は少々怒り気味のようなので、恐る恐る瞼を開く。


「あ、やっと起きた。ユズが寝坊なんて珍しいわね。具合でも悪い?」


目の前には、やはり20代後半ほどの女がこちらを心配そうに覗きこんでいた。顔は整っていて、髪質も良い。


「まぁ、大丈夫そうね。ほら、早く準備して。幼稚園遅れちゃうよ?」


しばらく女性の顔を見つめていると、安心したのか表情を少し緩め、部屋から出ていった。そこで初めて、俺は自分が6畳ほどの部屋にいることに気づいた。そして俺は部屋にあるベッドの上で、仰向けの状態で寝ているようだ。


「幼稚園・・・?」


先ほどの女性の言葉を復唱する。幼稚園ってなんだ。いや、意味は分かる。だが、その言葉は、あまりに自分にとって不釣り合いなだけだ。


「一体なんなんだ・・・・」


窓から差し込む眩しい朝日から逃げるように、俺は部屋を出た。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 部屋から出た俺は、途轍もない違和感を感じた。まわりの物体がやけに大きいのだ。さっきのベッドもそうだし、廊下にある棚もそうだ。全てが俺を圧倒する程に大きい。


「ユズーーー!」


先ほどの女性の声が聞こえる。取りあえず、声のする方に行こう。一抹の不安を抱えながら、俺は廊下を歩き出した。


「ああ、やっときた。ほら、早く朝ご飯食べちゃって。本当に遅刻しちゃうわよ」


女性はキッチンらしき場所にいた。見渡すとリビング、ダイニング、キッチンが一体となっていて、なかなかの大きさだ。状況を飲み込めない俺は、とりあえずダイニングの椅子に座った。・・・・否、座ろうとした。しかしできなかった。椅子の後ろにある窓を見たからだ。


「え・・・・?」


少女が映っていた。困惑した表情を浮かべた、黒髪の小さな女の子が。


「ええええええええ!!??」


大きな声をだしてしまった。窓に映る女の子も、小さな口を限界まで開けて叫んでいる。同時に、後ろに尻もちをついてしまった。椅子にぶつかり、ガタン!!と音をたてる。


「どうしたの!!?」


キッチンにいた女性が慌てて駆け寄ってきた。余りに慌てていたからか、右手におたまを持っている。


「え、えっと・・・・、あ、あなたは、一体誰ですか・・・?」


頭が真っ白になった俺は、咄嗟に、ずっと抱えていた疑問を彼女にぶつけてしまった。すると女性は心配そうに、俺の額に左手を当て、


「熱は、無いみたいだけど・・・・」


心配そうにそう言った。






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黒髪美少女になったけど、とりあえず人生逆転する 斎藤帝都 @sap_123

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