「あなたの見えないところで、あなたを守っているわ。」

「何をそんなに怒っているの?」

ナツミは震えた声でぼくにそう言った。気づけば泣きそうな顔になっていた。

「お前、自分の体を取り戻すために俺を利用しているだけなんだろ?幸せポイントとやらを集めて自分が得をするために、俺を駒として使っているだけなんだろ?お前にとっては、俺はそれ以上でもそれ以下でもない存在なんだろ?」

「そんなこと言ってないじゃん…。」

「そういう話だろうが!俺がな、タケルくんと友達になりたいと思ったのはな、お前を助けるためではないんだよ!タケルくんを助けて、そして自分自身を助けるために友達になったんだ!お前のためにやったわけじゃないんだよ!」

叫びながら、ぼくは珍しく激昂している自分に驚いていた。なぜここまでナツミに熱苦しい感情を吐露しなければならないのか考えていた。

 ぼくにとって、タケルくんは高校生活ではじめてできた友達だったのだ。彼を無下に扱われるのが、タケルくんを、ひいてはぼくを否定されているような気がして、辛抱ならなかったのだ。

 彼女はきつく唇を結んで、目に涙をいっぱいためて、ぼくをにらみつけていた。

「なんで?なんでわかってくれないの?わたしはあなたをずっと守ってきたのよ。この世に存在するおびただしい数の悪霊や怨念や不幸があなたに指一本触れないように、一生懸命守ってきたのよ。

 それなのに…。なんでそんなことしか言えないの?ありがとうの一つも、わたしはあなたから言われたことがない…。わたしのために、わたしがあなたと本当の人間として出会うために、できることならなんでもするって言ってくれたのに、どうして裏切るようなことを言うの?」

後悔の念がゆっくりとぼくの心を侵食していく。ぼくはきっとこの守り神に捨てられて、死ぬだろう。ぼくの強情な性格が、彼女のわがままな性格とうまくやっていけるわけがない。いつかこうなることはわかっていたんだ。

 それでも。許せなかった。友達を、ぼくをおろそかにされるのが不快だった。

 ナツミを傷つけたことに、ぼくは少しも良心の呵責を感じていなかった。彼女が間違ったことを言っているとはっきりとわかっていたからだ。しかし、ぼくの心に押し寄せてくるこの痛みはなんだろう?

 ぼくは、ぼく自身に嫌気がさしている。そしてそのことに傷ついている。

 相手から言われた言葉に対して感情的になり、そういう表現しかできない自分に傷ついている。

 なんだか情けなくなった。

「わたし、少し自分の世界に引きこもることにするわ。落ち着いたときに、また会いに来るわ。

 わたしはあなたにそんなことを言われても、なぜだか見捨てることができないのよ…。

 あなたの見えないところで、あなたを守っているわ。

 でも、これだけは忘れないで。

 あなたは、タケルくんを本当に助けているわけではない、ということ。

 あなたはタケルくんについて何も知らないのだ、ということ。」

「俺は何回も言っているけどな、人は人を助けることなんてできないんだ。自分が自分自身を勝手に助けることしかできないんだよ。友達は助けるものじゃない。自分自身を救ってくれる存在だ。

 友達について、なにも知らなくてもいい。友達は、助けなくていい。

 タケルくんの闇は、タケルくんしか解決できない。

 俺が介入する必要なんてない。」

ナツミはふっと笑った。

「それでもジンくんは、だれかのために何かをしようとするわ。わたしは知っているもの。あなたは、究極のお人よしだって。」

「うるさい。消えろ。」

ぼくがそういうと、彼女はムキになっているぼくの表情が可笑しいのか少しほほえんだ。そして次の瞬間には目の前から忽然と姿を消していた。

 心がスーと軽くなった。気持ちよくて、ぼくは深呼吸をした。

 何せ、二人分の意識が心の中に入っていたんだ。いままで窮屈だった分、快適に思えて当然と言ったところだ。

 せいせいしたのと同時に、なんだかやるせない、落ち着かない気持ちになってぼくはため息をついた。

 

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