4#アヒルのために、ガチョウは戦った。

 ケーーーーーン!!



 突然のことだった。




 ガチョウのブンが、病気に侵されたアヒルのピッピに見とれてい隙だった。


 一頭の獰猛なキツネが表れてきたことを。




 ガサガサガサガサガサガサガサガサ!!




 暗がりの辺りも騒がしくなってきた。




 ふう・・・ふう・・・


 ふう・・・ふう・・・




 怪しい物音も響いてきた。




 びゅうううううう!!ごおおおおおお!!




 再び突風まで吹き荒れてきた。




 「へっへっへ・・・」


 腹ぺこギツネのネッケは舌舐めずりして、じり・・・じり・・・と息絶え絶えのアヒルに忍び足をしてきた。


 「たっ・・・たっ・・・こ・・・このぉ・・・」


 ガチョウのブンの鰭脚は、ブルブルと震えた。


 今起きている恐怖に、体が硬直した。




 ・・・ど、どうしよう・・・

 ・・・アヒルがキツネに食われる・・・!!

 ・・・近寄るとこっちにも危険が及ぶし、まだ死にたくないし・・・

 ・・・まじ、死にたくないし・・・

 ・・・女性様に『なでなで』されるまでは、まだ死にたくないし・・・



 「へっへっへ・・・旨そうなアヒルちゃんが寝そべってるぜえ・・・」


 狡猾キツネのネッケは、ペロリと舌舐ずりをして、不気味にやけた。


 「お、おい!き、キツネ!!こ、この・・・あ、アヒルは・・・と・・・鳥い・・・インフルエンザにお、侵されてい、いるんだぞ!

 お、お前が食うと、か、感染して、し、死ぬどころか、も・・・も・・・」


 「はあ?それがどーした?こちとら、1週間も何も食ってねえんだけど。

 感染だあ?そんなの知ったこっちゃねーよ!

 じゃあ・・・お前さんから食って・・・」




 びゅうううううう・・・ごおおおお・・・!!




 その時だった。


 吹き止んだ暴風が、再び激しく吹きはじめた。


 「な、なんだあ?こ、この鳥臭い突風は!!」


 腹ぺこキツネのネッケは思わず煽られ、バランスを崩してよろけた。




 ぶしゅううううう!!ぶわわわわー!!しゅるしゅるしゅる!!




 突然草むらから、何かがキツネのネッケに向かって吹っ飛んできた。


 「うわっ!!うわああっ!なんじゃこりゃ!しっ!しっ!」


 キツネのネッケは、前肢で回りに飛び交う『何か』を追っ払おうと、激しく暴れた。


 ぱしっ!


 キツネのネッケは前肢で『何か』を叩きつけ、夜の闇に打ち落とした。


 「はぁー、ビックリした・・・!

 いったい何だったんだぁ?ありゃ?」

 

 ぽかーん。


 ・・・いったい何やってんだろ、このキツネは・・・?


 ガチョウのブンは、嘴をアングリとあけ、一匹で慌てふためくキツネを見つめていた。


 「何見てんだ?ああん?」


 ガチョウの視線に気付いたキツネのネッケは、のっしのっしとガンをつけて迫ってきた。


 「ま、待って!!キツネさん!!わ、私をた、食べたいのよねえ?

 じゃあ、食べて!!私命は持たないの。」


 「な、なにいってるの?!アヒルさん!!こんな奴に乗せられてんじゃねーよ!」


 ガチョウのブンはアヒルのピッピの言葉に慌て、唾を飛ばして訴えた。


 「へっへっへ・・・御安い御用だ。

 じゃあ、お言葉に甘えて・・・」


 キツネのネッケは舌なめずりして、そろりそろりと、アヒルのピッピに近付いていった。




 そろり・・・


 そろり・・・




 「へっへっへっへ・・・」




 そろり・・・


 そろり・・・




 ばっ!


 「そうはさせるか!!」


 ばんっ!


 いきなり、キツネのネッケに誰かが腹を思いっきり蹴り飛ばした。


 「うわっ!なんなんだぁ!」




 ごろん!ばたっ!




 キツネのネッケは、バウンドした反動で嫌と言うほど頭をぶつけた。


 「痛ぅっ!だ・・・誰だ!!」


 「はあ・・・はあ・・・」 


 がばっと起き上がったキツネのネッケの側には、翼の付けねで息をして仁王立ちしている、ガチョウのブンが顰めっ面でキツネを睨み付けていた。


 「な・・・なんだよ?」


 「ぼ・・・僕の彼女に手を出すな!!」


 「『僕の彼女』?はあ?『ガチョウ』が『アヒル』の彼女だと?

 ぷーっ!!くっくっくくく!!」


 「な、何が可笑しい!!」


 「種族が違うのに、『彼女』だってさ!くっくっくくく!!『アヒル』が『ガチョウ』の卵を生めるかよ!

 常識を考えろよ!!くっくっくくく!!

 ぷっぷっぷ!!あっはっはっはっはっは!!」


 キツネのネッケは可笑しさの余り、遂に笑い転げた。


 「うるせえ!『愛』は種族なんか関係ねーんだよ!」


 「『愛』?はあ?それがどうしたんだい??くせえんだよ!何が『愛』だよ!笑わせんな!!

 おっと!隙あり!」



 キツネのネッケはガチョウのブンを払いのけ、弱っているアヒルのピッピの首根っこをくわえようとしたとたん・・・


 「お前には、アヒルを触れさせないぞーー!!」




 びゅううううううううう!!ごおおおおおおおお!!




 ガチョウのブンの背後から、いきなり突風が吹き荒れてきた。


 「うわああっ!また鳥臭い風が!!」


 キツネのネッケは、突風にあおられながら向かって突き進み、何とかアヒルに食らいつこうと粘った。


 「くっそおー!!この風くらい!でも、鳥臭い!!ぐうっ!くっそおー!!」


 「し、しつこいキツネだなあ!」 


 ガチョウのブンも、激しい突風に煽られながら身構えた。


 「よーっこらしょっと!」


 キツネは、遂にアヒルのピッピの喉笛を捕らえようとがばっと鋭い牙を剥いて大きく口を開いた。


 「危なあああああーー!!!」


 ガチョウのブンは、思わず大声で叫ぼうとした。




 ばぁーーーーーーん!!




 鬱蒼とした茂みの中から突然、強烈な爆発音がした。


 「あああああああああああああああ!!」


 叫び声は、激しい絶叫に変わった。




 ばぁーーーーーーん!!




 ふう・・・ふう・・・




 ばぁーーーーーーん!!


 ばぁーーーーーーん!!




 爆発音は、更に不気味な怪音と共に森の中を何度も激しくこだました。


 「ああああああああああ!!があああああああああああがああああああああがああああああ!!がああああああっ!!があっ!!!があっ!!!」


 ガチョウのブンは発狂した。


 発狂したとたん遂にガチョウの『宝刀』、激しい警戒声が発動した。


 「がああああああっ!!がああああああっ!!がああああああっ!!」


 「うわああっ!うるせえ!うるせえ!うるせえ!うるせえ!うるせえ!うるせえ!うるせえ!うるせえ!うるせえ!うるせえ!うるせえ!うるせえ!」


 腹ぺこギツネのネッケは、たまらず耳を必死に塞いだ。


 「がああああああっ!!がああああああっ!!がああああああっ!!がああああああっ!!がああああああっ!!がああああああっ!!がああああああっ!!がああああああっ!!」


 ガチョウのブンは、警戒声を発しながらどんどんキツネのネッケに近寄っていった。


 「がああああああっ!!がああああああがあああああっ!!がああああああっ!!がああああああっ!!がああああああっ!!があああっ!!」



  「うわああっ!うるせえ!うるせえ!うるせえ!うるせえ!うるせえ!来るな!!来るな!!来るな!!来るな!!うるせえ!うるせえ!うるせえ!うるせえ!うるせえ!

 もう嫌ああっ!

 もう、たまらーーーーん!!」


 キツネのネッケは、遂にアヒルを襲うことを諦めて、そそくさと逃亡して行ってしまった。





 「ふう・・・一時はどうなるかと思ったぜ。

 おーい!アヒルやい!獰猛ギツネは行っちまったぞぉー!!

 大丈夫かーぁ?


 ん?


 あれ?


 おい!アヒル!!しっかりしろ!

 どうしたんだ!アヒル!!目を覚ませ!!!」

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