3#マガモへの風船テスト

 ぺったん!ぺったん!ぺったん!ぺったん!


 ハクチョウの女王様は、必死にまるで図体の大きいアヒルのように鰭脚で走って、猟場と化した藪から逃げる鳥達を追いかけた。


 「ハクチョウさん!この大きな翼で羽ばたいて!!」


 小さな翼で羽ばたいて飛ぶキジのカプリは、後ろを向いてハクチョウの女王様に訴えた。


 「こ、こう?」




 バサバサバサバサバサ・・・




 「あら、浮いたわ。」


 ハクチョウの女王様は嘴の鼻の孔をはらませ、ぜえぜえと息をはずませ、翼をばたつかせて低空飛行で何とか鳥達に追い付いた。


 「お、おまたせ!ご、ごめーん!みんなぁー!」


 「『ごめーん!』じゃないよーぉ!どうしちゃったのーっ?女王様ぁー!」


 カナダガンのポピンは、心配そうにハクチョウのメグ女王様に言った。


 「ん?」くんかくんかくんかくんか。


 ハクチョウのメグ女王様は、辺りの匂いを嗅いだ。


 「ここよ!この辺よ!!いるわ!マガモが!マガークが!」


 「ええっ!本当?!!」




 ・・・・・・




 「はあ、はあ、ここまで来たら安心だ。」


 「もう・・・この世には、私達が安心して休める『聖地』は無いのかしら・・・」

 

 窪地に身を潜めて2羽のマガモが、息を潜めていた。


 「クッコ、このまで連れてきてごめんな。」


 「いいわよ、マガーク。もう、あの湖には未練は無いわ。失われたものはもう戻らないもん・・・。」


 雌のマガモのクッコは、今さっきからずっと涙を長し続けていた。


 「ごめんねクッコ・・・お前をもう泣かしたくないと言いながら、こんなことに・・・」


 マガークも、貰い泣きしてクッコの目の涙を舌で舐めた。




 バサバサバサバサバサバサバサバサバサバサ!!





 「なあに?」


 「うわああああっ!」




 ボーーーーン!


 ドタバタドタバタドタバタドタバタドタバタドタバタドタバタドゴーーーーンドタバタドタバタドタバタドタバタドタバタドゴーーーーン!!


 もくもくもくもく・・・


 プスプスプスプス・・・




 「な、何よいきなり・・・!!」


 「きゅう・・・な、なに・・・う、うわっ!じ、女王様!!何で?何でここに来たんだ!!」


 オオハクチョウのメグ女王様の大きな図体の下敷きになった、マガモのマガークはもがきながら叫んだ。


 「何言ってるんだマガモ!!女王様がわざわざ飛ぶのが苦手なのを承知で、お前に謝りに来たのに、こんな言い方は無いぜ!!」


 コクチョウのプラッキィは、マガークのつれない態度に激怒した。


 「あら?ハクチョウさんね。大きいね。私はコハクチョウとコブハクチョウしか・・・」


 「きゃーっ!鳥インフル浸き!!嫌!!嫌!!うつさないで!うつさないで!!しっしっ!」


 ハクチョウの女王様は、雌マガモのクッコを見たとたんいきなり騒ぎだした。


 「・・・・・!!」


 マガモのクッコは、取り乱すハクチョウにショックで硬直した。


 「ぎゃー!ぎゃー!あっち行って!あっち行って!感染するからあっち行って!しっ!し・・・」




 バシッ!!




 雄マガモのマガークは、渾身の力を込めて翼をハクチョウのメグ女王様の頬を叩いた。


 「馬鹿野郎!!だから、俺は召使いを辞めたんだ!!

 鳥インフルがどうしたって言うんだ!!

 人間に虐げられた鳥達を癒したいっていうから、着いてきたりだよ!もう、女王様なんか嫌いだ!!」


 「よして!マガーク!もういいよ!私は!!私なんか!」


 尚も翼でハクチョウを叩きのめすマガモのマガークを、雌のクッコが咎めようとした。


 「クッコは黙って!!」


  マガークは、クッコを蹴りとばした。




 バキッ!!




 コクチョウのプラッキィは、鰭脚でマガモのマガークを蹴り飛ばした。


 マガークは揉んどりうって、草葉に転げた。 


 「て、てめえ・・・!!いい加減目を覚ませ!!僕もな・・・僕もな・・・」




 バッ!!バサッ!!




 「や、止めろよみんなーぁ!!目を覚ますのは皆だよーぉ!!」


 「もういいよぉ!喧嘩してる場合じゃないよ!」


 カルガモのガスタとカナダガンのポピンは、鳥達の小競り合いに割って入った。


 「女王様、あなたはあのマガモのマガークって奴の相手の雌ガモが鳥インフルを患っているのが心配なんだね!

 マガモのマガークよお、女王様が雌ガモが鳥インフルを患っているので、やってきたら大切な湖が感染源になるのを恐れてるんだね!

 じゃあ、雌ガモが鳥インフルなのか、どうなのか試す方法があるよ!!」



 「なあに?」「なんだいそれ?」


 「風船を使うのさっ!」


 「ふうせん?!!!」


 半信半疑でハクチョウの女王様とマガモのマガークが顔を見合わせると、カルガモのガスタは、ニヤリとして更に言い続けた。


 「雌ガモに風船を膨らまして貰うのさっ!

 膨らましている途中で咳き込まなければ、雌ガモは鳥インフルじゃないことが分かるよ!」


 「で、肝心な風船は?」


 「あっ!」


 カルガモのガスタは飛んでいた時、浮かんでいたのを嘴で掴んだ風船を、キジのカプリにあげてしまったことを思い出した。


 「割れちゃった・・・銃弾に当たって風船破けてちゃった・・・」


 キジのカプリはずっと落胆して項垂れ、散々になった風船の破片を伸ばしたり、並べたり、結わえてある吹き口を嘴にくわえて息を吹いたりして嘆いていた。




 ・・・直感といい、嗅覚といい、飛び方を忘れた時といい、あたいもしかするともしかすると、『魔力』が・・・




 「ねえキジさん、その割れた風船ちょっと貸して!!」


 ハクチョウのメグ女王様は、キジのカプリに頼んだ。


 「えー!風船死んじゃったから、今からお墓に埋めようと思ったんだけど。」


 「今からこの風船、『再生』するの!」


 「ええ?」


 キジのカプリは、割れた風船の破片を全部嘴渡しにハクチョウの女王様に差し出すと、女王様はクチュクチュとガムを噛むように割れた風船を噛みまわした。



 クチュクチュクチュクチュ・・・




 ・・・もしかすると、もしかすると、もしかすると、もしかすると・・・





 クチュクチュクチュクチュ




 「女王様ぁ、まさか・・・!」


 マガモのマガークは、目を輝かせた。


 ハクチョウの女王様は、舌によく練り込んだ割れた風船を絡ませると、




 ふぅーーーっ!




 ぽこっ。




 「ええっ!」




 ぷぅーーーーーーーーーっ!!




 「ふ、風船が・・・蘇ったあ!!」


 キジのカプリは驚いた。




 ぷぅーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーっ!!




 「僕が貰った時より大きくなった!」


 キジのカプリが驚く中、ハクチョウの女王様が再生した赤い風船はどんどんどんどん大きくなったとたん・・・ 

 「げほっ!げほっ!げほっ!げほっ!」




 ぶおおおおおおーーーー!!ぷしゅーーーーーー!!しゅるしゅるしゅるしゅるしゅるぶぉーーーーー!!


 ぽとっ。




 ハクチョウの女王様の嘴から離れた風船は、女王様の吐息を吹き口から吹き出して鳥達の周りをロケットのように吹っ飛んで萎み、キジのカプリの頭の上に堕ちた。


 「よいしょっ!ちょっとごめんよっ!」


 ギュッ!


 「痛ててて!痛てえよマガモさん!そ、それ僕の鶏冠!!」


 「ごめん!キジさん。萎んだ風船と鶏冠が見分けつかなくて。

 よいしょっ!これね。」


 マガモのマガークは、キジのカプリの頭に堕ちた風船を嘴で拾い上げた。


 ・・・女王様・・・まさか『魔力』が戻ったの・・・?


 『再生』された赤い風船を嘴にくわえたマガークは、

 「ま、『魔力』が・・・あ、あたいに・・・」と呟いて呆然としているハクチョウのメグ女王様を見詰めていた。


 「女王様・・・凄い・・・」


 「こんなことってあるの・・・?」


 カナダガンのポピンもカルガモのガスタもコクチョウのプラッキィも、ハクチョウの女王様の秘めた『魔力』に騒然とした。


 「クッコ・・・さあ、この風船を嘴から息を吹きこんで、君の鳥インフルの女王様への疑惑を晴らしてね・・・」


 雄マガモのマガークは、雌マガモのクッコに嘴移しに萎んだ風船を渡した。


 「さあ・・・『ぷー!』して。思いっきり。」


 「うん!」


 雌マガモのクッコは、息を深く吸い込むと、頬をはらませ萎んだ赤い風船の吹き口へ吐息を吹き込んだ。 



 ぷぅーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーっ!!




 ・・・いいぞ!いいぞ!その調子!そのまま咳き込まずに一気に膨らませ・・・!!


 マガモのマガークは、雌マガモのクッコがパワフルに風船を膨らます姿を見て、一筋の涙を流しながら祈った。




 ぷぅーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーっ!!




 赤い風船はみるみるうちに、大きく大きく大きく膨らみ、洋梨のようになった所でハクチョウの女王様は叫んだ。


 「よし!パンパンに膨らんだ!!いやあ!咳き込まなかったねえ!マガモさん!合格っ!あんた鳥インフルじゃないわ!」


 「本当?!」


 雌マガモのクッコが驚きの余り嘴を離した風船は、




 ぷしゅーーーーーー!!しゅるしゅるしゅるしゅるしゅるぶぉーーーーー!!しゅるしゅるしゅるしゅる!!




 と、ロケットのように鳥達の周りを吹っ飛び、


 ぽとっ。


 と、キジのカプリの頭上に堕ちた。


 「おっとごめんよ!」


 「痛いっ!痛てててててて!また何するのっ?!」


 「ごめん!キジさん!また鶏冠と風船間違えたっ!」


 ひょいっ。


 「じゃあ、マガーク。君も膨らませて!!」


 「え?俺も?」


 キジの頭から風船を拾い上げたマガモのマガークは、ハクチョウの女王様の命令に困惑した。


 「お、俺にも疑惑を・・・?そうだよな。鳥インフルが感染した場所にいたからな・・・」


 ・・・どうしよう・・・俺の方が・・・


 今度は雄マガモのマガークが、赤い風船を膨らませた。




 ぷぅーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーっ!!



 赤い風船はマガモのマガークの吐息でどんどん大きく膨らみ、はち切れる程パンパンになった時、




 「よし!マガーク!!合格っ!」


 「良かったぁ!」


 「ひゅー!ひゅー!雄と雌間接キッス!!」


 カルガモのガスタが、囃し立てるのをみてマガモのマガークは怒った。


 「そこのカルガモ!お前も風船を膨らませろ!!」


 ぷしゅーーーーーー!!しゅるしゅるぶぉーーーーー!!


 マガモのマガークがカルガモのガスタに食って掛かったとき時、くわえていた赤い風船を離してしまい、空気を吹き出して鳥達の周りを吹っ飛んだ後、またキジのカプリの頭に堕ちた。


 「解ったよ!!解ったよ!!膨らましたるっ!」


 「いててて!また!引っ張るなよ!」


 「ごめん!キジ!鶏冠と間違えたっ!」


 ひょいっ。


 「はあ。咳き込まないように膨らますぜ。」




 ぷぅーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーっ!!


 ・・・・・・


 ・・・・・・


 ぷぅーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーっ!!




 「はいっ!合格!」


 「良かった・・・!だって、鳥インフル発生源じゃないもん!」


 ぷしゅーーーーーー!!しゅるしゅるしゅる!!


 ぽとっ。


 「うわっ!また僕の頭に風船が・・・!!」


 「じゃあ、俺も風船を。あれ?これ風船じゃないや!」


 「痛てええ!痛てええ!引っ張るなコクチョウさん!」




 ぷぅーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーっ!!




 「コクチョウさーん!次はあたしも膨らましてみるーーーっ!」


 「いいよん!」


 ・・・嘴移し・・・?なら良かった!



 ぷぅーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーっ!!



 「ハイッ!コクチョウさんも合格!」


 「本当?!」


 ぷしゅーーーーーー!!


 「うわーっ!嘴移ししないんたあーー!!」


 ぶぉーーーーー!!


 ぴとっ。


 「うわー!風船から涎が頭に・・・」


 「あーら、キジさん。風船はこっちだっけ?」


 はむっ!


 ふーーーっ!


 「か、カナダガンさん。そ、それは僕の鶏冠・・・あ、カナダガンさんの吐息気持ちいい・・・」


 ふーーーっ!


 むぎゅっ!


 「ぎゃーーっ!君もかぁーーっ!鶏冠引っ張るなぁー!!」


 「めんご!めんご!キジさん!風船こっちね。ちょっと伸びきったやつね。」



 ぷぅーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーっ!!



 ・・・・・・


 ぷぅーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーー・・・


 


 しゅーー・・・




 「うわっ!」


 カナダガンのポピンが、風船に息を吹きこんで膨らましている最中、割れそうになったことに驚いて、思わず嘴を離した。




 ぷしゅーーーーー!!しゅーーー・・・



 「あらら・・・あんましぶっ飛ばないで、しおしおに縮んじゃった。

 でもカナダガンさんも合格よ!」


 「ねえ僕も。僕もこの風船膨らましていい?・・・元々僕の風船だし。

 あれ?風船どこに堕ちたんだろ?」


 皆が引っ張ってヒリヒリする目のまわりの鶏冠を翼で掻きながら、キジのカプリは萎んだ風船をキョロキョロと探し回った。


 「キジさあん!尾羽!尾羽!」


 「あっ!こんなに大きくなっちゃったー!」


 カプリは長い尾羽を振り、風船を払った。


 「キジさんの尾羽素敵ね。うふっ!

 でもこの風船、膨らますのを何度もやったからゴムがだいぶ伸びきってるわ!すぐにパンクしちゃうけど、いい?」


 キジのカプリは、脚で風船を押して中の涎を逃しながら言った。


 「別にいいよ。風船これしかないじゃん!

 さあーて、でっかく膨らますぞー!!」


 「キジさん、趣旨を勘違いしてるな。」


 マガモのマガークは、ぷぷっ!と苦笑いした。


 キジのカプリは、大きく息を吸い込むと、思いっきり伸びきったゴム風船に息を吹きこみ始めた。



 ぷぅーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーー・・・




 ぱぁーーーん!!




 「けぇーーーーん!!」


 半ばに膨らんだ風船がいきなり割れた風船にビックリして、キジのカプリは思わず叫んだ。


 「けーん!けーん!割れちゃったー!割れちゃったー!」


 「泣くなよキジさん。この風船、みんなが膨らましまわして相当ゴムが伸びきってたからねえ。」


 ハクチョウの女王様は、けーんけーんと泣きじゃくるキジのカプリを宥めた。


 「と、言うことは、ハクチョウさん。あなた、言いにくいけど、あなただけ風船を膨らました時に咳き込んだんだから、鳥インフルの疑いが・・・」


 「なにいってるのマガーク!!それはね!あんたの羽毛がこの風船にこびりついててね!」


 ハクチョウの女王様は、マガモのマガークに激しく怒鳴った。


 マガークは、ここまで怒りの形相を見せるハクチョウの女王様は湖に居たときには一回も無かった。


 「す、すいません!女王様!!実は、この風船は・・・」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る