2#我が儘アヒル
パァーン!!パァーン!!パァーン!!パァーン!!パァーン!!パァーン!!パァーン!!パァーン!!パァーン!!パァーン!!パァーン!!ぷぅーーーーーっ!パァーン!!パァーン!!ぷぅーーーーーっ!パァーン!!パァーン!!パァーン!!ぷぅーーーーーっ!パァーン!!パァーン!!パァーン!!パァーン!!ぷぅーーーーーっ!パァーン!!パァーン!!ぷぅーーーーーっ!パァーン!!ぷぅーーーーーっ!パァーン!!パァーン!!パァーン!!パァーン!!パァーン!!ぷぅーーーーーっ!ぷしゅーーーーーーーーっ!ぶわわわーーーっ!ぷぅーーーーーっ!ぷぅーーーーーっ!パァーン!!パァーン!!パァーン!!パァーン!!
「ぎゃあああああああああああああああああああああああ!!」
やっと、湖に帰ってきたとたんだった。
ガチョウのブンは、風船がパンクする音が湖中に炸裂したショックで大パニックに陥り、仰け反りのたうち回った。
がーがー!
ぴゅー!ぴゅー!
こーっ!こーっ!
ぎゃー!ぎゃー!
かー!かー!
げこげこげこげこげこ!!
くわー!くわー!
「ひいいっ!ひいいっ!だ、誰だよこいつら!」
湖には、夥しい数の鳥達がところ狭しとひしめき合っていた。
「あれ?帰ってきたの?おかえりー!!」
全身を割れた風船の破片まみれにして、マガモのマガークは腰が抜けたガチョウのブンの側に近寄ってきた。
「そ、それよりだ、誰だよ・・・こんなに連れてきて・・・!」
「『連れてきて』じゃねーよ!こいつらは、心無い人間どもが飛ばした大量の風船の被害に遭った鳥達だぜ!
俺とオオワシのリックと手分けして、やっと無事に『生きてた』全被害鳥を救出してきたんだからさあ!」
「中には既に・・・」
マガモのマガークの側には、マガーク同様全身に割れた風船の破片まみれのオオワシのリックが、悔しそうに顔を曇らせうつ向いていた。
「けっ・・・!人間どもは『風船が飛ぶのは綺麗』とか言って・・・大量に・・・飛ばしやがって・・・みんな・・・呑み込んだり・・・嘴や・・・脚に・・・翼が・・・被害に逢うのは飛んでいる俺達・・・鳥なんか・・・人間さえ良ければ・・・どうせ人間にとっちゃ鳥はどうでもいい『害鳥』だ・・・ううぅ・・・」
オオワシのリックはここまで言うと怒りに震え、目から悔し涙を溢した。
バァーーーン!!
「ひゃあああああああ!!め、目の前でふ、風船がわ、割れたあ!!風船割れるの怖いいいいいい!!」
「相変わらずだなブン!風船割れるの怖いの解るけど、毎度毎度オーバアクションだぞ!ははっ!」
目を真っ赤に腫れ上がったオオワシのリックは、激しく仰け反るガチョウのブンに向かって徐に、鉤爪に持っていた萎んだ風船をガチョウのブンの側で、
ぷぅーーーーーーーっ!
と思いっきり嘴で息を吹き込んだ。
「ひゃあああああ!やめて!!やめて!!ストップ!!ストップ!!」
「ねえ、マガモさぁん!ハクチョウの女王様はどこにいるの?」
アヒルのピッピは、マガモのマガークに聞いてみた。
「あ・・・あれ?た、確か、あの鳥達の向こうの向こうのそのまた奥にいたと思ったんだけどなあ・・・?
うーん、見えないや。こっちからは。で、アヒルさんは女王様に何か用なの?」
「私、逢いたいの!だって、女王様に・・・」
アヒルのピッピはそう言うと、徐に夥しい鳥達の群れの中に入り込んだ。
ガサガサガサ・・・
「お前誰だよ!!」
「痛てえな!ひとの尾羽を踏みつけるな!」
鳥達は、無理矢理入り込んだアヒルに、ざわざわ騒いだ。
「ああっ!ちょっと待った!勝手に行くな!!
あ、ごめん!ちょっと失礼しまーす!」
マガモのマガークも、アヒルのピッピを追いかけるように、鳥達の集団に入りこんでいった。
ぷぅーーーーーーーっ!
オオワシのリックが膨らます風船は、大きくパンパンになっていった!
「あーーーっ!」
膨らんでいく風船に怯えていた、ガチョウのブンは叫んだ。
「そうだ!アヒルに絡んだあの風船を、女王様に早く謙譲しなければ・・・あれ?無い・・・!!」
ガチョウのブンは焦った。
「無い!無い!無いーーー!!困ったぁーーーー!!あっ!」
ブンは気付いた。
「リックぅー!その風船!!どこで拾った?」
「えっ?」
オオワシのリックは、嘴から洋梨のようにはち切れんばかりの風船の吹き口を放した。
ぷしゅーーーーーーー!!ぶおおおお!!しゅるしゅるしゅるしゅる・・・!!
「わぁーーーーっ!風船がぁーーー!!」
オオワシのリックの黄色い嘴から離れた水色の風船は、吹き口からリックの吐息を吹き出してロケットのように何処かへぶっ飛んでしまった。
「・・・」
「ごめん!ごめん!そ、そんなに怖い顔しないでよ!ブン!!い、一緒にふ、風船をさ、探そう!!」
涙目のオオワシのリックは、『激おこ』状態のガチョウのブンを連れて、沢山の鳥達の集まる中を掻き分けていった。
ぷぅーーーーっ!ぷぅーーーーっ!
パァン!!パァン!!パァン!!パァン!!
辺りでまだ、鳥達が風船を嘴で膨らましては割る音が響いていた。
「ぎゃあああっ!ぎゃあああっ!」
風船の破裂する激しい音がするたび、ガチョウのブンは、悲鳴を挙げた。
「あーうっせぇ!誰だよ!!」
「ああ、噂の風船が苦手の湖のガチョウだよ!」
鳥達は、口々にヒソヒソ話をした。
ほぉーーーーーーーーー!
ほぉーーーーーーーーー!
「ん?」
オオワシのリックは顔をあげて、外を見上げた。
ほぉーーーーーーーーー!
ほぉーーーーーーーーー!
「ブン!!ブン!!おい!見ろよ!!」
「な、何だよ!!」
「あれ、お前の風船じゃね?こ、こんなにふ、膨らんだっけ?」
「わっ!わああああ!こ、こんなにでっかく?!ま、まさか??!!」
ほぉーーーーーーー!
ほぉーーーーーーー!
水色の風船は、鳥が何十羽もスッポリ入る位に、どんどんどんどん大きく大きく膨らんでいった。
「わーーーーー割れちゃう!!割れちゃう!!」
ガチョウのブンは叫んだ。
「こ、こんなところで騒ぐなよ!!み、みんな睨んでるぞ!は、早くあの風船の所へ!!」
ほぉーーーーーーー!
ほぉーーーーーーー!
「ハクチョウの女王様!!ハクチョウの女王様!!シカトしないでくださいよ!
わ、私は、は、反省をしてますから!」
ほぉーーーーーーーー!
ほぉーーーーーーーー!
オオハクチョウのメグ女王様は、アヒルのピッピが涙声で何度も何度も訴えも無視を決め、美しい羽根を巨大に膨らんでいく風船を押さえ、頬をはらませ嘴からゆっくりゆっくりと、息を吹き込んでいた。
「女王様・・・」
マガモのマガークも、女王様の冷たい態度にただ、言葉を失った。
「マガーク!!なにボケーーっとしてるの!早く!!やって来た『大量風船飛ばし被害』の鳥達の総数をカウントしなさい!」
「は、はいっ女王様!!」
カチカチカチカチカチカカチカチ・・・
「やっぱりだー!この水色の風船の赤めのかかったシミ!
ずいぶんでっかく膨らんで、だいぶ
薄く見えてるけど、あれはアヒルの血痕だよ!釣り針が刺さって体に食い込んで流れた血痕だよ!」
ガチョウのブンは、アドバルーン以上に膨らんだ水色の風船にビビりながら必死に叫んだ。
「女王様!この世で一番可愛い女王様!この世で一番美しい女性様!!」
「ふぁーい!ふぁーに?(はぁーい!なぁーに?)」
ハクチョウの女王様は、突然満面の笑みを浮かべて、吹き口を嘴にくわえながらガチョウのブンに振り向いた。
「そ、そんなにでっかく膨らませたら、ドデカイ音をたてて・・・ぱ、パンクしちゃうよおおおおお!」
「ほまへ、らふひゃふふうへんはほうひは?(お前、落下風船は持ってきたか?)」
ハクチョウの女王様は、尚も風船に息を吹き込みながらブンに問うた。
「ら、落着したふ、風船は、じ、女王様が膨らましているそ、それです!」
「ん?ほほひはっははは・・・ふぁふぁふぁ(ん?そこにあったから・・・はっはっは!)」
「す、すいません!女王様!俺が知らないで膨らませてつい、離して・・・」
「ほひ!ほほはひ!はふふほはほーひは!(おい!オオワシ!!カウントはどーした!)
ほはへはひはひは、はほはははひひはっへふふほ!(お前がいないから、代わりにカモがやってるぞ!)
ほはへへはひひはは、はほふはひひ!(お前目がいいから、頼んだのに!)
ぺひぺひはへへはひはふははひほ!(ぺしぺしだけでは済まされないぞ!)
ははっはは!(分かったか!)」
「す、すいません!『ぺしぺし』だけは!」
オオワシのリックは、慌ててたじろいだ。
「カワウにシラサギ、アオサギ、カモ、ハクチョウ、カイツブリ、オオバン、ヒヨドリ、ムクドリ、キジバト、ツグミにツバメ、チドリにスズメにオナガ、メジロにシジュウカラ、チョウゲンボウ、トビにオオタカ、カラスにカモメも・・・ドバトもいる!」
ガチョウのブンは、どんどんどんどん大きく大きく膨らむ風船にビビりながら夥しい数の鳥達を観て、思わずのけ反った。
「オーイ!マガーク!!どんぐらいいる?」
カチカチカチカチカチカカチカチ・・・
どこかで『野鳥の会』が忘れていったのを拾ってきたという、カウンターを鰭脚で押しているマガモのマガークにガチョウのブンは聞いてみた。
「うるせえ!邪魔するな!」
マガークは、ブンに怒鳴った。
「きゃーーーっ!面白い!!カウンターを押させて!!押させて!!」
「!!」
突然のことだった。
アヒルのピッピは、猛ダッシュでマガモのマガークを押し倒した。
「あうちっ!」
カチカチカチカチカチカカチカチ・・・
「きゃーーーっ!面白い!!面白い!!かちかちかちかち!」
カチカチカチカチカチカカチカチ・・・
「て、てめえ!何をしやがる!」
揉んどりうって転げ、ムクッと起き上がった怒り浸透のマガモのマガークは、渾身の力を込めて翼でアヒルのピッピを殴り付けた。
ばんっ!ばきっ!
「きゃっ!」
「おい、アヒル!我が儘もいい加減にしろよな!チクショウ!!お前のせいで、数え直しだ!!
おーい!リック!!」
「はーい!」
「代わりにカウントしてくれないか?あたしより目がいいだろ?」
「おうよ!『ワシ』を舐めるなよ!!」
カチカチカチカチカチカカチカチ・・・
カウンターを押し数を数え始めたオオワシのリックにマガモのマガークに会釈をすると、キッ!とアヒルのピッピを睨み付けた。
「・・・」
「ピッピ、これは君がいけないよ。この鳥達は、今大事なことをやっているんだ。
邪魔した君が悪いんだよ。」
項垂れるアヒルのピッピをガチョウのブンは、そう宥めて言った。
「・・・あ・・・ああ。わ、私はまた・・・」
「えっ?」
「わ・・・私、直ってない・・・我が儘、直ってない・・・」
「ピッピ・・・」
「よぉーし!こんぐらい膨らめばいいでしょ!」
オオハクチョウのメグ女王様は、嘴から夥しい鳥達が全部スッポリ入る位にとてつもなく大きく膨らんだ、水色の巨大風船の吹き口をゆっくり離した。
びょーん・・・
嘴と風船の吹き口の間に、一筋のよだれが伸びた。
ぷつん・・・
よだれの線が切れると巨大風船は、
ぶしゅーーーーーーーーーーーー!!しゅるしゅるしゅるしゅるしゅるしゅるしゅる!!ぶおおおおおおおおおーーーー!!
と、鳥達の頭上にハクチョウの女王様の吐息を吹き口から激しく吹き出しながら、右往左往にロケットのようにぶっ飛んで行った。
がーがー!
ぴゅー!ぴゅー!
こーっ!こーっ!
ぎゃー!ぎゃー!
かー!かー!
げこげこげこげこげこ!!
くわー!くわー!
鳥達は、やんややんやと、萎みながらぶっ飛んでいく風船の姿に大歓声をあげた。
それは、『人間のエゴ』に虐げられた者達を癒す魔法の吐息を浴びる儀式。
お互いに永遠の『愛の仲間』となることを誓う儀式。
どんなことが起きても、決して『一羽』ではなく、この『愛の仲間』がついていることを心に刻む儀式。
ただし、
一羽以外。
アヒルのピッピ。
彼女だけは、『仲間外れ』だった。
彼女だけは、『除け者』だった。
「・・・」
アヒルのピッピは、ムクッと起き出し、トボトボと湖を離れた。
「ピッピ、何処に行くんだ?」
「・・・」
ガチョウのブンは、アヒルのピッピに聞けどもシカトを決め込め、
トボ・・・トボ・・・
トボ・・・トボ・・・
と、去っていった。
「ねえ、ガチョウ。何見てるんだよ。あの我が儘アヒルはこの湖から『永久追放』なんだよ。ほっとけ!」
マガモのマガークは、ぽん!と無念の悲しみに震えているガチョウのブンを翼を叩いた。
「そうだよ。あいつには、『ここ』は向いてないんだよ。」
オオワシのリックも、しかめっ面をして言った。
「だって・・・あいつも・・・あいつも・・・傷付いていたんだ!釣り針付きの風船に体を絡ませて!!
ぼ、僕はあいつの絡んだ風船の紐を取り除いたんだ!
全身を血まみれだったんだ!
既に傷は化膿していた!
ひとりぼっちなら、あのアヒルもう・・・命は無い・・・死ぬんだ・・・!!
それでもいいのか?
過去に何があったか知らないけど、あいつも『愛の仲間』じゃないのか?
え?ハクチョウの女王様よお!
何でシカトを決め込む!!
あいつをかつて追放させたのは、我が儘だったからか?
路頭に迷わせなければ、あいつは・・・」
バシッ!!
マガモのマガークの翼は、ガチョウのブンの頬を殴った。
「ガチョウ!!何でそれを早く言わない!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます