「自分のからだがほしい」
んん?どういうことなのか、まったくわからない。なんでぼくが誰かを救わなくちゃいけないんだ?
「なにを言っているのか、さっぱりわからないのだが。」
「わたしたちは愛し合っているのに、いまのままじゃ手をつなぐこともできないでしょ?だからわたしは、この世界に自分のからだがほしいの。そうじゃないと、結婚もできないでしょ?幽霊としての生活なんて、もういやなのよ。ジンくんともっと愛を確かめ合いたいの。そうじゃないと、なんだか空しくて、寂しいのよ。」
ぷかぷかと空中に浮かぶぼくの守護霊は、うるうると目に涙をにじませていた。
「それで、ママにたのんだの。自分のからだがほしいって。そして、ジンくんと永遠に結ばれたいって。そうしたら、ママはこう言うのよ。『なっちゃん、それは無理な話よ。あなたが一度死んだという事実は人間界に残っている。それを打ち消して、さらに人間界にあなたのからだを生み出すなんて、並大抵のことではないわ。人一人が生きるとき、自分でも気づかないうちに、多くの人間に影響を与えているものよ。死んだとしても、それは同じ。死んだあなたが生き返るとき、人間界も霊界もとてつもない負荷がかかることになるわ。その負荷を補えるくらいの『幸せポイント』があれば、話は別だけど。』って。
それでわたし、すごくがっかりしたの。でもね、ママは優しいからちゃんと答えをくれたんだわ。そうよ!数えきれないくらいたくさんの『幸せポイント』を手に入れればいいのよ。両手いっぱいに抱えきれないくらい、たくさんの。」
そう言って、両手を広げ頭上を見上げる彼女の姿を、青空の下太陽が照らしていた。彼女の周りに舞い散る光の粒たちはやがて来る明るい未来を暗示しているかのようだった。
「それじゃあ、自分のからだを手に入れるために『幸せポイント』を集める。そのポイント集めに協力してほしいということか?」
「そうよ。『情けは人のためならず。』っていう言葉があるでしょ?それと同じことよ。自分の願いをかなえるためには、ほかの人を幸せにしなくちゃいけないわ。それが回り道のように見えて、一番の近道なのよ。誰かを助けることで、わたしたちは『幸せポイント』をもらう。それを地道に集めていけば必ず、わたしの夢はかなう。」
キラキラと輝く目。希望と愛に満ち溢れた表情。彼女のまっすぐな思いが、自分の体の隅々にしみこんでいくのをぼくは感じていた。しかしなにが正しくて、なにが美しいのかさえわからなくなったぼくの薄汚れた目には、その彼女の素直な思いが幼稚で、愚直で、楽観的で、うっとうしい感情にしか映らなかった。
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