6#ドードーの導き
もやもや・・・
もやもや・・・
「オオハクチョウのメグやー。
アヒルのピッピやー。」
「だあれ?あたい達の名前呼ぶのは?」
「ここじゃ!ここじゃ!」
「あっ!」「あっ!」
「お久しぶりじゃのう!また帰ってきたじょい!湖の妖精のドードーじゃ!」
「きゃーーーっ!ドードー様ぁー!お久しぶりでーす!」
アヒルのピッピは、大はしゃぎした。
「いやいや、アヒルのピッピちゃん。元気?」「元気ぃー!」
アヒルのピッピは、気前よく答えた。
「あの・・・ドードーさん。あたいが『飛ぶ』のを思い出した時、『魔力』を失って、「もう最後」って言ってたのに何でまた・・・」
ハクチョウの女王様は、嘴ごもって言った。
「あんたも気付いたじゃろうが、『魔力』が復活したじゃろう。『魔力』が。
それはな、お前さんのその『心』に打たれたんじゃー!」
「心?なんですと?」
「今まで、この湖を主にお前さんとその側近だけに独占したじゃろう。
それを、人間の迫害に困った鳥達にも解放させたようにしたからじゃ。
しかも、あれほど嫌がった鳥インフルの疑いのある者どころか、『敵』である鳥以外の者まで・・・ううっ・・・
あ、ちょっと涙出た。」
妖精のドードーは、目頭を押さえた。
「わしらドードーも、元々人間に殺されまくって絶滅・・・ううう・・・ちーん!あ、風船で鼻をかんじゃった!まいいか。」
ドードーの妖精はそう言うと、その黄色い風船を先が黒光りする太い嘴にくわえると、思いっきり息を吸い込み、
ぷぅーーーーーーーーっ!!
と、思いっきり息を入れて一気に大きく膨らませた。
「ちょっと我輩の鼻水が付いているけどな!」
妖精のドードーは、そのパンパンに膨らんだ風船をハクチョウの女王様の側に押し当てると、片方の短い翼に持った針でつん!と突っついた。
ばぁーーーーーん!!
「きゃっ!」
ハクチョウの女王様だけでなく、隣のアヒルのピッピも、その強烈な破裂音にビックリした。
「これで、ハクチョウのメグちゃんは『魔力』と『飛ぶ力』を両立出来たよん!
そして、アヒルのピッピちゃんも『魔力』をパワーアップしたよ!」
「えっ?何で?」
2羽はお互い顔を見合わせた。
「それはじゃ!2羽とも、よくやったからじゃ!
ハクチョウのメグちゃん。湖の外に出た時に、飛べずに四苦八苦してたね。
もう大丈夫。若干だけど、何とか飛べるようにしておいたからねっ!」
「『若干』って?」
「湖の周辺だよ。およそ、『キジ』並みに。」
「『キジ』並みに?」
「ハクチョウのメグちゃん。お前さんに、この湖を当分預けるっから。
これからあんたは湖の主じゃ!」
「湖の主?!」
ハクチョウのメグ女王様は、絶句した。
「わしは実はな、『湖の主』じゃねえから。通りすがりのドードーだからじゃ!」
「なにそれ?」
「あ、アヒルのピッピちゃんあんたは湖の守護神ね!」
「守護神ですと?!」
「2羽とも、この湖を護る為、鳥達や動物達を護る為、よく頑張った。
この『主』の資格は十分にあると、わしは確信したっ!
つーか、わしはここの『主』の真似事!『主』ごっこをしただけだけどねっ!
だって、わしはただのドードーだし。」
「そうなの?『ドードー』って鳥は?」
ハクチョウの女王様はドードーに聞いた。
「今さっきも言ったように、わしらドードーは既に人間に滅ぼされたんじゃ。
しかしじゃ。『身体』は滅びても、『心』は滅びなかったんじゃ。
いとおし生ける全ての鳥達や、一部の動物やひとつまみの心ある人間に宿す妖精として、生きるようになったんじゃ!」
「『不思議の国のアリス』・・・」
ハクチョウの女王様はボソッと呟いた。
「ん?女王様、それ何?」
「あたいが、故郷のママに聞かせて貰った人間の昔話よ。アヒルさん。
ここに出てくるアリスって人間の子がドードーに逢うのよ。もしかして・・・と思って。」
ドードーの話は続いた。
「わしらは、あんた達鳥達の心に何時でも忍び込んで、『鳥』として生きるあんた達を見守っているんじゃ。
『飛べない鳥』としての悲惨な運命を生き甲斐に替える為にじゃ・・・!
例えば、この風船。」
ドードーはまた徐に萎んだ風船をちっちゃい翼の脇から取り出すと、ぷぅーっ!と息を吹き込んで膨らませ、伸ばした翼を器用に使ってきゅっ!と吹き口を結んだ。
「いいかい?わしが膨らませた風船をよく見るのじゃ!!」
ドードーは、膨らませた風船を嘴から離した。
ふうわり・・・
ぽとっ。
「ほうら、これはアヒルさん。
普通の鳥が吐き出す、酸素より重い二酸化炭素で膨らませたんじゃ。」
「私?」アヒルのピッピは目をパチクリさせた。
「そして、これがハクチョウ。」
ドードーは床を持ち上げると、中から出てきたボンベをぽーん!と取りだし、
びゅぅーーーーーっ!
と、萎んだ風船にヘリウムガスを入れて膨らませた。
びゅーーーーーっ!
ぱぁーーん!
「きゃっ!」「ひゃっ!」
「ごめん!膨らませすぎた!慣れてないもんじゃな。」
ドードーは割れた風船をポイッと捨てると、新しい萎んだ風船に、
びゅーーーーーっ!!
「こんぐらい膨らめばいいじゃろ。」
ドードーはヘリウムガスで満たされた風船の吹き口をきゅっと結ぶと、嘴から離した。
ふうわり・・・ふわふわ
「ああ、飛んでっちゃった。」
2羽は、遥か上空に飛んでいくヘリウム入りの風船を見詰めていた。
「じゃろ?不思議じゃのう。鳥っていうのは、環境に合わせて『飛ぶ者』と『飛べない者』がいるんじゃよ!
風船だって同じじゃ。
中に入れる空気の種類で、飛んだり地面に転がったりするんじゃ。
云わば鳥ってのは、『翼を持った風船』じゃ。
わしの持論!ねえ、解った?」
「あれ?涙が・・・」「あたいも。」
ハクチョウの女王様も、アヒルのピッピの目にも、知らずに涙が溢れていたのに気づいた。
「と言う訳で。」
と、ドードーは今度はヘリウムボンベを自身の黒光りする嘴にくわえて、バルブを開いた。
ぶぉーーーーーーっ!
「ど、ドードーさん!何自分を膨らませているの?」
ハクチョウの女王様は、ビックリした形相で言った。
ぶぉーーーーーっ!
「ここを離れるんじゃー!あんたらにこの湖を任せるっていったじゃろうー!!」
ぶぉーーーーーっ!
ドードーの体はヘリウムガスに充たされて、どんどんどんどん大きく膨らんだ。
「実はのう、わしは『主』じゃないのう!ただのドードーって言ったじゃろう!
わしは世界中の湖や沼や湿地、森から氷原まであらゆる『主』ごっこをしてるのが趣味じゃよー!ほーほほほ!」
ドードーは、ヘリウムガスの影響でテープを早回しにしたような半音高い変声で、バルブをくわえながら高笑いした。
ぶぉーーーーーっ!
「きゃーーっ!でっかーーーい!!何処まで膨らむのドードーさんは!」
ドードーの身体は、既に60階建てのビルがすっぽり入る位に見上げる程、とてつもなく巨大に膨らんだ。
「ひゃあーーーー!!破裂しちゃうわ!怖いわ!怖いわ!」
ハクチョウの女王様も、アヒルのピッピも耳の孔を塞いで慌てふためいた。
ぶぉーーーーーっ!
「ほーほほほほ!だいじょぶよぉー!
わしの身体は無限に膨らむじゃー!
あーっー!『おーすとらりあ』にいこうかしらーっ!
丁度お呼ばれしてるんじゃ!
エミューとかキウイバードとか、わしドードーを尊敬しとる『飛べない鳥』達が逢いたいってさ!丁度わしは、ここの『おーすとらりあ』の地帯の主を兼任してんでね・・・ぶ、ぶっぶぶぶぶぶ!」
突然、頬を目一杯ヘリウム膨らませてドードーが騒ぎだした。
「ぶ!ぶぶしい!ぼ、ぼめで!がふぼめで!」
ドードーの嘴から、ヘリウムがぼっ!ぼっ!と吹き出してきた。
「きゃぁーーーーーーーっ!大変!!ドードーさんパンクしちゃうわ!」
ハクチョウの女王様とアヒルのピッピは、慌てて大急ぎでボンベの栓を嘴でギュッ!と閉めた。
「ふぅーっ・・・一時は身体が破裂すると思ったぁ!」
ドードーは半音高いヘリウム声で言ったとたん・・・
「ぷーっ!」「ぷくくくっ!可笑しい声!」
「いやあ、其ほどでも!」
ドードーが嘴の鼻の孔を膨らませて言ったとたん、
「は、はんあ、は、鼻がムズムズするべさぁ!は・・・は・・・はっぷし!」
びゅーーーーおおおおーーーーーー!!ごおおおおーーーー!!
「ぴゃぁーーーーー!!」
「吹き飛ばされるぅーーー!!」
黒光りする太い嘴からヘリウムガスを吐き出し、ドードーの巨体はロケットのように吹っ飛んでいった。
びゅーーーーおおおおーーーー!!
「それじゃーー2羽共ごきげんよぉーーーーーっ!!ぶごぶごぶごぶご!!」
ドードーは、吹き出すガスで嘴をブルブル震わせて変声で高笑いしながら、遥か向こうにぶっ飛んで行ってしまい、やがて点になった。
びゅーーーーごおおおおーーーー!!
「ありがとうーーー!!ドードーさーーーん!」「ドードーさーーーん!また来てねーーーー!!」
びゅーーーーおおおおーーーー!!
ごつん!
ごん!
「あ、いてえっ!」「いたっ!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「夢・・・」「夢だったのね・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「ドードー。」「ドードーね。」
「本当に居たのかしら?」
「私も夢の中しか。」
ころん・・・
ハクチョウの女王様の尻に、何か触れる物があった。
「ん?これは・・・?」
女王様がムクッと起き上がってビックリした。
「これは、ドードーさんが膨らませた黄色い風船よ!」
「えっ!あっ!こんなところに、割れた風船!!確か・・・ドードーさんがヘリウムガスを入れすぎて割れた青い・・・」
アヒルのピッピも起き出し、割れた風船の吹き口だけ残った破片を嘴で拾い上げた。
「居たんだ本当にドードーさんが・・・」
ハクチョウの女王様は、パンパンに膨らんだ黄色い風船を翼で優しく抱き締めて、目にポロポロと涙を流して微笑んだ。
「私達を陰から励ましてくれたのね・・・『魔力』まで分けてもらって・・・生き甲斐をありがとう・・・ドードーさん・・・」
アヒルのピッピも、吹き口だけの風船の破片をくわえて息をブルブル吹きながら、大空を見上げて大粒の涙を流した。
「アヒルさん・・・」
「なあに?ハクチョウさん。」
「日が昇ったら、早速始めるわよ。」
「何を?」
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