13#ハクチョウの懺悔
「ガチョウを誘惑してきて!」
「ゆうわく?」
ハクチョウのメグ女王様の命令に、アヒルのピッピは困惑した。
「だって、私アヒルよ。ガチョウを誘惑して、何するのよ?」
「アヒルさん。『演技』するのよ!ガチョウを本気にするのよ!」
「ハクチョウさん。肝心のガチョウって?」
「この近くにウロウロしてるわ。
こいつはあたいの召使いでね、ほらあのマガモの召使いが苦手な風船でいじめて、嫌々脱走したのよ。
だから、またこっちに引き連れるのがこのオリエンテーリングの目的なの。
だ・か・ら。」
ハクチョウの女王様は、戸惑うアヒル
のピッピにニッコリとウインクした。
「さあ!皆さん!!早速準備に取りかかろう!!
集合は明日の夕方ね!
集まったら、最初に皆とやりたいことがあるの!
じゃあ、助手のコクチョウとアヒルのピッピは残って、一旦解散っ!」
「俺とマガモは??」
マガモのマガークと同じ、活性化召使いのオオワシのリックが聞いた。
「あんた達も、手伝うのよ!みんな分の食い物でも取ってくるなりしてよ!」
「はぁーい!」
ばさばさばさばさばさばさ・・・
鳥達はオリエンテーリング準備に、行ってしまった。
「さてと、アヒルさん。」
「なあに?」
「あなたは、『演技』の練習!レンシュウ!」
「え?ええ。」
「あんたの『演技』の役柄は、作戦会議で教えるね!!あのガチョウを騙すシナリオ練ってあるの!!」
「出来るかなあ?私。」「大丈夫よっ
!」
ばさばさばさばさばさ・・・
次の夕方になった。
「女王様ぁー!風船をこんなに持ってきましたぁ!」
カラス達は、夥しい程の萎んだ風船をハクチョウの女王様に差し出した。
「俺達準備万端だぜ!次何やるの?」
「あなた達は、ちょっと休んでて。アヒルさん!」
「なあに?」
「『演技』の内容飲み込めた?」
「まあまあ。」
「台詞忘れたら、アドリブで通してね!でも手筈は言われた通りやってねっ!」
ハクチョウの女王様は、嘴でアヒルのピッピの尾羽を突っついて、行くのを促した。
「は、はあーい!」
アヒルのピッピは、尻を可愛くふりふりして、湖の向こうの山林へ歩いて行った。
「さてと、みんなぁー!!作戦決行の夜半まで、時間あるから皆でやりたいことがあるの!」
「はぁーい!なあに?女王様ぁ!」
「皆であたいと、風船を膨らまし競争しない?
早く割ったら、あたいとキッスのプレゼントよ!」
「するするぅーーー!!」
・・・本当は皆と『儀式』をしたいのに、『魔力』が消えちゃったから形だけでも、『儀式』みたいのをやりたいだけなの・・・
・・・それにあたい兎に角兎に角、風船を皆で一緒に膨らますのが大好きなの・・・
・・・だから・・・!!
「女王様ぁ!風船が足りないんだけど、今さっき持ってきたやつを使っていいかなあ?」
マガモのマガークと一緒に、湖のストック風船を鳥達に手渡しているコクチョウのプラッキィが、ハクチョウのメグ女王様に聞いた。
「これは駄目よっ!ドッキリに使うんだから全部!
あ、みんな!まだ持ってるよね!君達に被害に逢わせた風船。
割れてないで萎んでるなら、それ使って!!」
「はーい!」
「女王様ぁー!やっぱり足りませーん!」
「じゃあしょうがないから、持ってきたの渡して!!あ、あんたのは既にあるでしょ?」
「あ、これ?膨らましていいの?うわー早く息を入れて膨らましてえ!女王様の涎付き風船!!あ・・・皆の視線が。」
「みんな、風船持った?」
「持ったぁー!!」
「じゃあ、みんなぁ!ここに集まって風船の吹き口を嘴にくわえてぇ!」
・・・ん・・・?
・・・えええっ・・・!!こんなところにも・・・!!
ハクチョウの女王様は、上空にキラリと光るものを発見して絶句した。
・・・あれは・・・風船・・・!!
・・・多大な被害を及ぼした大量の風船の一つがまだあるってこと・・・?!
・・・何でこんなところまで飛んでくるんのよ・・・!!
「女王様ぁ!何ぼけーっとしてるの?早く風船膨らましを始めようよ!!」
コクチョウのプラッキィは、嘴の鼻の孔を興奮ではらませて言った。
「じゃあ!『儀式』・・・じゃなかった!風船膨らましをしましょ!息を吸ってぇーーーー!!」
「すぅーーーーーっ!!」
「せぇーーーーのっ!!」
ぷぅーーーーーーーーっ!!!
『・・・・・・!』
「はっ!」
ハクチョウの女王様は、大きな風船に息を吹き込んだ瞬間、脳裏に直感が走った。
・・・アヒルさん・・・
・・・大丈夫かな・・・?
・・・まさか・・・!!
その『まさか』だった。
丁度その頃、アヒルのピッピは飛んできた風船の紐に絡まってしまい、もがき苦しんでいた。
がぁーーーーーっ!
がぁーーーーーっ!
アヒルの呻き声が、風に乗って湖からも聞こえてきた。
・・・あたい、何てことを・・・!!
「女王様ぁ、膨らましたの空気抜けて萎んじゃったじゃん!
今さっきから何・・・」
コクチョウのプラッキィは、ハクチョウの女王様の目をみたとたん、グっときた。
・・・涙・・・
・・・震える嘴・・・
・・・どうしたんだろ・・・?
「ああ、そうね。コクチョウさん。」
ハクチョウの女王様は、思い出したように息を渾身の力を込めてすいこみ、女王様とは思えない程の必死の形相で頬をはらませ、思いっきり大きな風船を膨らませた。
ぷぅーーーーーっ!!ぷぅーーーーーっ!!ぷぅーーーーーっ!!ぷぅーーーーーっ!!
・・・あたい、何てことを計画したんだろ・・・!!
・・・大事なアヒルさんをこんな目に逢わせるなんて・・・!!
・・・ガチョウよっ!ガチョウがいてないんだわ・・・!!
・・・でも、ガチョウは・・・
のこのこのこのこ。
「おいアヒル!我が儘すぎて追放きたのに、何で帰ってきた!!」
マガモのマガークの怒鳴り声で女王様が振り向くと、血塗れのアヒルのピッピと、帰り血を浴びたガチョウのブンがそこにいた。
「お帰り!!アヒルさん!」
とも、
「ガチョウ!!どこほっつき歩いてたの!」
とも、
言いたかった。
でも、
言えなかった。
アヒルに詫びたかった。
でも、
それが恐ろしかった。
ただ黙々と。
ただ黙々と。
メグは大きな風船に息を吹き込んでいた。
ただ黙々と・・・
ただ黙々と・・・
・・・・・・
・・・・・・
パァーーーーーン!!
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