4#ハクチョウの王子様
「か・・・『カワウ一掃作戦』だってぇ!!」
ハクチョウのメグ女王様は、悲鳴に似た大声を発して激しく仰天した。
「はい。あたしは、家族や仲間を人間に寄って集って全員根刮ぎ惨殺されました・・・」
湖にやって来た、終始下を向いて項垂れている雌カワウの話に集まった湖にいる鳥達は絶句するしか無かった。
「老若男女・・・皆笑って仲間を首閉めて踏みつけて・・・あたしの暖めてた卵も『悪魔の氷』(ドライアイス)で中の雛を殺されて・・・みるみるうちに、コロニーが地獄に・・・うううう・・・ うううう・・・ママぁー!パパぁー!みんなぁー!あたいだけ生き残ってごめんねぇーー!うわああああーーー!!」
雌カワウは、突然激しく泣きわめき嗚咽した。
「まあまあ、泣くなよ・・・みなしごカワウちゃん。
みなしごなのは、君だけじゃないんだよ!私だって、私だって、私だって・・・」
「クッコちゃん、どうしたの?」
ガチョウのブンは、雌マガモのクッコが突然項垂れて涙をボロボロながしているのに気付いた。
「ブン、クッコちゃんはね、鳥インフルエンザの疑いをかけられて、沼地の鳥仲間を一羽残らず全員人間に殺されたのよ。
言わなかったっけ?その話。」
マガモのマガークは、自身の妻のクッコを優しく宥めた。
「全く・・・!人間は身勝手すぎるよ!俺の故郷だって、漁場が荒らされるって漁師の人間どもに仲間を殺されたんだ!カワウに生きる権利を与えろ!!ってんだ!!」
「おいらのとこも、仲間が根刮ぎ人間に殺されて命からがら、おいら達の住むコロニーに移り住んだカワウ家族がけっこういたぜ・・・」
雄カワウのキンタとパルスも、雌カワウの話に怒りを露にしたが・・・
「でもこの雌カワウちゃん・・・!!」
「すげえイカス・・・!!」
ほわわわわ・・・ん・・・
「やあねえ。雄のカワウさん達、デレデレしちゃって!」
アヒルのピッピは、呆れるように言った。
・・・あたい・・・
ハクチョウの女王様に、突然ある疑念が想起された。
・・・あたい、つがいいない・・・
・・・雄のハクチョウいない・・・
・・・あたい、ひとりぼっち・・・
・・・あたい、『ハクチョウの王子様』に逢いたい・・・
「女王様!女王様!何ボケーッとしてるの?ちょ、ちょっと!やんないの?例の『儀式』って!」
カナダガンのポピンは、嘴から息をハアハアさせて、ハクチョウの女王様に言った。
「まあまあ、そんなに興奮しないで。じゃあ、やるよん!『儀式』を!
コクチョウさん!例の物を持ってきてー!!」
ガサガサ
「はいっ!風船!!」
「ふ、風船だってえ!!ぎゃあああああああ!!風船嫌ああああああああ!!」
雌カワウは、激しく取り乱して泣きわめいてバタバタ暴れた。
「嫌あああああ!!風船嫌ああああああ!!」
「パーチ!!パーチ!!落ち着け!!落ち着け!!女王様あ!!それ、『儀式』とはいえ無神経すぎませんか?
この雌カワウ・・・パーチって娘は、住んでたコロニーに悪魔の氷(ドライアイス)を入れた風船を人間に仕込まれて、どんどんコロニーに住む仲間を惨殺されていったんだ!
パーチちゃんが暖めてた卵まで、風船の悪魔の氷に冷やされ、凍死させられて・・・」
「ちくしょう・・・風船をカワウを殺す凶器に使うなんて・・・人間はどこまで横暴なんだ・・・」
雄カワウのキンタとパルスは嘴で舌打ちした。
「パーチちゃん・・・」「パーチちゃん・・・」
「なあに?」
「一緒に番いに!」「一緒に番いに!」
「ええ??」
雌カワウのパーチは慌てた。
・・・番って何よ・・・
・・・何処で卵を産むの・・・
・・・また人間に、卵を冷やされて潰されるのが関の山よ・・・!!
また雌カワウのパーチの目から、涙が溢れた。
「ううっ・・・ううっ・・・ぶっ!むぎゅっ!」
雄カワウのパルスは、突然背後からパーチの嘴にキスをしたのだ。
「あーっ!パルス!抜け駆けするなよ!ぶちゅーっ!」
今度は雄カワウのキンタがパーチにキスをした。
「むぐぐ・・・!!いやん!何するのよ!」
ぷぅーーーーーー!!
「おい!キンタ!!何俺の許嫁に息を吹き込むんだ!
ディープキスとかしやがって!風船じゃないんだぞ!」
「ふ、風船?!嫌ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーー!!風船嫌あああああああああああーーーーー!!」
また雌カワウのパーチは、奇声を張り上げて激しく暴れまくった。
「や、やめろ!やめろよパーチちゃん!!暴れたって、何も解決しないぜ!」
「悪かった!ごめん!つい・・・」
「いいわよ・・・悪いのはあたしよ。トラウマを他の鳥にぶちまけるなんて・・・あたしまだ心が弱いのよ・・・」
「そんなこと無いよ。『君』は『君』だよ。
トラウマなんか、僕が払ってあげるよ。」
「何いってるんだパルス!!今さっき、彼女のトラウマをなで回したくせに!」
「なんだてめええ!やる気か!キンタ!!」
「このやろおおお!!」
バシッ!!バシッ!!バシッ!!バシッ!!
ぐわぁー!ぐわぁー!ぐわぁー!ぐわぁー!
バシッ!!バシッ!!バシッ!!バシッ!!
「やめて!2羽とも!あたしの為に!!喧嘩をやめて!お願い!ねえ!ねえ! 」
・・・・・・
「ハクチョウの王子様やーい!ハクチョウの王子様やーい!あたいのハクチョウの王子様やーい!」
ハクチョウのメグ女王様は、湖中をくまなくウロウロ廻って、女王様の『フィアンセ』を探し回った。
「そうだよねえ・・・オオハクチョウは、この湖にはあたいしかいないし、湖を飛び出して探したいけど、また飛べるようになっても、可能飛距離は『キジ並み』って言われたし、
困ったわね・・・困ったわね・・・
本当に困ったわ・・・!!」
ハクチョウの女王様は、やけになって鰭脚で石ころを蹴り飛ばした。
ぽーん!
ぽかん!
「あ痛てぇっ!」
「?!!!」
・・・・・・
「パーチ!!お願いがある!」
喧嘩で羽根がボロボロの雄カワウのパルスは、涙で顔をグシャグシャにした雌カワウのパーチに話しかけた。
「今から僕達は、君に見せたくない対決をやる!
何故なら、『見せたくない』からだ!
パーチは目を伏せて僕達の見えない何処かで、翼を乾かしたい泳いだりしていてくれ。
いいか?決して僕達を見るなよ!!」
「え?ええ?わ、解ったわ。」
バサバサバサバサバサバサバサバサ・・・
雌カワウのパーチは、雄カワウのパルスの言う通り、雄カワウ達の来ない向こう岸へ飛んでいった。
「ねえー!カワウのお姉ちゃーん!!一緒に遊びましょぉー!!」
パーチが2羽の雄カワウの向こう岸に飛んでいる途中、泳いでいたアヒルのピッピと親のピッピとすっかり成鳥になったピッピの子アヒル達が下で呼び掛けた。
「あ、あたし?い、いいわよ?」
「よし・・・あの娘、僕達の気配が分からないとこに行ったな・・・
おい、そこのコクチョウさん・・・コクチョウさん・・・」
「なあに?カワウさん。」
「萎んでる風船ある?」
「こんなことがあると想って・・・はい!風船!
あんたとあいつ2個必要でしょ?」
コクチョウのプラッキィは、嘴でカワウ達の脚元に萎んだ風船を放っぽった。
「コクチョウよお!風船サンキュ!
キンタ!!僕と風船膨らまし割り対決しようぜ!!
どちらかが早く風船を膨らまして割った方が、あの娘のもらう!いいな!」
「挑むところよっ!」
雄カワウのキンタも、喉袋を膨らませて臨戦態勢を整えた。
「おお、コクチョウ!!」
「お、俺?」また雄カワウのパルスに呼ばれたコクチョウのプラッキイは、困惑した。
「どっちが早く割れたか、ジャッジも頼むぜ!!」
「は、はい。じゃあ、風船の用意!!
ぴーっ!」
・・・・・・
「いへてー!はいふふほ?」
オオハクチョウの雄は、後ろにハクチョウのメグ女王様の気配を感じて振り向いた。
「君、嘴に何を付いて・・・あ、ああっ!」
ハクチョウの女王様は仰天した。
・・・なにこれ・・・
雄ハクチョウの嘴に、釣りのルアーの付いた釣糸が絡まっていたからだ。
・・・何でこんなものが・・・!!
「つ・・・り・・・」
釣糸が絡まって、自由に開けない嘴を無理矢理こじ開けて、雄ハクチョウは言った。
「つ、り。釣り?!」
ハクチョウの女王様はやっと分かった。
この雄ハクチョウは、沼地で釣りに来た人間がルアーといっしょに捨てていった釣糸に絡まったのだ。
ルアーを小魚と間違えて食べようと、四苦八苦してるうちに嘴に絡み付いてしまったことを、女王様は嘴で雄ハクチョウの症状を確めた時、直感で分かった。
「あれ?」
・・・さあ、困ったわね・・・
・・・あたい、風船の紐が絡み付いているのをほどくのは出来るけど、釣糸は・・・
・・・さあ、どうしよう・・・
・・・ここを、こうして・・・
「むぐぅ!むぐぅ!ぶぶぶぶ!!」
雄ハクチョウは、段々息が切れて今にも窒息しそうに、悶えてきた、
「あれ?あれ?あれ?あれ?」
するっするっ・・・
ぽろっ。
「あれっ?紐が取れちゃった!」
ハクチョウの女王はドテッ!!と尻餅をついた。
てくてくてくてく・・・
「あれ?アヒルさん・・・?」
ハクチョウの女王様が振り向いた先には、アヒルのピッピが女王様に片方の翼を挙げて、
「『魔力』で紐を解いてあげたからねっ!後はよろしくねっ!」
と、合図をして去っていくのが見えた。
「うん、分かった。ありがとう!」
ハクチョウの女王様も、片方の翼で挙げてアヒルのピッピの粋な計らいに感謝する合図を送った。
「くぱっ!すぅーーーー!はぁーーーー!!」
雄ハクチョウは、大きく息を吸って吐いて、深呼吸をした。
「あー、死ぬかと思った!!
う・・・美しい・・・
お、俺・・・こんなに美しい雌のハクチョウはお、お目にかかって無いです!!
お、お名前は・・・お、俺の名は・・・ふ、フリードって言いますっ!」
「あ、あたいは『メグ』よ。この湖で女王様やってるのフリードさん。うふ。」
「め、メグさん!!じ、じゃなくて、じ、女王様!!じ、じゃあ・・・俺は王子様に・・・してください・・・!!」
「いいわよん!!あたいのお・う・じ・さ・まっ!!」
オオハクチョウのメグ『女王様』は、雄オオハクチョウのフリードにウインクしてニコッと微笑んだ。
・・・・・・
「あたし、『愛のキューピッド』になっちゃったなー!
でも、人間の釣り人はマナーを守れっていうんだよねえ!
お待たせーあたしの・・・あれ?カワウさんは?」
「知らないよママ。カワウのお姉ちゃん、いつの間にどっかに行っちゃった!!」
「な、なんですって?!」
・・・しまった・・・!!
・・・あたしがいない隙に、どこへ・・・
・・・もし、雌カワウのパーチちゃんが、嫌いな風船を膨らましてる雄カワウ達を見たらまた・・・
「ごめんねママ、もっと遊べば良かったかなあ?」
「大丈夫よありがとう!」
アヒルのピッピは、雌カワウが何処に行ったか汲まなく探してると・・・
「あーーーーっ!そこ行っちゃダメーーー!!」
雌カワウのパーチが、雄カワウのいる向こう岸へどんどん泳いでいるのを発見した。
「わー!わー!わー!わー!」
アヒルのピッピは慌てて雌カワウを通り越すと、バッ!と立ちはだかった。
「ねえー!カワウちゃん!一緒に遊ばないかい?」
「何して遊ぶ?」
「えっ・・・と!あっ!潜りっこはどお?この湖は綺麗だよおー!
ヤマメやウグイとか魚も泳いでるから、一緒にお食事なんかどお?」
「う?うん!やるやる!」
雌カワウのパーチは、うんうん!と会釈をした。
「じゃあ潜るよん!いっせーのせ!」
2羽は深く息を吸って潜ろうとした瞬間・・・
「ぷーっ!くくくくくくく!!」
「な、何がおかしいの?アヒルちゃん?」
「カワウちゃんの頬袋って、まるで黄色いふうせ・・・」
・・・やば!危うく『風船』って言いそうになったわ・・・!!
「どおしたの?アヒルさん。一緒に潜りましょ!!せーのっ!」
ばっしゃーん!
・・・・・・
ぷぅーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーっ!!
「俺の風船はまだまだ膨らむぞー!」
「いいや、俺の風船の方がでっかいぞぉ!」
2羽のカワウの風船は洋梨のようにパンパンに膨らみ、今にもどちらかがパンクしそうな位に膨らんでいった。
ぷぅーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーっ!!
どちらも、顔を真っ赤にして頬袋も頬っぺたもパンパンにはらませ、必死な形相でゴム風船に息を吹き込んでいた。
ぷぅーーーー?
ぷぅーーーー?
「?」
「??」
ぶぶぶぶぶぶーーーーーー!!
「!!」
「!!!!」
ぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶーーーーーー!!
「ぶうっ!」
「ぷぷぷぅーーーーー!!」
カワウ達の目の前に、とてつもなく巨大はゴム風船がどんどんどんどんどんどんどんどん大きく大きく大きく大きく膨らんでせまってきた。
・・・・・・
「女王様ぁ、凄いよ。肺活量も凄いし、その優しく吹き込む息遣いがとても・・・」
湖を丸ごと覆い尽くす程にとてつもなく大きく大きく膨らんでいくハート型の風船に、雄ハクチョウのフリードが翼と鰭脚でしっかりとしがみついて、うっとりとしていた。
ぼぉーーーーーーーっ!!
ぼぉーーーーーーーっ!!
ぼぉーーーーーーーっ!!
ハクチョウのメグ女王様は、身体中の空気という空気を気嚢に込めて、頬を女王様の美貌を覆す位にめいいっぱい膨らませ、顔を真っ赤にして、ハート型の巨大な風船に息を一生懸命吹き込んでいた。
・・・この風船は、あたいの雄ハクチョウ様への『愛』の結晶・・・
・・・この風船は、あたいの雄ハクチョウ様への『愛』のアピール・・・
・・・あたいの『愛』は、どんどんどんどん大きく無限大に膨らむわ・・・
・・・割れるまで・・・
・・・割れるまで・・・
・・・でも、どのくらい膨らむんだろ?このゴム風船・・・?
・・・だいぶ気嚢が疲れてきたわ・・・
・・・頬っぺたも痛いわ・・・
・・・もう、このくらい膨らめば・・・
ぷすっ。
「えっ?」
ばぁーーーーーーーん!
ぱぁーん!!
ぷしゅーーーーーーーーーっ!!ぶおおおおおーーーー!!しゅるしゅるしゅるしゅるしゅるしゅる!!
湖中で、木々や水面を揺るがす程の大爆発が起こり、次に破裂音も起こった。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
白いシルエットが湖上に飛び上がった。
「なにあれ?」
「ガチョウ?」
カナダガンのポピンとマガモのクッコは、唖然と見詰めていた。
ばっしゃーーーーーーん!
「あー、水面に堕ちた。」
「残念ねえ。ガチョウさんせっかく飛べたのになあ・・・」
ひらひらひらひら・・・
「あっ・・・!今度は萎んだ風船が降りてきた。」
「あのカワウ達のどっちかが膨らましてた風船でしょ?
結局、どっちがあの雌カワウの心を射止めるかなあ?」
・・・・・・
「ひゃあ・・・ビックリしたなあもう!」
ぼろ切れと化した、割れたハート型の巨大風船の破片を担いで、雄ハクチョウのフリードは、女王様を探した。
「おろ?こんなところに。」
雄ハクチョウのフリードは、全ての身体中の空気を使い果たし、精魂尽き果てて倒れている雌ハクチョウの女王様の側に近寄った。
「おお、ハクチョウの女王様、何てみすぼらしいお姿を・・・!!
ならば、僕から『愛の口付け』を!」
雄ハクチョウのフリード王子は、雌ハクチョウのメグ女王の嘴にそっと、自らの嘴を近付けた。
そして、
ふーーーーっ!
ふーーーーっ!
ふーーーーっ!
ふーーーーっ!
と、ぐったりとしているハクチョウの女王様の身体を膨らますように、息を優しく吹き込んだ。
むくむくっ・・・
ハクチョウの女王様の身体に、雄ハクチョウのフリードの吐息が行き渡り、まるでハクチョウの空気ビニール風船人形が膨らんでいくように、起き上がっていった。
ぼこん!
「にやり。」
「?!」
ハクチョウの女王様が目をさまし、目の前に頬をめいいっぱいはらませて女王様を膨らます、雄ハクチョウのフリードと目があった。
「?」
ぷぅーーーーー!!
今度は、ハクチョウの女王様が雄ハクチョウのフリードに息を吹き込んだ。
ぷぅーーーーー!!
またフリード王子様がメグ女王様に息を吹き込んだ。
ぷぅーーーーー!!
ぷぅーーーーー!!
何度も2羽のオオハクチョウは、お互いに息を吹き込み、お互いの『愛』を風船のように膨らませた。
ぷぅーーーーー!!
ぷぅーーーーー!!
お互いの『愛の風船』がパンパンにはち切れる程に膨らんだ頃、
「メグちゃん?」
「なあに?フリードさん。」
「僕が持ってきたハート型の風船の束を丸ごと口に含んででっかい風船にしちゃって、巨大なハート風船を膨らますって、凄いよね。」
「何いってんの?で、その風船どこから持ってきたの?」
「人間の結婚式の式場から飛んできたのを纏めて。」
「あたいのため?」ニコッ。
「僕が遊ぶため。」どやっ。
「んまあ!殆ど割れてたけど。」
「割っちゃった。遊んでたらね。」
「あんたも、風船が本当に好きなのね。」ニコッ。
「うん!大好き!!吹くのも突くのも割るのも!!」どやっ。
2羽のハクチョウは、頬を膨らませ嘴をお互いキスをしたまま首を曲げた。
その姿は丁度、ハートの形になった。
2羽のオオハクチョウの『愛』を象徴するかのように。
「メグちゃん?」
「はい?」
「『結婚』しよ。」「はい?」
「『結婚』しよ。『番』になろうよ!フィアンセに・・・」
「ええ・・・!!」ハクチョウの女王様の目から、ホロリと涙が溢れた。
「うん!『結婚』しよ!あたいの王子様。」「ええ。ぜひ喜んで、女王様!」
・・・・・・
「へへへ!!勝ったぜぃ!!パルスよお!おめえ、風船離しちゃって『自滅』してんじゃねえよ!」
雌カワウのパーチを廻っての、風船膨らまし割り対決に勝った雄カワウのキンタは、膨らまし割った黄色い風船の吹き口を嘴にくわえ、ブーブー吹き鳴らして、ショックで項垂れる雄カワウのパルスを笑った。
「くっそぉー!!何ででっかい風船が膨らんでくるんだぁーー!!
ちくしょー!!ちくしょー!!」
雄カワウのパルスは、悔しそうに翼で地面を叩いてくやしがった。
「さぁーて、早速雌のとこに行って、求婚して来よおーっと!」
雄カワウのキンタはペッ!と割れた風船を地面に吐き出すと、湖を泳いで雌カワウのパーチを探しに行った。
「おーい!雌カワウー!パーチちゃーんパーチちゃーんやーい!
おらと『番』になろおー!!」
対戦で破れた雄カワウのパルスは、恨めしそうにキンタが棄てていった膨らまし割った風船の破片を見詰めていた。
・・・あいつ、あの娘が風船を見ると畏怖を感じるのを分かって、くわえていた割れた風船を置いていったんだ・・・
・・・その心遣いがあるなら、あの雌カワウへの『番』になる資格は十分にあるものさ・・・
ぷぅーーーーーーーっ!!
・・・ん・・・?
ぷぅーーーーーーーっ!!
・・・あれは、俺が膨らませている途中に離しちゃった青い風船・・・
ぷぅーーーーーーーっ!!
・・・誰が・・・?
「あーっ!」
2羽のカワウは目を見開いて驚いた。
ぷぅーーーーーーーっ!!
「ぱ、パーチちゃん!ふ、風が発狂するくらい大嫌いじゃなかったのかよ!
そ、それに、お、俺の膨らませてた風船だよ!それ・・・」
頬袋と頬っぺたをめいいっぱい膨らませ、雌カワウのパーチは雄カワウのパルスの膨らませ離して飛ばした、青い風船に息を吹き込んでいたのだった。
「か、可愛い・・・パーチちゃん、風船を膨らます姿、とっても可愛い・・・!!」
雄カワウのパルスはうっとりと、一生懸命青い風船に息を吹き込む雌カワウのパーチに見とれた。
「か、関節キッス・・・」
雄カワウのキンタは呆然とした。
雌カワウのパーチは、嘴からパンパンに膨らんだ風船を離した。
ぷしゅーーーーーー!!しゅるしゅるしゅるしゅるしゅる!!ぶおおおおお!!
パーチが離した風船は、萎みながらロケットのようにぶっ飛び、堕ちる瞬間ぱっ!と飛んで嘴にくわえて戻ってきた。
「わたし、『トラウマ』を引き受けることに決めたの。
どんなに怯えても、先に進まないでしょ?心が。
だから、受け入れることにしたの。あの嫌な出来事。
あたし、風船もう怖くない。
だって、風船面白いでしょ?こう息を吹き込むと膨らんで、」
ぷぅーーーーーーーーっ!
「離すと、」
ぷしゅーーーーーー!!ぶおおおお!!
「ねっ!パルス君!」
「えっ?俺?」
「ちょっと、わたしの前に立って!!」
「こう?」
雌カワウのパーチは今度は、雄カワウのパルスの目の前ですっかり伸びきった青い風船を思いっきり膨らませた。
ぷぅーーーーーーーーっ!
ぷぅーーーーーーーーっ!
パルスは、どんどん風船が膨らみ顔にパーチの息で満たされた風船に近付いていった。
ぷぅーーーーーーーーっ!
ぷぅーーーーーーーーっ!
パルスの嘴に、パーチの吐息の優しい鼓動がこだまする。
段々、パルスの心にパーチの愛が吹き込まれて満たされていく。
それは、雌カワウのパーチが雄カワウのパルスに求愛してるかのように。
むぎゅっ!
雌カワウのパーチは、風船を更に雄カワウの嘴に近づけた。
むぎゅっ!むぎゅっ!
ぷぅーーーーーーーー!!
ぷぅーーーーーーーー!!
むぎゅっ!むぎゅっ!
ぷぅーーーーーーーー!!
ぷぅーーーーーーーー!!
むぎゅっ!
ぷすっ!
ぱぁーーーーーーん!!
雌カワウのパーチが膨らませていた風船は、雄カワウのパルスの嘴の尖った先に強く触れ、激しい破裂音をたててパンクした。
瞬間・・・
ぶちゅっ!
恋敵の雄カワウのキンタは、くわえていた割れた風船を思わず下に落として、呆然とした。
「ふ、ふられた・・・」
「愛してるよ、パーチちゃん!」
「愛してるよ、パルス君!」
やがて、パルスはパーチの上に乗り、『愛』を宿した。
「終わった・・・俺・・・ふられた・・・」
そうキンタは呟くと、ハクチョウの女王様のとこへ飛んでいくと・・・
「うわあ!ここでも!」
ハクチョウのメグ女王様は、フリード王子様に乗ってもらい、ここでも『愛』を宿すポーズをしていた。
「おめでとう!ご結婚おめでとう!女王様。」
雄カワウのキンタは想わず叫んだ。
「おめでとう!」
「おめでとう!」
「おめでとう!」
「おめでとう!」
湖にいる鳥達は一斉に、ハクチョウの『ロイヤルウェディング』に暖かい歓声をあげた。
「ねえ!ちょっと!そこのカワウカップルにも、おめでとう言ってよ!!」
雄カワウのキンタは、ワイワイ歓声をあげる鳥達に大声で言った。
「お前、ふられたんでやけくそなんでしょ?」
「違うやい!!コクチョウ!」
「あー!!気持ちよかったぁ!!」
ハクチョウのメグ女王様は、王子様と絶頂まで行った満身の笑みを浮かべた。
「わたしもー!」
同じように雌カワウのパーチも雄カワウのパルスと絶頂まで行き、感じたことのない快感の笑みを浮かべた。
「女王様、やりたい!」
「ナニを?」「『儀式』。」
「風船怖くない?」「ダイジョーブ!!」
「わたしは今さっき膨らましたの。」
「じゃあ、あたいはこの割れた黄色いの!!」
「じょ、女王様!そ、それ、俺が膨らましたの!付けて!付けて!間接キッス!!」
「あら?そう?雄カワウのキンタちゃんだっけ?あ、アヒルちゃん!『魔力』で風船再生お願い!」
「あいよー!女王様!」
「アヒル・・・アヒルの唾がぁー!」
ぷぷぅーーーーっ!
その時、ハクチョウの女王様は微かに感じていた。
女王様の胎内には、新たな『後継ぎ』の入った卵が宿しつつあることを。
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