ハクチョウの女王様と翼ある風船達のものがたり
アほリ
第一部:ハクチョウの女王様の弟子編
1#ガチョウとアヒル
ひーひーひーひー・・・
すいっちょん、すいっちょん。
コウロギやスズムシ、クツワムシ等の無数の秋虫が合奏する真夜中の草むらの中。
ガサガサガサガサガサガサ・・・
大きな黄色い嘴を、草むらに突っ込ませて一羽のガチョウが何かを探していた。
「うーん・・・ここにも無いなあ・・・。」
ガチョウのブンは、「この前ゴム風船が、あの峠に落着したよぉーん!!」と通りすがりのオオタカの証言を『鵜呑み』にして、風船を必至に探しまわっていた。
「早く見つけないと、他の鳥に風船の紐が絡まって被害が・・・あれ?あれ?ここには・・・ないなあ????」
ガサガサガサガサガサガサ・・・
ガチョウのブンは焦りまくった。
ガサガサガサガサガサガサガサ・・・
「困った困った困った困った!!」
ブンは黄色い嘴で、草むらを掻き分けて掻き分けて掻き分けて掻き分ける度に段々段々テンパってきた。
「困った困った困った困った困った困った!困った困った困った!?!Σ( ̄□ ̄;)♪イヲマンテの困った!!見付からないと、またオオハクチョウのオバサンが、僕に『ちょめちょめ』される!!」
・・・誰が『オバサン』だってぇーーー・・・
突然、ブンの目の前にオオハクチョウの女王様の『幻想』がどんどん膨れ上がって立ちはだかった。
「ごめんごめんごめんちゃい!!『ちょめちょめ』だけはやめてぇ!『ちょめちょめ』だけはっ!」
とたん、
ぷしゅー・・・っ!
と、ブンの目の前から女王様の『幻想』が萎んで消えた。
「ふぅ・・・ふぅ・・・おいら、疲れてんのかなあ?『幻想』まで見えてきたぜ。」
ガチョウのブンは、再び草むらに嘴を突っ込ませて、掻き分けたり、砂を息で吹き掛けて払ったりして、風船を汲まなく探しまわった。
がー!!がー!!がー!!がー!!がー!!がー!!がー!!がー!!がー!!がー!!がー!!がー!!がー!!がー!!がー!!がー!!がー!!
ばさばさばさばさばさばさばさ!!
「ん?!なんだ??何かが暴れている・・・まさか!!」
ガチョウのブンは、物音がする繁みに向かって歩き寄った。
がー!!がー!!がー!!!が!!!!がー!!!!!!
「あっああああ!!」
ガチョウのブンは叫んだ。
そこには、風船の紐が複雑に絡まった一羽のアヒルが、羽根や羽毛を一面にぶちまけて、むちゃくちゃに暴れていたのだ。
「こ・・・こりゃ、た・・・大変だ!!」
ガチョウのブンは慌てて、アヒルの絡んだ紐を外しにかかった。
「がー!!がー!!がー!!がー!!な・・・何をする!!」
アヒルは、声をあらげて嘴で紐を引っ張るガチョウに叫んだ。
「お、お前を助けにきた!!」
「嫌だ!!わ・・・私はこ・・・ここで死ぬんだ!!」
アヒルはガチョウのブンを必死に振り払った。
ドサッ!!
「痛う・・・何しやがる!!・・・あ・・・ああっ!!」
ガチョウのブンは、紐の絡み具合に畏怖した。
・・・これは・・・酷い・・・!!
紐がきつく締って、そこから大量な血が滲んでいたのだ。
「アヒル!!お前を生かす!!死なせない!!まず、『生きる希望』を持て!!」
ガチョウのブンは、アヒルの体から締め付けていた紐を外そうと試みた。
「がー!!がー!!がー!!がー!!がー!!痛い!!痛い!!痛い!!痛い!!がー!!がー!!がー!!がー!!」
「ごらぁ!暴れるな!!暴れるな!!暴れるな!!」
ぶちっ!!
アヒルの胸に食い込んでいた紐が、暴れた反動で切れた。
紐がきつく締めつけられた部分から、血が噴き出した。
「しまった!!」
ブンは慌てて、舌でペロペロと傷口を舐めまわして止血しようと試みた。
「ぶふっ!おええ!!血が器官に入った!!」
アヒルの血まみれで赤く染まったガチョウのブンは、咳き込んだ。
「がー!!がー!!がー!!がー!!がー!!死にたい!!死にたい!!死なせて!!死なせて!!」
アヒルは、更に激しく暴れた。
「お、お前!!生きる望みを失うな!!おいらが助け・・・!!そうだ!!」
ガチョウのブンは、アヒルが暴れる度に紐の先をがしっ!と嘴でくわえた。
「そおおおらよおおおおっと!!」
ガチョウのブンは、思いきってくわえた紐をぐいーーーっ!と引っ張った。
くるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくる!!
「うわああああ!!目が回るうううう!!」
アヒルの体に絡み付いた紐がガチョウの引っ張った反動で、みるみるうちにほどけ、コマのようにアヒルの体が高速回転した。
どすん!!
体の紐がすっかり解けたアヒルは、思いっきり尻餅をついた。
「いたっ・・・?!あれ?あれ?」
アヒルは、自由に拡げられるようになった翼をみてキョトンとした。
「ぜえ・・・ぜえ・・・よかったぜええええええ!!」
ガチョウのブンは、土埃と血でドロドロに汚れた翼を、アヒルにひしっ!と抱き抱えて、わあわあと泣いた。
「な・・・何で助けたのよ!!」
「えっ?」
「私・・・私・・・このまま死にたかったのに!!」
「『死にたかった』って・・・何で?」
・・・このアヒル、気が動転してるんだ。きっと・・・
ガチョウのブンは思った。
つん。
ガチョウのブンは、黄色い嘴をアヒルの嘴を小突いた。
「君、苦しかったんだね。大丈夫だよ。おいらは、ガチョウの『ブン』。
君は?」
「私?私は・・・アヒルの・・・『ピッピ』っていうの・・・」
「何でここに君のような可愛いアヒルが?」
アヒルのピッピは、ぽっ!と顔を赤らめた。
「やあね!『可愛い』だなんて、生まれて初めてよ!ふふん!!」
恥ずかしそうにアヒルのピッピは、ボロボロの羽根をガチョウのブンの頭をポンポンとはたいた。
「うわっ!そんなつもりじゃ・・・!」
ガチョウのブンは、変な事を言ったんじゃないかと困まった顔をしてアヒルのピッピに振り向いた。
「ねえ?ガチョウさん。」
「なあに?」
「私、風船追いかけてたの。私、風船大好きで・・・そしたら・・・」
アヒルのピッピは、体に絡んでいた風船の紐から、風船を取ろうと必死に脚ひれで押さえて嘴で、必死に引っ張ろうとした。
ぎゅーーーっ!
「何してるの?また体に紐絡んじゃうぜ!」
「だって!私!風船で遊びたいの!ちょっと萎んでるから、ぷぅーっ!としたいの!」
「だめ!おいら、そのどうしても必要なんだよ!」
「なんでえーー???!何に使うのおーーー!?まさかこの風船を横取りしたい訳?」
アヒルのピッピは、突然悲しい顔をしてガチョウのブンに振り向いた。
「違う!」「じゃあ、なあに?」
「それはな、おいらはオオハクチョウの女王様直属の落着風船探索隊に入ってるからだよ。」
「じょうおうさま???はっ!」
アヒルのピッピは目を見開いた。
「え?君、女王様に何か・・・?」
「ええ・・・まあ・・・それより、風船!風船ぷぅーっ!したぃぃーっ!」
アヒルのピッピは、尾羽をフリフリしてせがんだ。
「駄目だよ!その風船は・・・しつこいなあ!」
ガチョウのブンはそう言い放つと、風船の紐の先に付いた釣り針を嘴で引きちぎった。
「困ったなあ・・・この風船貸してあげるから、この釣り針土深く埋めるの手伝って!!」
「はーい!」
ガチョウのブンとアヒルのピッピは、徐に嘴と脚ひれで
ばっ!ばっ!ばっ!ばっ!ばっ!
と、穴を深く深く深ーーーく掘った。
「よし!埋めるぞ!!」
ばっ!ばっ!ばっ!ばっ!ばっ!
「これでひと安心・・・ん?」
ぷぅーーーーーっ!
ぷぅーーーーーっ!
「うわーっ何してるんだよ!」
アヒルのピッピは頬っぺたをパンパンにして、体に絡んでいたあの風船を解いた吹き口を嘴にくわえて息を思いっきり吹き込んでいた。
「わーーーっ割れる!!割れる!!割れる!!」
ガチョウのブンは、慌ててアヒルのピッピの嘴から膨らんだ風船を奪い返すと、
ぷしゅーーっ!ぶわわわーーーっ!
と、萎ませた。
「んもう!女王様に現状維持で風船を献上させなきゃいけないのにぃ!」
ガチョウのブンは不機嫌そうに、アヒルのピッピにプンプンと怒った。
「あれ?今さっき、風船貸してあげるって言わなかったっけ?」
アヒルのピッピは、首をかしげた。
「んーにゃ。おいらは『あげる』とは言ってないよ。『貸してあげる』って言ったんだよ!』」
ガチョウのブンは困惑した。
「ねえ?ガチョウさん。」
「なあに?アヒルさん。」
「お願い!この風船をガチョウさんが膨らませて!」
「ええっ?」
「だから、ガチョウさんがぷぅーっ!と。見てみたーい!ガチョウさんがぷぅーっ!と!膨らませて!!膨らませて!!ぷぅーっ!と!見たい!!見たい!!」
ガチョウのブンは焦った。
何故なら、ブンは風船が割れる音が苦手だったし、口に吹き口をくわえただけで冷や汗だったのだ。
更に、この風船は今さっきアヒルが膨らませてゴムが伸びきっていたので、すぐ割れる可能性があり、女王様に『ぺしぺし』されることを畏怖したからだ。
「ま、また今度な。それより、一緒に来ないか?女王様のとこ。
何か君、訳ありでしょ?」
「ま、まあ・・・」
アヒルのピッピは言葉を濁して言った。
「それに、そこ風船がいっぱいあるぞぉ!」
「本当?!行く!行く!行く!行く!行こう!行こう!風船で遊びたい!風船!風船!風船!風船!」
突然、アヒルのピッピは嘴の鼻をパンパンにはらませ、目をキラキラと輝かせた。
「じゃあ行こう!一緒に!!でも、ちょっと遠いぞ!
丁度もうすぐ夜明けだ。もうちっと、明るくなったら一緒に行こう!」
「うん!」
朝焼けが山々を照らし、太陽が昇っていく中、ガチョウとアヒルはあの女王様のいる湖に向かって歩いた。
お互い風船談義をワイワイ話ながら。
「飛べたら、一気に湖に行けるのにね。」
ぼそっと呟くアヒルの姿に、ガチョウのブンは、はっ!と気づいた。
・・・どっかで会ったような・・・
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