5#アヒルのために、ガチョウは風船を膨らませた。
長い夜は白々と明け、赤い朝焼けを鬱蒼とした森の木々を照らしていった。
「アヒル!!しっかりしろ!目を開けろ!!死ぬな!!アヒル!!どうしたんだ!おい!アヒル!!おい!アヒル!!」
ガチョウのブンは、茂みの窪みに横たわるアヒルのピッピに必死に訴えた。
が・・・
アヒルのピッピは何も答えなかった。
ただ、
ピッピの側に、微風が吹き通るだけだった。
「・・・嘘だろ・・・」
ガチョウのブンは、ぼそっと呟いた。
「おい・・・アヒル・・・鳥インフルエンザに負けたのかよ・・・?
・・・こんなところで死ぬなよ・・・
・・・お前、本当に死んだのかよ・・・!」
ガチョウのブンは、気が動転した。
頭が真っ白になった。
「おい!アヒル!!しっかりしろ!しっかりしろ!おい!アヒル!!目を開けろ!!ふざけんなよ!!アヒル!!目を開けろ!!」
ブンは、更に不気味な大声で何度も何度もアヒルに呼び掛けた。
まるで時が止まったような、2羽はじっと動かなかった。
今までガチョウのブンは、女王様命令による落下風船を散策する任務で何度も、風船の紐や釣糸に絡まって死んだ鳥を何度も見かけてきた。
しかし、今間近で『死』に苛まれる者を目の当たりにして、心が苦おしくなっていた。
しかも、それが最愛の『友』でがだ。
「うっ・・・ううう・・・」
ガチョウのブンの目から、涙が溢れて出た。
ぽたっ・・・
ぽたっ・・・
ガチョウのブンの涙は、瀕死のアヒルのピッピの体に墜ち、コロコロと水玉となって表面を一個一個滑っていった。
「何で・・・何で・・・」
ブンの涙が、ピッピの目の側に墜ちた。
「ん・・・」
アヒルのピッピが目を覚ました。
「アヒルさぁん!生きてたんだ・・・!」
ぎゅっ!
ガチョウのブンは、思わずアヒルのピッピを翼を拡げて抱き締めた。
「ガチョウさん・・・翼離して・・・あ、あなたも・・・・鳥インフルになりたいの・・・?」
「そ、そんなことないけど・・・か、関係ねえさ・・・!お、俺は・・・お前を離さない・・・!!お前を追放したあの、女王様やマガモのマガークどもとは違うさ!」
ガチョウのブンは、悔しかった。
・・・いくらアヒルさんが我が儘だって、別にいいじゃないか・・・!!
・・・それだけで、何で湖の楽園を追放されなきゃいけないんだ・・・!!
・・・アヒルさんが追放されなけりゃ、彼女は鳥インフルエンザに侵されなかったのに・・・!!
・・・もう、僕はあの湖の楽園には帰らない・・・!!
・・・何が『ぺしぺし』だ・・・!!
・・・逆に僕が、全員張り倒してやりたいぜ・・・!!
・・・僕は、もうただの『野良ガチョウ』として生きてやる・・・!!
・・・このアヒルと共にな・・・!!
びくん!びくん!びくん!びくん!
「ど、どうしたんだ!アヒルさん!」
アヒルのピッピは、突然体を痙攣させた。
「ど・・・どうやら・・・お・・・『お迎え』が・・・き・・・来たようだわね・・・」
アヒルのピッピは蚊の鳴くように、呂律が回らない程しどろもどろにの口調で言った。
「な、何言ってんだ!!し、しっかりしろ!」
「わ・・・私・・・も・・・もう駄目だわ・・・と、鳥インフルが・・・あ・・・頭にも・・・し・・・浸食しちゃった・・・!!
・・・も・・・もう、か・・・身体中に・・・う・・・ウイルスが・・・ま・・・まわって・・・ゲホッ!!ゲホッ!!ゲホッ!!ゲホッ!!ゲホッ!!
ふふふふ・・・」
アヒルのピッピは激しく咳き込むと、寂しそうに笑みを浮かべた。
「アヒルさん・・・無理はしなくてもいいんだよ・・・」
ガチョウのブンは、そっと翼でアヒルのピッピの頭を撫でた。
アヒルのピッピは、ガチョウのブンの体にもたれ嘴から涎を垂らし、うっとりと目を閉じた。
「ガチョウさん・・・」
「な、なあに?」
「わ・・・私が死ぬ前に、い・・・一生の頼みごとがあるの・・・」
「『死ぬ前に』って・・・」
「わ・・・私はも・・・もう・・・もももも・・・もたなななないわ・・・」
アヒルのピッピは更に激しく痙攣を起こした。
翼も鰭脚も硬直し、ブルブルと震えた。
「あ、アヒルさん!し、しっかりして!・・・
お、俺に頼みってなあに?
な、何でもするよ!」
アヒルのピッピは、ガチョウのブンに顔を埋めてそっと囁いた。
「ふ・・・う・・・せ・・・ん・・・ふ・・・く・・・ら・・・ま・・・せ・・・て・・・。」
「えっ?」
ガチョウのブンは困惑した。
・・・急にそんなこと言われても・・・?!
風船が割れる音が、超が付く程に大の苦手なガチョウのブン。
しかも、肺活量も『ライバル』のマガモのマガークにいつも負けて馬鹿にされていたこともあり、全然自信が無かった。
・・・いや、死にゆく愛するアヒルのためだ・・・
・・・自分の『恥』を晒すのもいいだろう・・・
・・・彼女の為なら、風船が割れるのも、肺活量が少なくて吹き込む空気で顔が凄くむくんでも、怖くない・・・
・・・彼女が天国への手向けに、目に焼き付けてやろう・・・
・・・って、ここに風船なんかあるの・・・?
・・・こんな山奥に・・・
・・・あれっ?・・・
・・・こんなとこに落ちてらぁ・・・?!
ガチョウのブンは、水溜まりにだいぶゴムが伸びてしおしおになっている萎んだ緑色の風船を発見した。
ぴとっ。
ブンは、嘴でその萎んだ風船をくわえると、ぶん!ぶん!と泥だらけの水気を払って、瀕死のアヒルのピッピの側に戻ってきた。
「はい。アヒルさん。よく見ててね。今から俺は、この風船を・・・」
「そ・・・その前に、わ・・・私に少し・・・わ・・・私にも・・・ふ・・・ふ・・・うせ・・・んを・・・ふ・・・くらま・・・させ・・・て・・・!!」
「ええっ?そ、そんな体で大丈夫か?」
アヒルのピッピは、コクりと頷いた。
ガチョウのブンは、早速言われた通りアヒルのピッピに、緑色の萎んだ風船の吹き口をピッピの嘴にくわえさせた。
むぎゅっ。
「さあ、最初にアヒルさん。思いっきり膨らませていいよ。」
ガチョウのブンは、優しく目を細めてアヒルのピッピを見守った。
アヒルのピッピは、最期の有り余る渾身の力を振り絞って、思いっきり深く深く息をすいこんだ。
すぅーーーーーーっ・・・
と、頬が少し膨らむ程度にゆったりと息を萎んだ風船の中に、
ゆっくり、
ゆっくり、
ゆっくり、
ゆっくり、
ぷぅーーーーー・・・
ぷぅーーーーー・・・
ぷぅーーーーー・・・
ぷぅーーーーー・・・
ぷぅーーーーー・・・
ぷぅーーーーー・・・
と、息を吹き込んだ。
緑色の風船は、ゆっくり、ゆっくり、ゆっくり、ゆっくりとアヒルのピッピの吐息で満たされ、どんどん膨らんでいった。
ぷぅーーーーー・・・
ぷぅーーーーー・・・
緑色の風船が、真ん丸く膨らんでいった時、
「ゲホッ!!ゲホッ!!ゲホッ!!ゲホッ!!ゲホッ!!」
ぷしゅーーーー・・・
アヒルのピッピが咳き込んだとたん、嘴から風船の吹き口を離してしまい、みるみるうちに空気が抜けてしまった。
「いいよお!いいよお!無理しなくても!俺が!!俺が膨らまして欲しいんでしょ?何で?何でえ?貴女が風船を膨らまさなきゃいけないんだ!!死んじゃうよ!死が早くなっちゃうよ!死なないで!!こんなことで死なないで!!もう!俺の為に風船を膨らますのはやめて!!」
ガチョウのブンは、大粒の涙をボロボロと流して大声で必死に訴えた。
アヒルのピッピは、ガチョウのブンの叫びに目にくれず、大きく息を吸い込むと、再び緑色の風船を今度は頬っぺたをパンパンにはらませ、最期の、本当に最期の総ての渾身の力を込めて思いっきり息を吹き込んだ。
ぷぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーー!!
風船は、アヒルのピッピの吐息でパンパンに膨らんだ。
「ん!」
「ん?」
「ん!」
アヒルのピッピは、嘴移しにガチョウのブンに命を賭けて膨らませた緑色の風船を渡した。
「わ・・・私の・・・す・・・総ての空気を・・・う・・・受け取って・・・!!」
ガチョウのブンは、空気が漏れないように何とかアヒルのピッピから、朝焼けにキラキラと光る緑色の風船を受け取った。
「す・・・吸って・・・お・・・思いっきり・・・わ・・・私の・・・い・・・息を・・・す・・・吸い込んで・・・!!
そ・・・そして・・・わ・・・『私』をあ・・・『あなた』のな・・・中に・・・と・・・取り込んで・・・!!」
アヒルのピッピは、話すことも儘ならなくなっていた。
止めどなく流れる涙で顔をぐしゃぐしゃになったガチョウのブンは、アヒルのピッピの言う通り、風船に詰まったピッピの吐息を翼の羽根で嘴の鼻の孔を塞ぎ、
すぅーーーーーーっ・・・
と、深く深く深く深くじっくりと吸い込んで、気嚢肺へ、肺から身体中に取り入れた。
・・・僕とアヒルが今、一体になった・・・!!
アヒルのピッピは、ニコッと微笑んだ。
満面の笑顔だ。
「が・・・ガチョウさん・・・
ぷ・・・『ぷうーーー』して・・・
・・・わ・・・私の吐息と・・・あ・・・貴方の吐息で・・・
ぷ・・・『ぷうーーー』と・・・ぷ・・・『ぷうーーー』と・・・
あ・・・あたし・・・み・・・見てるよ・・・
ず・・・ずっと・・・
わ・・・割れちゃう・・・ま・・・で・・・」
ドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキ・・・
ガチョウのブンは、恐る恐るゆっくりと緑色の縮んだ風船へ吐息を入れた。
ふぅ・・・
ふぅ・・・
・・・割れるまで膨らますか・・・
・・・割れると、凄い爆発音がするし・・・
ちらっと、ガチョウのブンはぐったりと横たわるアヒルのピッピを横目で見た。
死期を悟ったように、ニコニコと最大かつ最高の笑顔を、ガチョウのブンに投げかけた。
ニコッ・・・!
ぽっ・・・
胸がキュン・・・!!と締め付けられた。
・・・僕は・・・
・・・僕は・・・
・・・君のために・・・!!
ガチョウのブンはそう思うと、深く息を吸い込んだ。
すぅーーーーーーーーーーっ!!
お腹が、気嚢が、風船のように膨れがった。
ガチョウのブンの嘴の鼻の孔を、翼の羽根で塞いだ。
息を思いっきり吹き込んだ。
頬っぺたが、ブンの嘴のこぶが見えなくなる位、ぷくーっ!と膨らんだ。
もう、ブンの顔がガチョウとは思えない物凄く青筋のたった形相になり、数倍にむくれあがった。
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ガチョウのブンは、身体中の空気を絞り出すようにバワフルに、思いっきり緑色の風船にありったけの吐息を吹き込んだ。
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ガチョウのブンが一生懸命嘴で膨らましている緑色の風船は、段々段々と大きく大きく大きくなり、
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
丸から、
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
涙状になり、
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
やがて、
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
洋梨状になっていった。
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
すぅーーーーーーっ!!
ガチョウのブンは、今にも割れそうに膨らんだ風船への恐怖を惑わす為に、気合いを入れて、息を渾身を込めて吸い込んだ。
風船の吹き口をくわえ、再び息を吹き込もうとする時ブンは、横目でアヒルのピッピを見た。
「・・・・・・!!」
動かない・・・
まるで呼吸をしていない・・・
ガチョウのブンは、青ざめた。
ブンは、風船の空気が漏れないように嘴で吹き口をぎゅっ!とくわえ、横たわるアヒルのピッピの側に恐る恐る近寄った。
鰭脚で突っつく。
何も反応しない。
くわえた風船をぽんぽんと、アヒルの翼や尾羽を触れてみる。
何も反応しない。
鰭脚を翼の付け根をくすぐる。
何も反応はしない。
今度はアヒルのピッピを転がして、風船をアヒルのお腹に載せて心臓の鼓動を確かめる。
・・・・・・
風船が震えない・・・
死んだ・・・
アヒルが死んだ・・・
アヒルのピッピが死んじゃった・・・
ガチョウのブンの『時』が止まった。
既にこと切れていたアヒルのピッピの顔は、ブンには微笑んで見えた時、目からボロボロと涙がこぼれ、くわえていたパンパンの緑色の風船を濡らした。
しゅーーーーーーっ・・・
思わず気が緩み、嘴にくわえた風船の空気が鼻を伝って抜け、みるみるうちに涙状から丸く萎んでいった。
「うっ・・・ううううう・・・」
ガチョウのブンは、激しく嗚咽した。
くわえた風船がブルブル震える程、激しく嗚咽した。
「ううううううううう!!うふううううう!!ううううう!!ううううう!!うううううふううううう!うううううう!!」
ガチョウのブンは、風船を膨らましていることを忘れ、そして、我さえも忘れれ、涙をボロボロと止めどなくこぼして激しく嗚咽した。
「ううううううううう!!うふううううう!!ううううう!!ううううう!!うううううふううううう!うううううう!!」
ぷくっ・・・
ガチョウのブンは嗚咽の際に息を吐き、膨らみ初めの状態から少し膨れた風船を見て、はっ!と気付いた。
・・・僕は何泣いてるんだろ・・・
・・・僕はアヒルに「風船を膨らますのが見たい」と言われて、ずっと風船が割れる音の恐怖を堪えて、この風船に息を吹き込んでたのに・・・
・・・まだ泣く訳にはいかない・・・!!
・・・天国へ羽ばたいていったアヒルの魂の為に・・・!!
・・・この風船を割れるまで、膨らまし通そう・・・あの世で見てくれ、アヒルよ・・・!!
・・・僕はアヒルのために、風船を膨らまそう・・・!!
ガチョウのブンは、涙目で燃える朝焼けの大空を見上げた。
ブンは、深く深く深く深く深く深く思いっきり、肺や気嚢だけでなく、身体中を空気で全部満たすように息を吸い込んだ。
そして、くわえているすっかり萎んでくしゃくしゃになった緑色の風船を翼の羽根でしごいてシワを取ると、頬をこれ以上はらまない程に膨らませ、渾身の力を込め、嘴にくわえた風船の吹き口へ思いっきり息を再び吹き込み始めた。
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ガチョウのブンが涙で滲んでくしゃくしゃの顔を真っ赤にして膨らます緑色の風船は、みるみるうちに大きく大きく大きく膨らんでいった。
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
風船は、丸状から、涙状に、更に洋梨にどんどんどんどん膨らんだ。
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーーっ!!
・・・怖いなあ・・・
・・・もうすぐ割れそうだなあ・・・
・・・でも、風船を膨らますのをやめる訳にはいかない・・・!!
・・・アヒルよ・・・!!
・・・僕に勇気を・・・!!
・・・フィニッシュを決めるぞ・・・!!
・・・アヒルよ、天国で見ろよ・・・!!
・・・ここで、僕は永遠の君への『誓い』を伝える・・・!!
・・・僕は・・・!!
・・・いつまでも・・・!!
・・・君のことを・・・!!
しゅぅーーーーーー・・・
ガチョウのブンの吐息で十分に満たされ、パンパンに膨らみきった緑色の風船から、空気が漏れる異音がした。
ばぁーーーーーーーーーん!!!!!!!!
・・・・・・
・・・・・・
その破裂音は、早朝の山林や野山を響き渡った。
その時、時が止まった。
・・・・・・
・・・・・・
ガチョウのブンは呆然として立ち竦んだ。
「が・・・が・・・があああああああああああああああああああああああ!!」
ブンは叫んだ。
止めどなく涙がこぼれ落ちた。
ブンは泣いた。
ブンは大声で泣いた。
ブンはアヒルのピッピの亡骸に体をうずめて、大声で泣いた。
涙が枯れるまで、大声で泣いた。
泣き疲れたガチョウのブンは、アヒルのピッピの死に顔を見た。
とても、清々しくにこやかだった。
ガチョウのブンは、そっとブンが膨らまし割った風船の破片をアヒルの死に顔に被せた。
・・・安らかに、おやすみ・・・
ガチョウのブンはそう思うと、アヒルのピッピの亡骸を抱き抱えたまま、そのままじっと寝ていた。
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