11#アヒルの奇跡

 「私、しっかり見ました!!貴女、ハクチョウさんが飛んでいるところを・・・!!」


 アヒルのピッピは、目に涙を浮かべてハクチョウのメグに訴えた。


 「・・・・・・」


 「・・・・・・」


 2羽は、じっとお互いの目を見つめた。


 ひしっ!


 ハクチョウのメグ女王様は大きな翼で、アヒルのピッピを抱き締めた。


 「ありがとう。アヒルさん。あなたのその笑顔を見るだけで、あたいは救われたよ・・・

 うっ・・・うっ・・・うわああああああああああーーーーーー!!」


 ハクチョウのメグ女王様は、嬉し涙を流して大きな声で泣きじゃくった。


 ハクチョウのメグ女王様の心は疲れていた。




 ・・・あたい、本当に飛べて心から感謝してるわ・・・

 ・・・だって、こんなに苦しんでる鳥達を救えたんだもん・・・!!

 ・・・それを促したのは、あなたよ・・・

 



 「ハクチョウさん・・・もうひとつ私の我が儘聞いていい?」


 メグ女王様の涙で全身を濡らした、アヒルのピッピは言った。


 「な、なあに?」


 目を真っ赤なっているハクチョウのメグは顔をあげた。


 「この、鳥達を皆治したいの!元気にしたいの!」


 アヒルのピッピは、風船の紐でがんじがらめになっているカルガモに近づいた。


 「この鳥は・・・もうだめよ・・・このまま・・・こと切れるしか・・・」


 ハクチョウのメグは、悲しげにボソッと呟いた。


 「よいしょっと!」


 アヒルのピッピは、嘴に風船のついた紐をくわえて引っ張った。


 ぐるん!


 ぱっ!


 カルガモの体は回転し、みるみるうちに絡まった紐はほどけた。


 「あっ!」


 アヒルのピッピは、重要なことに気付いた。


 「紐が締まって・・・食い込んでる・・・!!」


 ピッピは、カルガモの喉元に食い込んだ紐に嘴を付け、



 ふぅーーーーーーっ!!



 と、風船を脹らますように息を吹き込んだ。


 すると、


 ぐっ・・・スルッスルッスルスルスルスル・・・


 紐が緩くなり、するりと取れた。


 アヒルのピッピは、患部をペロペロ舐めた。


 「ハイッ!!これで大丈夫っ!!」

 



 「えっ!」




 「えええええっ!」



 患者の鳥達に、薬草を煎じたり紐の取り外しに四苦八苦していたマガモのマガークと、オオワシのリックは仰天した。


 「うーん・・・あれ?僕、どうしちゃったの?」


 今さっきまで、紐が複雑に絡み、身動きが出来なくなっていたカルガモは、翼を拡げて伸びをして大あくびをした。


 「ふぁーあ。あれ?」


 カルガモはきょとんと、アヒルのピッピを見詰めた。


 「君が助けたの?あ、ありがとう。」


  「あ、ど、どういたしまして。カルガモさん。怪我は大丈夫?」


 「怪我?何ともないよ!!大丈夫!というか、前より軽くなったような。」


 「よかったあ!助かったぁ!」


 ハクチョウのメグ女王様は、ひしっ!とカルガモを翼で抱き締めた。


 「よかったあ!よかったあ!よかったあねえ!カルガモさん!」


 「アヒルさん、僕・・・」


 カルガモは、アヒルのピッピに呼び掛けた。


 「僕、僕、あなたが・・・す・・・」


 「今度は、シラサギさんの番ね。助けてあげますよ。」


 「き、聞いてないっ!」カルガモはふてくされた。


 「カルガモさん、カルガモさん。せっかく良くなったんだから、ハクチョウさんの側で休みなよ。」


 アヒルのピッピは、カルガモに振り向いてニッコリと微笑んだ。


 「ぽっ・・・!はーい!!そうしまーす!」




 やがて・・・




 「みんな、元気ぃーーー?」


 「全然元気ぃーーーーーー!!」


 ハクチョウのメグ女王様の呼び掛けに、収容されて今はすっかり良くなった、風船被害に逢った鳥達は一斉に答えた。


 「すごおい・・・!!殆どが瀕死の重症の鳥もいたのに、みーーんな元気になって・・・アヒルさん、あなたは!!」


 ハクチョウのメグ女王様、何かやり遂げたような感無量の笑みを浮かべるアヒルのピッピを見て、感嘆した。


 「えっへん!どうよ!ハクチョウさん。私ねえ、実は『魔術』を持ってるのよ!

 何でも直す『魔力』がねえ!」




 ハクチョウの女王様は絶句した。




 ・・・『魔力』を持ったやつは、あたいだけじゃなかったの・・・?

 ・・・じゃあ、あたいがこの湖に墜落した時、絡まった風船の紐を取り除いたのも・・・


 ・・・その時はまだアヒルさんは『ひよこ』だったでしょ・・・?

 ・・・ということは、『ひよこ』の時から既に・・・!!

 ・・・どおりであのドードーの妖精が、あのアヒルの壮絶な過去を知ってる訳だ・・・!!

 



 「でねえ、私『過去』知らないんだ。

 『魔力』と引き替えにね。」




 ・・・アヒルもか・・・

 ・・・あたいは『飛ぶ力』と引き替えに風船を再生したり、風船から花に変えたりする『魔力』があったのに・・・!!

 ・・・アヒルさん、あんたの我が儘のせいよ・・・!!

 ・・・でも、ここにいる犠牲鳥達を元気にしたんだから、大目に許すわ・・・!!




 「でも、微かだけどママの記憶があるの。よく、「ハクチョウみたいに空を飛べたら、ここで殺されず自由になるのに・・・」と言っていた記憶がねえ。」


 アヒルのピッピは、ハクチョウのメグを向いてニッコリと微笑んだ。


 


 ・・・えっ・・・!

 ・・・それ、我が儘じゃなかったの・・・!

 ・・・悲しい願望だったんだ・・・!!

 ・・・あたい、飛べて良かったわ・・・!!

 ・・・『魔力』は失ったけど・・・!!

 ・・・アヒルさんに、笑顔は戻った・・・!!




 ハクチョウのメグ女王様はそう思うと段々、感情が混み上ってきた。


 「アヒルさん!!」


 メグ女王様は、アヒルのピッピを大きな翼で抱き締め、大声で泣いた。


 「ハクチョウさん・・・!!」


 アヒルのピッピも、ハクチョウのメグ女王様を翼で抱き締め、一緒に泣いた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る