第2話 浅井

「痛みは無くなったのかい…」

背中がひんやりとした。心は温水から冷水にいきなり漬けられた様にドクッと大きく動いたのがわかるほど。

後ろを見ると背丈はあるが女性の様にか細いシルエットが目に入った。

「あの…痛み、とは…?」

まさか知る訳ない、夢の事は私しか知らない。ましてやはじめましての人間だ。

でも私が見た何者かの姿に似ていた。


「あぁ、僕の事よく分からなかったんだ…」


同じ部署の、というか私のデスクの2こ斜め前に座っていた、えっと名前は…


「浅井だよ」


浅井さんが私の顔を見て名前が分からない事に気付いたのか自ら名乗った。

色白でシュッとしている。黒縁メガネが妙に似合っている。でも初対面、何を知っているの?

浅井さんが何者だったの?


「あの時の君はいい顔をしていたよ。痛い苦しい助けてって顔…綺麗な表情だった」


浅井さんの白くて細い手が私の頬に触れた。

この人、完全にあの黒パーカーの人間だ!

そう気付いた私は浅井の手を振り払った。


「私の、夢に…、何者なのよ!」


職場である事を忘れつい声が大きくなる。

でも私と浅井だけ別世界にいるかのように周りは平然と仕事をしている。どういう状態…?

まるで周りには私と浅井の姿が見えていないよう。


浅井は美形な顔に似合わず親指の爪を噛みながらクククッと気持ち悪い笑い方をしている。

そして口を開いた。

「君が見たのは夢じゃない…この先いずれ起きる事だよ。まぁ君には信じられないと思うけど。」

根拠のない話だけど怯えた。

「何を言っているの?」こう聞きたかったけど私の前にいたはずの浅井の姿はなくなっていた。


さっきまで聞こえなかった周りのパソコンを打つ音が気が付けば良く聞こえた。

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