第三部:鳥達の恋愛は風船のように編

1#ガチョウの失恋、そして新しい恋は風船に乗って。

 アヒルのピッピとカラスのエッジの『儀式』に参加の、有志の鳥の一羽の膨らましていた風船が、大きくなりすぎて遂にパンクして、破片が弾け飛んだ。


 「いえーーーーい!俺が一番早く割ったぞーーーぉ!

 カワウのホイディ様だ!!俺の肺活量最高!!」




 パァーーーーン!!


 パァーーーーン!!


 パァーーーーン!!


 ぷしゅーーーー・・・


 「おいおい!トビのキンタ!!割れる寸前で萎ますなよ!」


 「すんまへん!風船割るのが怖くて・・・じょ、冗談だよ!」


 ぷぅーーーーー・・・


 パァーーーーン!!「ひいっ!」「やったじゃん!キンタ!!やればできるっ!」


 パァーーーーン!!


 パァーーーーン!!


 パァーーーーン!!・・・



 有志の鳥の膨らましていた風船は、次々とパンクしていった。


 そして、




 バァーーン!!




 「おっ!アヒルのピッピ!やっと割れたか。」



 ボォーーーーーーーン!!




 「ふぅ・・・やっと、割れたーーーぁあ!すこーーーーしずつーぅう空気入れてたーーぁあら!時間かかっちゃったーーぁあ!」


 「カラスのエッジさん、スゲエド迫力にパンクしたぁ!風船粉々じゃん!」




 パァーーーーン



 「俺も割ったぞーーー!!」


 マガモのマガークは、頬っぺたを掻いて顔に付いた風船の破片を翼で取り除いた後、とんでもないことに気づいた。


 「ガチョウ!!まだ膨らましてねーの?この前のハクチョウの集団でもそうだったじゃん!

 『儀式』する気がねーのかよ!そんなら、アヒルとは・・・」


 マガモのマガークは、声をあらげて、怯えて風船を膨らますのを躊躇するガチョウのブンに怒鳴ちらした。


 「おいおいカモや、こんな『儀式』の宵にカッカするなよな。」


 既にパンクした風船の破片の吹き口を嘴で伸ばしながら、オオワシのリックが宥めた。


 すると、



 ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!

ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!

ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!

ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!

ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!



 「うわー!凄いど迫力!!」


 と、アヒルのピッピが言わせる位に物凄い勢いでガチョウのブンは、頬をめいっぱいはらませて風船に息を吹き込んだ。




 ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!

ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!

ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!

ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!

ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー!!ぷー・・・




  パァーーーーーン!!




 「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」


 ガチョウのブンは仰天して取り乱し、発狂して転げ回った。


 「ガチョウよお!相変わらず、風船が苦手だなあ!ほれ!」


 マガモのマガークは、ニヤニヤしながらガチョウのブンに向かって、膨らまし途中の風船に思いっきり息を吹き込んだ。




 ぷぅーーーーーーーーっ!!




 「うわっ!うわっ!やめてっ!やめてっ!もう!もう!膨らませないでっ!でっかい!でっかい!わぁっ!わぁっ!わぁっ!」


 風船を膨らましながら追いかけるマガモのマガークに脅えて逃げ惑うガチョウのブンに、鳥達はゲラゲラと大笑いした。




 ばぁーーーーーん!!




 「きゅぅ・・・」


 「あれ?ガチョウさん気絶しちゃった。ま、いいかっ!」




 ほぉーーーーっ・・・




 ほぉーーーーっ・・・




 ・・・これくらい膨らめばいいわ・・・




 ハクチョウのメグ女王様は、パンパンに膨らんだ大きな風船の吹き口を嘴にくわえて、息を吹き込むのをやめて空をじっと仰いだ。


 「女王様、泣いてるよ。」


 「涙ながしてるぜ。」


 「涙目の顔、とても美しいわ。」


 ハクチョウの女王様とアヒルの友情を走馬灯のように思いだしながらいいわ吹き込んだ、大きな風船の吹き口を嘴からそっと離した。




 びよーーーん・・・




 「うわー!女王様のよだれだぁ!」


 「ゲットしてえ!」


 「関節キッス!!関節キッス!!」


 それを発見した鳥達は、どっ!と盛り上がった。




 ぷしゅぅーーーーーーーーーー!!ぶおーーーーーーーーーー!!しゅるしゅるしゅるしゅる・・・




 ハクチョウの吐息を吹き口から勢いよく吹き出して、大きな風船は鳥達の上をいったり来たりと萎みながら飛び交った。

 ハクチョウの女王様は、感慨深げにその萎みゆく風船の動向を見詰めて思った。




 ・・・やっぱり、あたいは風船しかないんだわ・・・

 ・・・だって、あたいは風船によって救われたんだし・・・




 ・・・『魔力』が消えても、風船を愛する気持ちは消えないわ・・・!!

  


 ・・・あれっ?この風船、もう墜落しわ。何度も膨らましと萎ましを繰り返したから、ゴム伸びきっちゃったのかなあ・・・




 ぽとり。




 「わーーーーっ!女王様の風船!」


 「俺のだ!!」「わいのや!」「僕のだよ!」



 ばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさ!!


 オス鳥達は、こぞって女王様の風船にばさばさ群がった。


 「んもう!全くオスって・・・!!」


 牝の鳥達は嫉妬して、膨れっ面をした。


 「俺のだ!!」「あちきの!」「わいのだ!」「僕のだ!!」


 「いただきっ!」「あーっ!吹き口に嘴つけやがった!」「俺にくわえさせろ!」「僕にも!!」「てめえ!息を吹き込むな!」「つい膨らませちゃった!」




 ぎゅーーーーっ!



 ぷぅーーーーーっ!!



 むぎゅーーーーーっ!



 きぃーーーーーーっ!




 ぷしゅぅーーっ!




 ぷぅーーーーーっ!



 むぎゅーーーーーっ!



 ぷすっ!




 ばぁーーーーーん!!




 「あーあ・・・割れちゃった!!まあいいわ。どっちみち、使い込んでゴム伸びきっちゃってたし。

 また新しい大きな風船でも。」


 ハクチョウの女王様は、せいせいしたように言った。




 「あーーーーっはははははははは!!」


 そんな光景を、お腹を抱えて大笑いしているアヒルのピッピに、




 ぶぶーーーーっ!




 「ん?なあに?」




 ぶぶーーーーっ!




 一羽のカルガモが、割れた風船の吹き口から息を吹き込んで、ぶーぶー鳴らしてアヒルのピッピの所にやって来た。


 「アヒルさん!アヒルさん!これ、アヒルさんが膨らました風船ね!関節キッスだよ!」




 ぶぶーーーーっ!!




 「あっ!ああああっ!あなたは!いつぞや、風船の紐でがんじがらめになったのを助けた・・・カルガモさん!」


 「ピンポーーん!!大当り!」


 カルガモは大きく息を吸って、




 ぶぉーーーーーーーっ!




 と、割れた風船の吹き口に息を吹き込んで轟音を鳴らした。


 「あっそうだ!あなたの名前聞いて無かったよね!私はアヒルのピッピだけど、あなたは?」


 「俺は、カルガモの『ガスタ』って言うんだ!カッコいい名前だろ!えっへん!」


 「で、用件は?ガスタさん。」


 「お、俺・・・き、君がす、好きです!!つ・・・番井になりませんか?

 アヒルとカモは同種で・・・!!

 野生と家畜だけど・・・!!

 同種だから・・・!!」


 「このあがりっぷり・・・緊張してるねえ。リラックスして。うーん・・・いい顔ねえ。ん?」


 アヒルのピッピは、小首を曲げてカルガモのガスタにニコッと微笑んだ。


 「ドキッ!!可愛い・・・!!可愛いね!!ピッピちゃん!」


 「私も好きよ!!ガスタくん!ありがとう!一緒に番井になろうね!

 『あの日』から、あなたがとっても好きだったの・・・」




 チュッ!!



 

 「ガーーーーーーーーーン!!」




 ガチョウのブンは、ムクッと起きたとたんに見た衝撃の光景に、ショックで硬直した。


 「何してるんだい?ガチョウ。

 ・・・ははーん・・・アヒルに振られたな。

 当たり前じゃん!『ガチョウ』と『アヒル』じゃ、同じ家畜でも違う種族じゃん!」


 マガモのマガークは、硬直したままのガチョウのブンを翼で突っついた。




 ドテッ。




 「あらら・・・倒れても硬直したまま。

 立ち直るにも時間がかかるなあ。」


 マガモのマガークは、ニヤっと苦笑いした。


 「俺もなあ。『彼女』欲しいよ。うん!同じマガモでも、カルガモで雑種でもいいや。誰かいないかなあ?俺にも・・・ん?」




 のっし!のっし!のっし!のっし!のっし!のっし!




 「こりゃ、大胆なカナダガンだなあ。こりゃ、図体のでかいカナダガンだなあ。」


 「ねえ、カモさん。このガチョウさんに用があるんだけどぉ!」


 「おーい!ガチョウよお!いつまでも硬直してんなよ!このカナダガンちゃんがお呼びだよお!」




 つんつんつんつんつん




 マガモのマガークは、嘴でガチョウのブンを突っついて起こした。


 「ん?んんん?ん!」


 ガチョウのブンは、嘴に何かが噛んでいる感触を感じた。




 ふぅーーーーーーーーーっ!!




 「むふううううううううう!!」


 ガチョウのブンの体内の中へ、大量の空気が送り込まれ、ビックリして飛び起きた。


 「おいおい!き、君は!!うわっ!お、おいらはふ、風船かよ!」


 「むふぅーっ!君ずっとぶっ倒れてて、まるで萎んだ空気ビニール人形だったよ!

 あたし、こういうのを見てると思わず息を吹き込みたくなるの!

 あ、あたしはカナダガンの『ポピン』よ!チャキチャキの外来種よ!!」


 「あ、ああ・・・ポピンちゃん!」


 余りにもテンションが高いカナダガンのポピンの態度に、ガチョウのブンは困惑した。


 「あたし、外来種でしょ。あたしたちの群れはどこに行ったって、他の鳥達に嫌な目で見られたわ・・・『邪魔物』なのよ。所詮・・・

 あたしたちの群れの仲間も、「生態を狂わす」とか言われて、どんどん人間に消されたわ・・・

 で、あたしがその群れの最後の一羽・・・」


 カナダガンのは、顔を曇らせて言った。




 ドキッ!!ドキッ!!ドキッ!!




 ・・・何だ?この胸の高鳴りは・・・!!

 ・・・キュンキュンする・・・




 ガチョウのブンの嘴の鼻の孔を興奮で、パンパンに膨らんだ。


 「ぼ、僕・・・あ、あなたの話し・・・聞いて・・・グッとき、きました・・・す、すき・・・」


 「あたい、風船が割れる音に脅えて悶えるあなたが可愛くて可愛くて、好きになっちゃった・・・!!

 あたしたち同じ『仲間』じゃん!ガンとガチョウ。『野生』か『家畜』の違いだけでねっ!!」


 ポピンは、ニッコリとウインクしておどけた。


 「ねえー!ちょっと聞いていい?何でガチョウ?ガンじゃ駄目なの?」


 ガチョウのブンは言おうとたとたん、




 チュッ。




 と、ブンの頬にキスをして、


 「だぁからー!カナダガンはあたし『しか』見当たらないのぉー!!それに、カナダガンと『やった』らまた外来種として、不幸なガン達が増えるしいぃー!!マガンとは『やりたい』けどぉー!マガンにはマガンの鳥生があるしぃー!!

 外来種として嘲られる『立場』のけじめとしてぇー!!『同種』のガチョウさんぁーん!!『やって』!!」


 「な、何を?!」


 ガチョウのブンは、顔を真っ赤にして言った。


 「分かるでしょ?」「わかんなーい!」


 「これよ!さあ!あたしに乗って!!」


 「えええ?」


 ガチョウのブンは、興奮の余りまた気絶してしまった。


 「あらら・・・わりと純情ね。ガチョウさんは。」


 アヒルのピッピは、ゲラゲラ笑った。


 「うーん。しょうがないねえ。」


 カナダガンのポピンは、嘴をガチョウの嘴に宛がると、




 ふぅーーーーーーーーーっ!!





 と、息を吹き込んだ。


 「うわっ!」ガチョウのブンは、ムクッと起き上がった。


 「やっぱりあんたは、空気ビニール人形みたい。好きよ。ガチョウさん。番井になろう。」


 「うん・・・!!」




 ・・・アヒルに振られたんだし、もうやけだ・・・!!




 「ありがとーーーー!!」




 カナダガンのポピンが、ガチョウのブンに翼で抱き締めたとたん、ブンの心の中に異変が起きた。




 ・・・あのガンを僕は、アヒルのピッピの『代わり』だと思って考えたけど、このガンはそれを越えている・・・

 ・・・だって、こんなにテンションが高くても考えがしっかりして、前向きなんだもん・・・

 ・・・守れる『番井』が欲しかったんだ・・・


 ・・・なろう。ガチョウだけど、『番井』に・・・




 「好きだっ!僕はガンのポピンちゃんが好きだっ!『番井』になってくれ!」




 ・・・しまったっ!言っちゃった・・・!!




 「きゃーーーー!嬉しいい!あんたの嘴のこぶ素敵ぃ!」


 「君の頬の白いとこ、素敵だよ・・・」




 ぶちゅーっ!




 2羽の『野生』と『家畜』は、嘴同士を押し付けて口付けした。


 「ひゅーーーー!!ひゅーーーー!!2組もカップ成立ぅーーーー!!

 さぁーーーーパーティを続けましょーーーー!!」


 ハクチョウのメグ女王様は大きな翼を拡げて、おおはしゃぎで鳥達に言い聞かせた。

 「報われたわ・・・あたいの苦悩が全部、報われたわ・・・

 あたい、『女王様』で良かったわ・・・!!

 『女王様』であることに誇りが出来たわ・・・!!


 ハクチョウの女王様の目に、光るものがあった。


 「よお!アヒル!!ガチョウ!!幸せにな!」


 マガモのマガークが声をかけた。


 「カナダガン!!良かったなあ!本当の幸いを貰ってさあ!!」


 カナダガンのポピン友鳥のマガンのバーナンが、ポピンに微笑んだ。




 鳥達の賑やかなパーティは何時までも続き、やがて自然に終わった。




 自由解散となり、鳥達は事実上ハクチョウの女王様『召使い』としての肩書きを持ちながらも、各々の元の故郷へ居場所へと飛んでいった。


 同等の扱いとなったオオワシのリックやマガモのマガークも、リックは故郷の北の大地。マガークは新天地へ飛んでいった。


 残ったのは、飛べないアヒルのピッピとガチョウのブン。


 そしてそれぞれ番井になった鳥達。


 率先して、ハクチョウのメグ女王様の付き添いとして残ったコクチョウのプラッキィ。




 ハクチョウの女王様は、湖畔の奥にうず高く積まれた、飛んでいった鳥達が膨らまし割った風船の破片を見詰めて、パーティの余韻に浸った。




 ・・・『魔力』があったら、これら全部花畑に出きるのに・・・





 それから、月日が流れた。



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