「片桐ナツミ」
前回までのあらすじ。
ある日ぼくは自分の守護霊が突然見えるようになった。その守護霊は生き返るために、そしてぼくと結婚するために、ぼくに人助けの協力をしてほしいと言ってきた。まったく、突拍子もない話だ。自分でしゃべっていても信じられないくらいだ。しかし、これが見まがうことなき現実というわけなのだ。
彼女を追い払うこともできないので、とりあえず自分の部屋で話を聞くことにした。どうやら彼女がいないとぼくは死んでしまうらしい。
「守護霊の加護が得られなくなった人間には災難が降りかかるんだけど、ジンくんは特別運のない男だからね。わたしがジンくんのそばで守ってあげないと、すぐに死んじゃうんだよ♪でもそれにしたって、飛行機も車もカラスも、お相撲さんまで引き付けるなんて、ジンくんはなんて悪運の持ち主なの!!」
ぼくをネタにして、きゃっきゃと笑う小学生を見てるとぶちのめしたくなる。幽霊だから、物理的にそれは不可能なのだけれど。
「だからね、ジンくんとわたしは一心同体なの。少しも離れてはいけないのよ。言ったでしょ?ずっと守り続けてきたって。わたしが自分の霊力で守ってあげないと、ジンくんはいろいろな悪いものを呼び寄せてしまうのよ。」
「全然信じたくないけど、お前が俺の守護霊なのは認める。もうあんな思いしたくないからな。そして不本意ではあるが、俺はお前に協力しなければならない。そんな七めんどくさいこと、絶対にしたくはないが。今回ばかりは、これが運命だとおもって受け入れるしかあるまい。」
「またまた~。ほんとはうれしいくせに~。さっきは愛しているって言ってくれたじゃない。わたしが大好きだから、わたしのために、協力してくれるんでしょ?ごまかさなくてもいいのに。この、ツンデレさん!」
ぽっと頬を赤らめたり、ぼくの肩を人差し指で突っつく彼女。どこまでこの女は自分に自信があるのだろうか?ぼくのことを小学生が大好きなロリコン野郎とでも思っているのだろうか?
「別に俺はツンデレじゃねえよ!本心だよ、本心。お前がいないと死んでしまうらしいから、仕方なく、仕方なく、お前の願いの手助けをするって言っているんだ。勘違いするんじゃない。お前のことなんか、これっぽっちもなんとも思ってないんだから。」
「やだ♡わたしがいないと生きていられないのね♡式場どこにしようかしら?」
「ばか、ちがうよ。別にいまの言葉はプロポーズとかじゃなくて、事実そういう状況だから言っているんだろうが!」
ぼくの話もろくに聞かず、ひとりで恥ずかしがっている彼女は置いておいて、ぼくはこのとんでもない面倒ごとをどうにかして整理しようと思った。そこまで頭もよくないので、ノートにわかっていることを箇条書きにしてまとめてみた。
・守護霊から守られなくなった人間は、災難に見舞われる(ぼくの場合確実に死ぬ)。
・この世界でひとの助けをすると、幸せポイントと呼ばれるものが得られる。
・この幸せポイントを集めることで、俺の守護霊は生き返る。
こんな感じか。
「そういえば、お前名前はなんていうんだ?」
回転いすに座って勉強机に向かっているぼくは、ベッドに寝転がって天井を見上げている彼女に声をかけた。
「わたし?」
彼女は自分のあごに人差し指を当てて、少し考えるしぐさをとった。
「えーっとね、なっちゃんって呼んで。」
「いやだから、フルネームだよ。」
「なんで教えないといけないの?」
「初対面のやつに、いきなりあだ名で呼べるかよ。本名が知りたいんだよ。」
「いいじゃない、そんなの知らなくても。なっちゃんでいいわよ。今までずっと一緒にいたんだから。」
「俺にはお前の存在が見えたのはついさっきのことなんだよ。会ってすぐの人間になれなれしくなんてできないだろ?」
彼女は天井を見上げて、2,3秒じっとしていた。その顔は、なんだか彼女らしくもなく、元気がなく寂しそうに見えた。そして急に起き上がって、ぼくのほうを見た。
「えっとね、片桐ナツミっていうの。よろしくね。」
彼女ーナツミーは、そう言ってぼくのほうまでふわふわと移動し、握手を求めてきた。
「片桐か。よろしくな。」
ぼくも少しだけ微笑んで、感触を覚えることのない奇妙な握手をナツミと交わした。それでも、彼女の複雑な表情は変わらなかった。
片桐ナツミか。ナツミか。そういえばこいつはぼくのことをほぼ全部知っているけど、ぼくはこいつのことを全然知らないんじゃないか。いまようやく、名前を知ったくらいじゃないか。さして知りたいとも思わなかったが、なんとなくそのことが気にかかった。
ナツミは自分が元人間だと言っていた。ということは、人間界で生きていた時代があったということだな。ふと、心の中にわだかまる大きな不安を感じて、ぼくははっとした。
ん?そういえば、どうしてこいつは死んだのだろう?
「なあ、片桐。お前はどうして…」
しかしその言葉は、何者かによって遮られた。
「お兄ちゃん、だれと握手しているの?」
振り返ると、ドアの前で妹がいぶかしそうにこちらを見下ろしていた。
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