「お前、友達できたことあんのか?」

「ちがう、ちがう。そこはそういうコマンドを打つんじゃなくて、こういうのを打つんだよ。」

「ああ、そうか。」

「そうそう、いい感じだよ。その調子。」

静かな屋上のベンチに座って、楽しそうにぼくは青年・タケルとゲームをしている。あの1戦以来、ぼくとタケルは毎日屋上でゲームをして遊んでいた。

 なぜだがわからないが、ぼくはタケルとすごく気が合う。

 似た者同士は敬遠しあうというが、案外ぼくとタケルはまったく違った人間なのかもしれない。

 ときどきぼくとタケルはゲームをやめて、空を見上げ、何気ない会話を交わすこともあった。正直、彼はぼくよりもすべての物事を達観しているところがあった。弱い自分を弱いと言い放つ潔さがあった。ぼくはそんな彼に惹かれていた。

「どうせな、卒業するんだよ。高校なんて。その先も大学も、会社も、すべてさよならをするんだ。人生にも終わりはあるし、そういう意味では何もないことと同じなんだよ。」

しみじみとぼくにそう言う彼はさびしそうだった。

「それでもなにかやらなくちゃならないのが、人生っていうものだ。何もかもダメになっても、やりつづけなくちゃいけないのが人間だ。俺は誰とも相容れなくても、学校には行こうと思っている。たとえ自分の世界に引きこもっていてもだ。」

彼の思想や価値観や哲学は、言ってみれば悲しい人生の選択なのかもしれない。それでも、歩んでいくのが生き方だと信じるのが彼の流儀だった。ぼくはそこに深く同調した。

 その日の昼休みも何事もなく過ぎて、チャイムが鳴った。

 ぼくはタケルと別れて、自分の教室に戻ろうとしていた。

「あのさ。」

そのとき、ナツミがぼくに声をかけた。

「どうした?」

ナツミはなんだか不安そうだった。

「ジンくん。タケルくんと友達になったのはいいんだけど…。」

彼女は珍しく歯切れの悪い言い方をしていた。

「なんだよ。言ってみろよ。」

「それだけじゃ、だめなのよ。それだけじゃ。」

「なんだよ。なにか不満でもあるのか?」

「ジンくんはタケルくんを救ったことにはならないのよ。」

彼女はぽつりと頭をさげて言った。

「何の話だ?」

「だから、幸せポイントが降りてこないの。」

彼女は唇を震わせてそう言った。

幸せポイント?そういえばそんなのがあったような…。

「そんなの、どうだっていいじゃないかよ。」

ぼくは明るくそう励まそうと思ったが、次の瞬間しまったと思った。

「ジンくん。わたしのこと忘れてしまったの?ジンくん、わたしに言ったよね?幸せポイントを集めるために、協力してくれるって。わたしが自分の体を取り戻すために頑張るって。約束したよね?どうしてそんな言い方するの?」

おびただしい言葉の羅列がぼくの頭の中をかけめぐって、あちこちに不協和音を響かせている。

 ほら、めんどうくさいことになった。

 1週間ナツミと共にして、こういう彼女の癇癪には大分慣れるようになった。彼女は小学生らしく、本当に子供っぽかった。自己中心的で、意地っ張りで、いつも自分のことしか考えていない。ぼくもそういう彼女に対しては穏やかに接しようと心に決めていた。

 じゃないと、たぶん度重なる不幸に見舞われてぼくは死んでしまうのだろう。

 でも。今回の件についてはぼくもさすがにムッとした。ナツミはタケルくんを自分が体を取り戻すための道具だとしか思っていないのだろうか?ナツミがぼくとタケルくんを引き合わせた理由は、見るからに不幸そうなタケルくんを少しでも幸せにして、幸せポイントとやらを得ることでしかなかったのだろうか。その程度の意味合いに過ぎなかったのだろうか。

 そうだとしたら、あまりにも残酷な考えというものではあるまいか。

「お前、友達できたことあるのか?」

ぼくは威圧的にナツミにそう言った。


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