5#女王様の湖
ハクチョウの女王様と王子様の『愛の結晶』もとい、『跡継ぎ』候補の雛達との睦まじい日々は、女王様にとって、とても楽しかった。
『魔法使いの妹子』アヒルのピッピにも、夫のカルガモと共に何代ものアヒルの子を引き連れて、幸せな日々を送った。
ガーガーガーガー
コーコーコーコー
雛たちは『醜いアヒルの子』 ごっこをして遊んで楽しんでいた。
そんな和気あいあいな日々は長く続かなかった。
女王様の子供達が成長し、みんな飛べるようになると、ハクチョウのフリード王子様が、
「この子達にハクチョウの世界を見せる修行の旅にと共に、困った鳥達を助けたい。」
と言い残し、ハクチョウの子達と共に湖を飛び去ってしまった。
無論、マガモのマガーク夫妻も他の湖で暮らしているし、オオワシのリックも故郷の北の大地で、昔の仲間と日々を過ごしていた。
今、湖にいるのはハクチョウの女王様と、アヒルのピッピとその子達、パパのカルガモのガスタ、そして『番』のカナタガンのポピンと子供達が今だ帰って来ないのを、心配そうに悲しい目で毎日空を見上げているガチョウのブンだけとなった。
唯一(長距離)飛べる、カルガモのガスタ以外、湖の外の様子が解らず、ここだけ違う空気が流れているように、ハクチョウの女王様は感じられた。
何故なら、誰も来ないからだった。
前に、大量風船飛ばしの犠牲鳥で『召使い』になってくれた鳥達が、誰一羽もごみ風船を持ってきて戻っても来なかった。
「寂しい・・・」
これがハクチョウの女王様の口癖となり、『魔法使いの妹子』のアヒルのピッピがその寂しさを一緒に、にらめっこや巣潜りっこをして遊んで癒してあげていた。
「たまには、風船膨らましたいねえ。嗚呼、風船!風船!」
「でも、切らしてるからねえ・・・あ、ガスタ君!風船見つかった?割れてるのでいいからさあ。」
「ピッピちゃん。しつこく聞いてるけど、無いよ。」
「ねえママぁ!一緒に遊んで!」
「はいはい!坊や!!一緒に遊びましょ!」
「あー!あたいだけになったー!
コクチョウのプラッキィ様は、人間が住処に競技場作られて、追い払われて路頭に迷った鳥達の慰問に行ってるし。
あー寂しぃ!!」
ハクチョウの女王様は、毎日毎日大空を眺めては深い溜め息をついた。
何故、誰も湖に来ないのか?
その原因が分かる出来事が起こった。
ぐー・・・
ぐー・・・
ぐー・・・
ハクチョウの女王様は、鼻提灯を膨らませて湖の湖畔でウトウトと眠りこけていた時だった。
ぷわぁー・・・
ハクチョウの女王様の鼻提灯は、大きく膨れるとすぐに萎み、また膨らんだ。
しゅぅ・・・
ぷわぁー・・・
ぱぁん!!
鼻提灯が特大に膨らんだとたん、大きな音をたててパンクした。
「はっ!」
ハクチョウの女王様は、目を覚ました目線。
「あれ?ツバメちゃん。何でここに?」
その先、黄色い嘴黒い先端に一羽のツバメが悲しい目でハクチョウの女王様を見詰めていたのを見た。
「迷い混んですいません・・・ここはどこでしょうか?」
ツバメは、おどおどした仕草でモジモジしながら女王様に聞いた。
「あ・・・あたいの湖にようこそ。ツバメちゃん。」
「ハクチョウさん。聞きたいことがあるんですが・・・」
「なあに?ツバメさん・・・」
「私・・・生きてていいの?」
「え?」
「私・・・生きてていいか知りたいの。
ハクチョウさんも、こんな深い霧の湖でひとりぼっちで暮らしているんでしょ?
貴女も、人間に責め立てられてこの深い霧の誰もいない湖に隠れて生きてるんでしょ?」
「何言ってるの?ツバメさん。
あたいは、確かにひとりぼっちよ。
だけど、『番』が出て行って今ひとり留守番を。」
「何で?」
「あたい、あんまり飛べないし。」
「何で?」
「あたい、事故に巻き込まれて・・・風船が絡んで・・・」
「ほら、貴女も人間に責められたんだわ。」
「何でそんなこと聞くの?ツバメちゃん?」
「死にたい・・・」
「えっ!」
「私、死にたい。もう居場所無い。」
雌ツバメは、深く深呼吸をして訳を話した。
「私の名前はアヤメ。ここから遠い街に遥か遠くの国から、子供を残そうとやって来たの。
人間のいっぱい住む場所の上に、私とこの場所に来た『伴侶』と一緒に巣を、せっせと作ってたの。
でもね、作っても作っても作っても作っても、その人間の住民にせっかく作った巣を壊して・・・」
ツバメのアヤメの目から涙がほろりと溢れてきた。
「ど、どおして?」
「ハクチョウさん・・・私、人間に嫌われていたの。
仲間はかつて、人間に寄り添ってたって・・・でも、今は人間の『敵』にさせられて・・・他の仲間もまた・・・巣を壊されるどころか、人間に殺され・・・一緒に長旅を苦楽を共にした仲間が・・・そして・・・」
「まあ!」ハクチョウの女王様は絶句した。
「私も・・・せっかく生んだ卵も雛も・・・巣ごと落とされ・・・『伴侶』も私も人間にしつこく虐められ・・・うわああああ!!」
ツバメのアヤメは嗚咽した。
「いいよ!いいよ!貴方は『伴侶』もいるし、人間に虐められも居場所もあるし!
ひとりで居られる居場所あるし!
私は・・・居場所探して・・・巣を作れる居場所探して・・・でも『伴侶』が居ないから・・・居場所探して・・・そしたらここに・・・!!」
その時、ハクチョウの女王様ははっ!と気付いた。
結界。
ハクチョウの女王様は、この湖に部外者は誰も来られないように『魔力』で結界を貼っていたのだ。
その『結界』が段々濃くなりすぎて、一旦ここに出ると、この湖に居たことも、ここにいる鳥達の存在さえ脳裏から消えるようになってしまったのだったのだ。
そもそも、『結界』を貼ったのは自身が『飛べない』のを他の鳥達に馬鹿にされるのが怖かったことと、飛べた頃に他のハクチョウの群れに『偽リーダー』として、とても酷く虐め抜かれたトラウマがあったからだ。
ハクチョウの女王様は、心を閉ざす為に『結界』を貼った。
今では、迷い混んでくる鳥達や風船被害に逢った鳥達に出会う度に、「傷付いてるのはあたいだけじゃない!」ことに気付き、門戸を少し開こうと思った矢先の肝心なことに、やっとハクチョウの女王様は気付いたのだ。
「ツバメさん・・・どんなに人間なんかに虐められても、居場所が無くても、『死にたい』なんか思わないで。
あるじゃん。『ここ』が。
『ここ』があなたの居場所よ。
次の渡りの時までここで暮らそうよ。
で、渡った先でまた新しい『伴侶』見付けたら、この湖のどっかに・・・」
「大丈夫よ!またどっかに優しい人間がいる場所を探して、巣をこさえるわ!ありがとう!ハクチョウさん!心が晴れたわ。」
「あら?ツバメさん。胸に風船の破片が。」
「これ?人間に追い払われた時、水風船をぶつけられた跡だと。」
「水入りの風船ね。どんなの?」
「ちっちゃいの!」
「じゃあ、その風船ちっちゃいからツバメさんでも膨らませられるね?」
「ハクチョウさん?何しようと?」
「せっかくだから、『儀式』しよ。逢った印に。
これから、ツバメさんもあたい達と『愛の仲間達』よ。うふ。」
「でも、割れちゃってるわよ?」「大丈夫!あたい『魔力』あるんだから!あたいが再生して息をぷーしよ!」
「私、肺活量あるかしら?」
・・・・・・
「ピッピ!ピッピ!お願い!」
「なあに?女王様ぁ?」
「今からここの『結界』をちょっと薄くするの手伝って!」
「何で?それ、女王様が・・・」
「いいの!つべこべ言わないで、あんたも手伝うのっ!」
「はぁーい!」
ハクチョウの女王様とアヒルのピッピは、翼を大空へ向けて大きく拡げ、息を思いっきり、
すぅーーーーーーーーーーーっ!!
と、吸い込んだ。
「はい!もういちど!!」
すぅーーーーーーーーーーーっ!!
2羽は外気の空気を吸い込み、何とか『結界』を薄くするように唱えた。
そんな日々が続いたある時・・・
ばさばさばさばさばさ・・・
「ん?」
『結界』を吸っているハクチョウの女王様は、白い集団が外から女王様に向かって飛んでくるのを感じた。
ばさばさばさばさばさ・・・
「ややっ!あ、あなたは!!」
「女王様ぁーーーー!!ただいまーーーーー!!」
「王子様ぁーーーーーーー!!」
その白い集団は、メグ女王様の子ハクチョウ達を連れて修行の旅に行ってきたフリード王子様だった。
「きゃあーーーー!!会いたかったぁーーーー!!!」
メグ女王様は、フリード王子様を大きな翼で抱き締めた。
「母上様ぁーーーー!!」
子ハクチョウ達も、母のメグ女王様にみんな飛び付いてきた。
「うわあ!大きくなったねえ!みんな!ママ嬉しいよお!」
「ねーねー!母上様ぁ!ぼくね!」
「わたしよ!わたしの話聞いて!」
「俺!」「あたし!」
ワイワイ!がやがや!
「はいはい!順番よ!!順番に聞きますよっ!」
どの子供達も目を輝かせて、王子様との世界巡回の旅での経験話を、女王様に聞かせた。
・・・いいわねえ。遠くまで飛べるのは・・・
・・・もう、あたいは怖くて飛べないけど・・・
・・・だいたいあたいは『キジ並みの飛行』しか出来なくなってしまったし・・・
・・・これも『魔力』の代償ね・・・
「子供達、みんな無事に帰ってきたことが嬉しいの。
この旅の貴重な経験を行かして、あたい達の跡継ぎになってね・・・」
「はーい!ママ!」
「あのー、パパの旅の話まだなんだけどぉ。」
「あ、王子様は後でねっ!」
「あー!!ポピンちゃんが帰ってこなぁい!我が子も帰ってこなぁーい!
女王様の王子様は帰ってきたのに、一向に僕の嫁が帰ってこなーーーいっ!!」
ガチョウのブンは、空を茫然と仰いで妻のカナダガンのポピンとその子供達の帰りを待ちわびていた。
「あー来ない・・・」
ぷくぅー。
「こなーーい!」
ぷくうううううーーーー。
「ああーーーっ!!来なぁーーい!!」
ぷくうううううううううううううーーーーーーー!!
「?!!」
ガチョウのブンは、側面に何かが迫ってくる気配を感じた。
「な、なんだぁ?うわっ!」
ぷおおおおおおおおおーーーーーー!!
「ぶふうううううううう!!つ、潰されるううううう!!」
それは、どんどんどんどん膨らんでいく赤い風船だった。
ぶふううううううううーー!!
「むぎゅううううううう!!ん?!」
顔を押し潰され、目の前の風船の中を見てガチョウのブンは驚いた。
「ああっ!君は・・・!!」
ばちぃーーーーーん!!
「ぎゃあああああああたあああああああああたああああああいいいいっ!!!!」
風船は膨らみすぎて、ドテかいパンク音を響かせた共に、破片がブンの額に跳ね飛んだ激しい激痛で、ガチョウのブンは思わず飛び上がって発狂した。
「ブンちゃーん!ただいまぁー!」
割れた風船の吹き口をくわえてカナダガンのポピンは、満面の笑みで酷く怯えるガチョウのブンの背中をポン!と翼で叩いた。
「ぎゃあっ!・・・
・・・ん・・・?
あ・・・ああ!
お帰りーーーーっ!ポピンちゅわーーーーん!」
ぶぶぶぶぶぶぶーーーーー!!
「?」
ガチョウのブンは、頭の後ろに何かが当たって、風船が萎む音が聞こえた。
ぽとん。
「あっ!き、君は!大量風船騒ぎにいた・・・!」
一羽のマガンが、ニヤニヤしながらブンの体から転げ落ちた萎んだ緑色の風船を拾った。
その後ろには、ブンとカナダガンのポピンの子に加え、見知らぬガンの子供達がワイワイとはしゃいでいた。
「ポピンちゃんまさか・・・旅先で・・・」
「うん!たまたま。はぐれちゃったんだって。で、駆け落ちしたの。うふっ(にこ)。
お陰でベスタさんと子供達と皆で、飛べないあなたでは出来なかった念願の『V型形態飛行』楽しめたわ。」
「はぁーい!飛べないガチョウさん久しぶりぃー!可愛いポピンちゃんの夫のマガンのベスタでーす!
俺達愛し合ってまーす!ねー!」
「ねー!」カナダガンのポピンはマガンのベスタに嘴でキスをした。
ガーーーーーン!!
「ふ・・・不倫!!」
ガチョウのブンは、ショックで硬直した。
ぷぅーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーっ!!
「わーい!父ちゃん!!もっと膨らませて!もっと膨らませて!!」
ブンとベスタの子供達は、マガンのベスタが息を吹き込んで大きく膨らます緑色の風船に歓声をあげた。
そして、まだ硬直しているガチョウのブンにどんどん近づけて・・・
ばぁーーん!!
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「あーっはっはっはっはっは!これは愉快!!」
マガンのベスタとカナダガンのポピンは、腹を抱えて大爆笑した。
「ぐ・・・ぐぬぬぬぬぬぬ!!おのれ・・・マガンめ・・・
おい!不倫マガンのベスタ!!」
「あはは!なぁーに?臆病ガチョウさん。」
「ポピンちゃんとどっちが番に相応しいか、素潜り対決を申し込む!!」
「ああいいよ!どっちが長く潜れるかだろ?ああ!受けて立つよ!どーせ、弱っちいガチョウがすぐ揚がるけどな。ははは!」
「なにぃ!!やって見なきゃ分からないぜ!ほら来い!」
「はーい!」
2羽は、湖の真ん中へ泳いでいった。
「じゃあ、いくぞー!!素潜りせーのっ!それっ!」
ガチョウとマガンは、息を大きく吸い込み頬を膨らませて、思いっきり水底に潜ろうとした瞬間
・・・ばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさ・・・
バシャ!!バシャ!!バシャ!!バシャ!!バシャ!!バシャ!!バシャ!!バシャ!!バシャ!!バシャ!!バシャ!!バシャ!!バシャ!!バシャ!!バシャ!!バシャ!!
「な、何だぁ?!」
飛んできた無数の鳥達が、ガチョウとマガンのいる湖に向かってどんどん着地してきたのだ。
「女王様ぁーーーー!!ご結婚おめでとうございまーーーーす!」
「女王様ぁーーーー!!ご結婚おめでとうございまーーーーす!」
『結界』が薄くなったとたん、ハクチョウの女王様が番になったことを聞き付けて、湖に行きたくても行けなかった、いや、聞いてたがすっかり忘れそこをたまたま通って思い出した、元大量風船騒ぎの当事鳥達が、結婚祝いにどんどん湖にやって来たのだ。
「これはいったい・・・!!」
ガチョウとガン達は目を丸くした。
鳥達は、各々膨らませたゴム風船やマイラー風船を持ち、全員ハクチョウの女王様の側へ詰め様!ご結婚おめでとうございまーーーーす!」
ぽーーん。
鳥達は一斉にハクチョウの女王様へ、持ってきた風船を渡した。
「ど、どしたの?あ、ありがと!」
ハクチョウのメグ女王様は、突然のサプライズに困惑しながらも、周辺に舞っている風船を嘴で、大喜びでどんどんキャッチしまくった。
「わーい!風船!風船!俺も取っていい?」
ハクチョウのフリード王子様も、おおはしゃぎで舞っている風船を取りまくった。
「あーっ!ハクチョウの王子様だ!フィアンセね。」
雌鳥達は、嘴に何個も風船をくわえるフリード王子様に、うっとりした。
「きらーん!」
調子に乗ったフリード王子様は、風船を下に置くと雌鳥達に向かって、ニヒルな笑みを浮かべた。
「キャー!痺れるぅー!!」
雌鳥達は忽ち、クラクラとのろけた。
ぱぁーん!
「ぎゃあああっ!」
ぱぁーん!
「ぎゃあああっ!」
鳥達の集団がやって来てから、マガンのベスタと離れてしまいさまようガチョウのブンは、周辺に転げた風船が拍子でパンクする度に、叫び声をあげた。
ばさばさばさばさばさ・・・
ばしゃっ!ばしゃっ!
「おい!ガチョウよお!相変わらず風船苦手だなあ。」
「あ、マガモ・・・君、マガークか!久しぶりだなあ。お!妻のクーコちゃん!うわあー!お子ちゃまもこんなに大きくなってぇー!」
ガチョウのブンはハイテンションになって、マガモのマガークとクーコに戯れてた。
と、同時に何かが心に沸いてきた。
「アヒルちゃんどうしたんだろ・・・?
そうだぁマガークぅ、アヒル知らなーい?」
「ごめん。今さっきここに着いたから、知らんがな。」
「そっか・・・」
ガチョウのブンは、再び湖を鳥達を掻き分けてさまよった。
ブンはふと空を見上げると、また次々と鳥達が舞い降りるのを見た。
カモメのスターオと『風船カモメ倶楽部』の連中、
カワウのパルスとパーチ夫妻とキンタ、
そして・・・
「お、オオワシの・・・リック!リック生きてたんだ!
オオタカのピケだ・・・!あれ?でっかい風船掴んでる!
リック・・・あ!後ろに!」
ガチョウのブンは、オオワシのリックの側に、いつか出逢ったタンチョウのリサやオジロワシ、エゾシマフクロウ、ワタリガラスといったここでは珍しい北の鳥達が付いてきているのを見た。
更にその後ろには、
「コブハクチョウのフッド・・・と・・・ユジロウさんと・・・コハクチョウのチエミちゃんと・・・ランスウミキ3姉妹・・・と!!」
突然、ガチョウの目から涙がこぼれた。
・・・こいつらの出逢いが、臆病な僕を変えたんだ・・・
ガチョウのブンはそう思うと、最愛のアヒルのピッピへの思いは風船のように更に膨らんでいき、今にもパンクしそうになり、胸が苦しくなり居ても立ってもいられなくなった。
「ピッピちゃん・・・どこに行ったんだろ?」
ぷぅーーーーーっ!!
ハクチョウの女王様は、割れた風船を拾うと噛んで『魔力』で再生させて息を入れて膨らませて。ぽーん!と、雄鳥達に投げ与えた。
「わーい!!女王様の風船!!俺が取る!!」
「僕のものだ!!」「いや、俺だ!!」
たちまち、女王様の唾入り風船に雄鳥は一斉に群がり、争奪戦が始まった。
「やあねえ!雄って。ねえ、王子様!!あれ?」
メグ女王様はフリード王子様の方を向くと・・・
ぷぅーーーーーーーっ!!
「きゃーーーーーーっ!!王子様の華麗な風船の膨らましっぷり、素敵ぃーーー!!」
「きゃーーーーーっ!!ちょうだい!!その風船ちょうだい!!」
「はいよ!!」
ぽーん!
ハクチョウのフリード王子は、膨らませた風船を口で結えて雌鳥達に投げ与えた。
「ヒャーーーーーー!!あたし!!あたし!!」
雌鳥達は、一目散に王子様の膨らませた風船に群がって、取り合いになった。
「ねえフリード、風船どうしたの?」
女王様は聞いた。
「俺が割れてたのを噛んで再生させたんだよ。メグちゃん!」
「まっ!」
・・・フリード王子様に、あたいの『魔力』が与えられたの・・・?
・・・キスの時・・・?
・・・王子様と『まぐわった』時・・・?
・・・どちらにしろ、何だか嬉しいような・・・
・・・これから2羽の『愛』でこの湖を守っていく気持ちが撒いてきたわ・・・
「メグちゃん、泣いてるの?涙出てるよ?」
「だ、大丈夫よ。嬉しいの。王子様といるの・・・」
「俺もそうだよ・・・」
ハクチョウの女王様と王子様が互いに大きな翼で炊きあったとたん、周囲の鳥達は、
「ひゅーーー!!」
「お幸せにーーーーー!!」
と、はなむけの声をかけた。
「ママー、僕達も風船欲しいー!!」
ハクチョウの女王様と王子様の子供達は、女王様にせがんだ。
その時・・・
ぱらぱら・・・
萎んだ風船が、空の上からどんどん降ってきた。
「なんだぁ?」
遅れてやってきたコクチョウのプラッキィが叫んだ。
「わーい!風船!!風船!!」
ハクチョウの子供達は大はしゃぎした。
早速、オジロワシのクナシが堕ちてきたピンク色のゴム風船を膨らまながら、空を見た。
「ペリカン?!」
ばさ・・・ばさ・・・
「おーい!!ハクチョウ夫妻!!ご結婚おまでとうーーーー!!」
「俺?」「私?」
コブハクチョウのユジロウとエミコ夫妻、
コハクチョウのチエミとケチーロ夫妻は答えた。
そして、再婚したコブハクチョウのフッドとレミ夫妻が言った。
「チガーウ!!あの女王様と王子様のロイヤルウェディングだよーーー!!」
既に、落ちてきた風船に息を入れている鳥達もいたその中で、大きく紫色の風船を膨らませたコウノトリのコーはその声を聞いて叫んだ。
「えっ?フラミンゴ?!」
「そうだよ?フラミンゴだよ!!『ショー』って言うんだ!!」
「くひょ!」
目の前にフラミンゴのショーがいたことにビックリしたコウノトリのコーは、思わず膨らませた風船を離して、ぷしゅーーーーーー!!とフラミンゴのショーの長い脚に風船が当たったまま萎ませてしまった。
「コウノトリさん。そんなにビックリしないでよ。君も珍しい鳥じゃん。
あ、もう一度この風船膨らませて?」
「ペリカンさん、どうしたの?この大量の風船。」
ペリカンのバルチは、コクチョウのプラッキィと問いに答えた。
「それはね・・・」
・・・・・・
「おーい!!ジョイ!また風船盗まれたのかよ!!」
ヒヨドリのビアは、おいおいとショックで大泣きが止まらない風船割りガラスのジョイを労った。
・・・・・・
「いーけないんだぁーあ!!いーけないんだぁーあ!!」
頬被りカラスのエッジが、既に膨らまし割った黒い風船をくわえて尻上がりの声で囃し立てた。
「お前もひとの事言えないぜ!『尻上がり』!!」
「あ。」エッジは硬直した。
「まあ、カラスのジョイに弁償しろよ。ペリカン。」
「はーい。」
「じゃあ、皆でペリカンさんの持ってきてくれたゴム風船で遊んじゃおう!!」
ハクチョウの女王様は号令をかけた。
「わーーーーーーーい!!」
いつもは静かなこの湖に、風船膨らむ音や割れる音がこだました。
「みんなぁーーー今日は無礼講よおーーーーー!!」
ぶぶぶぶぶーーーーーーー!!!
ドスン!!
「イテテ・・・」
「おい!!ガチョウ!!ちゃんと前を見て歩け!!」
ガチョウのブンは、オオワシのリックに貰ったクマタカのマークが『魔力』で繕った超巨大風船を膨らますのにチャレンジしている、エゾシマフクロウのエトロにどやされた。
「ごめんなさい!シマフクロウさん・・・
で、アヒル見かけませんせした?」
ブンは聞いた。
「知らん。」「分かりました・・・」
とぼとぼ・・・
とぼとぼ・・・
「あ!いた!!アヒルさーーーーん!!」
「あら?ガチョウさん?」
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