8#精霊の最後通告
・・・・・・
「おーい!ハクチョウの女王様ぁーーー!!」
パンっ!!
「?」
ハクチョウのメグ女王様の鼻提灯がパンクしてムクッと起き上がると、目の前の靄に、大きな鳥のシルエットと芽があった。
「あ・・・ドードーの妖精様・・・お久しぶりで・・・」
「女王様・・・いや、貴女は今さっき『飛ぼう』としましたね?」
「え?」
「『え?』ではありません。貴女は、『魔術』が消えて無くなることを自覚して、飛ぼうとしましたね?と、聞いているのですよ!」
「それが、どうしたのよ?あたいはね・・・」
「言いたいことはお見通しじゃ!!あのアヒルにそそのかされて、『飛ぶこと』にしたんじゃろ!!!!?」
「・・・はい・・・」
ドードーの妖精の激しい剣幕に、ハクチョウの女王様は、そう答えるしか無かった。
「あのアヒルはどんな奴か、知ってるか?
あいつは、我が儘し放題の甘ったれアヒルだ!」
「妖精さん、そこまで言わなくても・・・」
「あいつは、逃げたんだ!ふぉあぐらという、『肉』になるところをな。仲間を置いてな。」
「なら、尚更ですね。あの薄幸なアヒルに『飛ぶこと』を益々見せたくなったわ。」
「やっぱりそう思うのかね。取り残されて、『肉』になったあのアヒルの仲間達も、きっと・・・」
「でも、それは仕方がないことでは?どうしても、皆と行きたかったのに・・・。」
ハクチョウの女王様とドードーの妖精の口論は、延々と続いた。
「可哀想だな・・・残ったアヒル達は身動き出来ないように固定されて、人間がどんどん嘴に流し込まれるスパイスとかの餌で、風船みたいにどんどん膨らまされて、ストレスで羽根も羽毛も抜けて、どんどん風船みたいになっちゃって、最期に焼かれて、人間のレストランで喰われるんだぁー!
こんな鳥生はヒドイヨー!!」
「え?!本当?!」
「うん!そうですよお!泣かせるねえ!コンナ残酷なふぉあぐらから逃げ出して、死の縁から逃げ延びたアヒルの為に一羽のハクチョウが、悲願の飛翔を見せるとはねえ!
解ったよ。ハクチョウさん。貴女に本当に飛べる力を授けよう。
たぁだぁしぃ!」
「その先は解ってます。あたいが飛べたら、『魔術』は剥奪されると。」
「本当にいいんだね?後で『魔術』無くして後で悔い無いんならさぁ。」
・・・そうだ・・・!!『儀式』はどうしよう・・・『魔術』が無いと・・・
・・・いいや!『魔術』が無
くても、何とかなるわ・・・!
ハクチョウのメグ女王様は、あのドードー妖精の話を聞いてから、もうあの泣き叫んで去っていったアヒルのピッピの悔しそうな顔しか思い浮かばなかった。
「本当にいいのかね?」
「いいわよ。」
「本当にいいんだよね?」
「いいですよ。」
「ほんとーーーーにいいの?」
「しつこいわね!いいったらいいのよ!」
「今、鳥の世界に不穏な出来事が起きるらしいけど。必要になるよ?『魔術』が。」
「えっ?」
「どうでもいいんだね。他の鳥は。」
「どういうことよ!それ!」
ハクチョウの女王様は、ドードーの妖精にくって掛かった。
「まいいか。これが貴女への『最後通告』にすっから。
ここまで、自己中とは思わなかったよ。」
ドードーの妖精は吐き捨てるように言うと、ぼってりとした体を掻いて、小さい翼の脇から膨らまして無い風船を取り出すと、先が黒光りする大きな嘴にくわえ、一気に
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
と、息を思いっきりふきこんで膨らませた。
「じゃあ、消しちゃうよ?貴女の『魔術』を!」
ドードーの妖精は小さい翼に持った膨らませた風船に、片方の翼に持った針を突き立てた。
ぷすっ!
パァーーーーーーン!!
「はっ!」
ハクチョウの女王様の鼻提灯がパンクしたとたん、目が覚めた。
「夢か・・・夢にしては・・・」
ハクチョウの女王様は、辺りを見回した。
「本当に夢なのかなあ?」
女王様は、翼を拡げて羽ばたいてみた。
ばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさ
「??何この感覚は。」
風が渦を巻き、体が軽く感じられた。
「もしかすると・・・やってみようかな?」
ハクチョウの女王様は、湖の畔から湖を望み、深く息を吸って頬っぺたをぷうっと膨らませて気合いを入れた。
ばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさ
ばしゃ!ばしゃ!ばしゃ!ばしゃ!ばしゃ!ばしゃ!ばしゃ!ばしゃ!ばしゃ!ばしゃ!ばしゃ!ばしゃ!ばしゃ!ばしゃ!
鰭脚で疾走して湖が滑走路になり、羽ばたく大きな翼には、空気の渦が巻き、体を軽くさせた。
やがて・・・
ふわっ・・・
ふうわり・・・
ばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさ
ふうわり・・・
「飛んだっ・・・!!」
ふうわり・・・
「あたい、飛べたあーーーーっ!!」
ハクチョウの女王様は、翼に巻き込んでいく風の感覚を久々に感じ、とても感激した。
・・・この風の感じ・・・!!
・・・この風の匂い・・・!!
・・・大空よ、あたいは還ってき・・・?!!!
ハクチョウの女王様は、眼下に拡がる湖を見たとたん、突然目眩がした。
・・・うっ!!うううっ・・・!!
メグ女王様はあの日、風船の紐が絡まって、湖に落下していく恐怖がフラッシュバックした。
「ひいっ!!ひいいいいいいいい!!」
ハクチョウの女王様は奇声を発し、バランスを崩し、真っ逆さまに湖に墜落した。
ばっしゃーーーん!!
「な、何で・・・?!」
突然、空が怖くなった。
・・・また、墜落したら・・・!!
ハクチョウのメグは気が動転した。
翼で目を被った。
激しい動悸が起きた。
体の震えが起きた。
はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ・・・
突然、フッと一羽のシルエットが頭を過った。
・・・アヒルさん・・・?
・・・そうよ・・・あたいは、アヒルさんに飛ぶのを見せたいから、飛ぼうと思ったんだっけ・・・!!
・・・あたいの『魔術』と引き換えに・・・!!
・・・よしっ・・・!!そうだわ・・・!!
ハクチョウのメグ女王様はそう決心すると、再び湖畔に戻り、深く深く息を吸い込んで、頬っぺたをぷうっと膨らませた。
「それっ!!」
ハクチョウのメグ女王様は、翼をはためかせて湖の上を全速力で走った。
ばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさ
ふうわり・・・
ハクチョウの女王様の体は、宙に浮かんだ。
ばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさ
・・・あたい、遠い故郷の『しべりあ』で、飛ぶ訓練を教えてくれたパパが言ってたっけ・・・
・・・「メグ、お前は風船になった気持ちで飛ぶんだ。どこまでもふわふわと飛んでいく白い風船にね。
軽やかに、緩やかに、力は翼だけ込めて、ほうら。」・・・
・・・パパは、そう言って鰭脚に掴んだ萎んだ白い風船にぷぅーっ!と息を吹き込んで膨らまして、舌で器用に吹き口結んで、ぽーん!と翼で叩きあげて・・・
・・・「ほおら、こんなふうに。風船になりきるんだ。風船になりきって、ふうわりと飛ぶんだ。ふうわりと。」・・・
・・・あの風船も、パパが拾った木に引っ掛かった落着風船だったんだっけ・・・
・・・あの時の顔が何倍も剥れる程の頬っぺたの膨らみや、突いた後に転げた風船を追いかけて、いきなりパンクしちゃってビックリするパパのことばかりしか記憶無いけど、ようやく言いたいこと解ったわ・・・!!
・・・さあ、軽やかに・・・!!
「?!」
がん!
ハクチョウの女王様は、森の木に激突した。
考え事して、前に気付かなかったからだった。
「いたたた・・・」
メグ女王様は、ズルズルと木の幹から滑り降りてその場でのびてしまった。
「きゅうううう・・・飛ぶときは前を見て飛ばなきゃ・・・」
しばらくしてハクチョウの女王様は、また湖畔に行き湖の上を走って空を飛んだ。
「今度は、方向転換や飛行テクでも。
上昇。
下降。
尾羽動かし舵取り、右左。
そして、着陸。
着陸?
どうやるんだっけ?
あれ?
うわっ!
うわああああ!」
ハクチョウの女王様の目の前には、着陸体制に入ったマガモのマガークと、オオワシのリック、そして見知らぬカラスが迫ってきた。
「きゃああああー!!退いて!!退いて!!退いて!!退いて!!退いて!!退いて!!退いて!!」
「何い?」
「女王様?!」
「女王様が飛んでる!?」
「かあ?」
3羽が振り向いた頃にはもう遅すぎた。
「きゃああああー!!ぶつかる!!ぶつかる!!ぶつかる!!ぶつかる!!」
ボーーーーン!
ドタバタドタバタドタバタドタバタドタバタドタバタドタバタドゴーーーーンドタバタドタバタドタバタドタバタドタバタドゴーーーーン!!
もくもくもくもく・・・
プスプスプスプス・・・
「きゅぅーーー・・・」
・・・・・・
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