第8話終了

「おい、春香!」


誰かが私を呼んだ。

その声に反応するように私は目を開けた。


「あ、浅井…」


浅井が私を呼んでいた。


「あなた何者、なの…」


私は意識が遠くにある中

浅井にこう質問していた。

どうしても知りたい、気持ち悪い。


浅井は細く白い指で私の額をスっと撫でた。

噛む癖から爪はガタガタで撫でた指は自分の黒縁メガネへ運ばれた。

メガネの位置を直し一呼吸置いて浅井は

口を開いた。


「僕は、君だ。」


浅井が言ったことはすぐには理解できなかった。


「ど、どういう…こと?」


私が混乱する姿を見ていつもの気持ち悪い笑い方をする。


「僕は存在しない、君が勝手に作り出したものだ。もう1人の君が僕で、僕は君を殺す為にきた」


そして置いてあったナイフを握って続けた。


「気付いたんだね、君が全て見た記憶は君自身だったはずだ。もう1つの君の人格が、つまり僕が死にたがってるんだ。」


私は息を飲み込んだ。


「私が全部やっていたの。でもあなたの姿がなかった。あなたが私だから?」


私アタマおかしいのかな。


「君が生きている限り僕は何度も生まれてしまう。君を殺さないと。でも君は死にたくないから意識が別れてしまった…僕の姿が見えるのは意識の違い。」


「…これ自殺になるの?」


「周りから見れば普通自殺。僕は君、なんだから」


疑問が生まれる

何で私に事実を教えようとしたの?

何で今呼びかけたの?


「僕は君なんだ、死んで欲しくない気持ちは多少ある。君が事実を知って僕を生み出さないでくれれば良かった。でも君はそうもいかなそうだったから」


あと、と付け足した


「勝手に死ぬなんて許さない。僕が殺す。」


ナイフが首に当てられる。

私は強く目を閉じ何も考えない様にした。

そうしたら浅井が消えてくれると思った。


「…何で消えないの」

「…何で体預けるんだ」


私と浅井の言葉が重なった。

浅井が震え、ナイフを一度下げた。


「殺せない…殺せない…」


そうブツブツ言いながら浅井はメガネをぎゅっと握ってる袖で雑に拭き、かけ直しては爪を噛む仕草をする。


「情けない…」


消えてもくれない、怖気付く。

なんて弱っちい私なんだ。

見てると苛立ってくる。


「殺すか消えるかしなさい」


私の言葉に浅井は目を見開く。

ナイフを握り直した彼はわたしに一言


「さようなら」


私は死んでった。


ナイフの柄を両手でしっかり握ったまま

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殺夢-サツム- 山下咲穂 @sy0930

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