「友達になるなんて簡単なことじゃないか。」
「一緒にゲームしようぜ!」
次の日の昼休み、ぼくは前の日と同じように屋上に来た。彼はやはりベンチに座ってゲームをしていた。ぼくは彼を見ると、一目散に隣に座ってそう言った。
ぼくは昨日、ナツミと相談して彼がやっていたゲーム機とゲームを買ってきていた。彼は依然としていぶかしそうに僕の顔を覗き込んでいた。
「君って、気持ち悪いね。」
辛辣な言葉が返ってくる。
「どうしてそう思うんだい?」
僕は特に腹を立てることもなく、彼にそう聞いた。
「薄気味悪いじゃないか。見ず知らずのやつに話しかけられるなんて。」
吐き捨てるように彼はそう言った。
沈黙が流れた。
「見ず知らずのやつじゃないだろう?同じ学校の生徒だよ。」
「いずれにしても赤の他人だ。」
「人間、大半は赤の他人だろう?」
お互いに牽制しあうようにして、どことなくかみ合っていない会話が繰り返される。彼はすこしムッとしたようにこう言い放った。
「百歩譲って、赤の他人と一緒にゲームをするとしよう。だけど、君とはごめんだね。君のことはよく知っているよ。高校に入ってから、誰とも話さない。口を利かない。一人でずっと本を読んでいる。気持ちが悪い人だって、校内でも有名なくらいだ。そんなやつと一緒にゲームをしているところをほかのだれかに見られでもしてみろ。ぼくまで変なやつだと思われるだろ?学校一の美少女が話しかけてくれるなら別だけどね。」
勝ち誇ったようにそう叫ぶ彼を前にして、ぼくは悲しかった。
高校に入ってから、誰とも話さない。口を利かない。
もちろん、ぼくはそういう人間だ。でもそれはたぶん、彼自身のことも言っている。
彼はそのことをわかっている。わかったうえで、そう言わずにはいられなかったのだ。
彼は知っている。ぼくと彼が友達になれることを知っている。
ふふっ。なぜか少し笑みがこぼれた。友達になるなんて簡単なことじゃないか。
「確かに、俺は学校一の美少女じゃないし、教室の片隅で本を読んでいる陰険なやつかもしれない。でもな。ゲームだけは誰にも負けねえ。奇遇なことに、昨日俺はお前と会って、同じ格闘ゲームをもっていることに気がついたんだ。
わかるだろ?俺が何を言いたいか?俺はお前と仲良くなるためにここにいるわけじゃない。あくまでも都合のいい対戦相手を探して、お前に行き着いたまでの話だ。これは勝負だ。果たし状だ。」
ぼくの剣幕に圧倒されて、彼は少し引いた。おそらく、さきほどの言葉でもう帰ってくれると思っていたのだろう。しかしそこまで言われれば、ゲーム対戦をしないわけにはいかない。
「ちょっと、ちょっと。」
心配そうに見ていたナツミがぼくの顔をのぞきこむ。
「そんなこと言っていいの?昨日そのゲームを買っただけで、まだ何もしていないのに。」
ぼくは彼女の様子などおかまいなしに彼とゲーム対戦をはじめた。
「負けたら、どうする?」
彼はにやりと笑ってぼくにそう言った。
「そうだな。
土下座かな。」
「へっ。そうこなくっちゃな。
お前みたいなやつ、ぼくは初めて会ったよ。」
威勢よく戦いを挑んだはいいものの、結果は惨敗だった。
「いやお前、弱すぎんだろ!!」
彼に盛大なつっこみを入れられながら、ぼくは屋上のコンクリートの上に正座して深々と頭を下げた。
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