9#『魔力』の消えた女王様
「ぶ、無事?み、みんな。」
ハクチョウの女王様は、下敷きになっているマガモやオオワシ、そしてカラスに申し訳なさそうに話しかけた。
「そ、それより・・・飛べたんですか・・・女王様ぁ・・・!!」
マガモのマガークな、埃まみれの翼を羽繕いしながら聞いた。
「う、うん。」
ハクチョウの女王様は、冷や汗をかいた。
「あれ?女王様。あなたは、飛ぶこととと引き換えに、『魔術』に身をつけたんでしょ?
ところで、何で飛べたの?」
オオワシのリックは、首を傾げた。
「そ、それは・・・あたい、『魔術』と・・・」
「おーい!ここはどこーお?あんたーあ?割れた風船を飛べるように膨らます『ハクチョウの女王様』ってーのはーあ?」
マガモとオオワシの傍らに、ふてぶてしくハクチョウの女王様にガンつけているハシブトガラスが、ニヤリとほくそ笑んだ。
「あ、ああ。カラスさん。いらっしゃい!」
「よお!ハクチョウ!俺は『カラス』って名前じゃねーよお!『デスモア』様って名前なんだよーお!よぉーく覚えとけー!!
なあ、ハクチョウさんよーお!『デスモア』様に何かしてくれるんだろーお?」
カラスのデスモアは、嘴でハクチョウのメグ女王様の首筋をつんつんと突っついた。
「おい、カラス・・・いやデスモア。何?その女王様への態度は?」
オオワシのリックは、馴れ馴れしくハクチョウの女王様をたぶらかせるカラスのデスモアに食って掛かった。
「よせよ、リック。こいつは口に風船を詰まらせて九死に一生を得たカラス・・・いや、デスモア様なんだから!」
マガモのマガークは冷や汗を滴ながら、リックを必死に宥めた。
「おおーお、これかーい?俺の喉に詰まった、割れた風船ってーのは!
これをどうするんだーい?
こんなゴミ?」
「そ、それは・・・は、ここにおらっしゃるハクチョウの女王様が、見事に再生させまーす!
で、この風船をデスモア様がみんなと、膨らませて・・・」
「能書きはいいから、早くやろうぜ!!こちとら、ゴミ漁りの途中でさーあ、腹減って、イライラしてんだよー!」
・・・どうしよう。『魔力』は、飛ぶ能力を復活させる代わりに剥奪されたし・・・
・・・いや、まだ『魔力』は残ってる可能性はあるかも・・・
・・・もしかして、飛ぶのが危険だと感じたので、デマカセで言ったのかなあ・・・
「だから早くやろうぜって言ってんだろ!!早くしねえと、この湖に俺の糞をぶちかましてやっからよ!あ?」
カラスのデスモアはドスのきいた声をあらげて、女王様に怒鳴りちらした。
「て、てめ・・・」
「まあまあ、オオワシさん。落ち着いてよ。女王様ぁー!早く『儀式』始めよう!
俺らの風船はどこ?」
・・・そうだ!今、一個もないわ・・・?
・・・どうしよう・・・
「あっ!そうだリック!!確か、ガチョウのブンの風船への恐怖克服の為に、有るもの全部ブンの巣穴に置きっぱだったんだっけ?」
マガモのマガークは、肝心なことに気づいた。
「あれ?ガチョウのブンの奴、どこへ消えやがった?」
「おい、マガーク。お前のせいだろ?この前、風船をガチョウの目の前で割りまくって責めてたじゃん!」
「あれ?ワシさん。俺、こんなことしたっけ?」「とぼけるなよマガーク。」
「はいはい、能書きはいいから早く・・・」
目の座ったカラスのデスモアは、ハクチョウの女王様に詰め寄ってきた。
「解ったわ。カラスさん、じゃあ早く飲み込んでた風船の破片を持ってきなさい。」
「ほらよ、女王様!」
ぺしっ!
カラスのデスモアは、ハクチョウの女王様の顔にその割れた風船を叩きつけた。
「おい!てめえ!カラス、女王様に・・・」
「まあまあ、オオワシさん。落ち着いて!」
怒りにかられて、また食って掛かろうとするオオワシのリックにマガモのマガークは、必死に羽交い締めした。
「女王様ぁ、これを復活させる魔法持ってるんだろ?早くやれよ。」
「・・・・・・」
・・・困ったわ・・・
・・・本当にドードーの妖精の言う通り、あたいの『魔力』が消えていたら・・・
「おい!ボケーっと突っ立ってねえで、早くやれよ!」
カラスのデスモアは、激しく声をあらげた。
「解ったわ。」
ハクチョウの女王様は、割れた風船を嘴に含むと、ガムを噛むようにクチャクチャと噛みまわした。
クチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャ・・・
・・・あれ・・・?
クチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャ・・・
・・・全然、風船が変形しない・・・
・・・違和感もない・・・
「おいおいおい!何時まで待たせるんだ!風船まだ復活しねえののか?」
イライラしたカラスの
クチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャ・・・
・・・あれ・・・?
クチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャ・・・は、激しく罵声をあげた。
「い、今やってます!」
ハクチョウの女王様は焦った。
クチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャ・・・
・・・だ、駄目だわ・・・
・・・『魔力』が、ほ、本当にき、消えた・・・!!
クチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャ・・・
「もういい!女王様いや、ただのペテンハクチョウ!嘴から風船出せ!!」
ハクチョウのメグ女王様は、おそるおそる嘴から、女王様の涎でべっとり付いた風船の破片を取り出した。
「なーんだ・・・!!全然そのまんまじゃん!!!
あー!だーまされた!だーまされた!みーんな、あーやって騙して『宗教』紛いなんてやってんの?このペテンハクチョウ!!」
「何だ!!女王様に向かって『ペテン』とは何だ!!」
カラスのデスモアの売り言葉にカチンときて、オオワシのリックはくってかかった。
「およしよ・・・リック・・・」
ハクチョウの女王様は、蚊の鳴く声で怒髪天のオオワシを宥めた。
「どうして・・・?こんなに貴女を馬鹿にして、腹が立たないんですか?」
「それは・・・『本当』なんです・・・」
「ばーか!ばーか!ばーか!ばーか!ペテンハクチョウ!ペテンハクチョウ!」
カラスのデスモアが、大声で叫びながらこの場を飛び去っていく中、マガモのマガークとオオワシのリックは、ハクチョウの女王様の絶望した姿に言葉を無くし、余りのショックで硬直した。
「あ・・・あたい、普通のハクチョウに戻っちゃった・・・」
ハクチョウのメグは嘴を震わせ、目が虚ろになり、呆然と空を見上げていた。
「ど、どうしよう・・・もう『儀式』が出来なくなっちゃった・・・ごめんね・・・マガーク、リック。
あたい、もう『女王』を返上したいわ。」
「そ、そんなこと言わないでよ!女王様!!」
「不思議な力が無くなっても、『女王様』は『女王様』だよ!」
2羽は、頭を抱え込むハクチョウの女王を翼で抱き締めて宥めた。
「もう、これからあたい・・・どうしよう・・・」
一法、鳥達の世界では、恐るべき出来事が今、起きようとしていた。
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