「人はだれかが救うものじゃない」
ぼくは自分の手を手前に引っ込めて、冷たい目で彼女の明るい目を見た。
「俺がどうして、人助けなんてやらないといけないんだ?そんなもの一番他人に迷惑で、それこそわずらわしいものじゃないか。
大体、人助けなんて一番悪質な人間がやることだ。なにか悪いことをしたとき、『ああ、自分は悪い人間なんだな。』と感じる。それならまだいい。自分がなにをしでかしたのかということが分かっているということだからな。でも一番やっかいなのは、『自分はいい人間だ。いいことを他人にしている』と思い込んでいるやつが実際にはとても意地悪いことをしている場合だ。そういう人はもう、お手上げだよ。だって、自分がなにをしていたのかさえ分からないのだから。人助けをする人間なんて、たいていはそういう連中だ。自分ではよいことをしていると思っているが、他人にとっては迷惑きわまりないことをしている。ようは、自覚がないんだ。」
「そんなことはないよ。自分が素晴らしいと思っていること、よいと信じていることを実践しようとする人はすごいと、わたしは思うよ。それはもちろん、いつもその行いが正しいとは限らないかもしれないけど、そういうときは他のひとが教えてあげればいいと思うの。そうしたら、自分がどういうことをしているかわかるでしょ?」
「そんなことをしてくれる人がいると思うか?脳内お花畑女!!俺の守護霊だかなんだかしらないが、本当になにも知らないんだな。
いいか、世の中はそんなに都合よくなってはいないんだよ。みんな、できるだけ人に関わらないように、面倒ごとに巻き込まれないように生きているんだ。『困ったときは誰かが助けてくれる、協力してくれる、教えてくれる』と信じていれば、馬鹿を見るのはこっちなんだよ。だれも助けてくれないし、救ってもくれない。かといって、こちらからだれかを救おうとすれば、面倒くさいことになるし、お礼どころか小言を言われる。みんなハッピーになれる世界じゃないんだよ。
それにな、人はだれかが救うものじゃないよ。助けるものじゃないよ。自分で自分を救うものだ。自分で自分を助けるものだ。結局は、答えを出すのは自分自身なんだよ。転んだら、ひとりでに立ち上がるんだよ。『だれかに救われる』と期待しているのもおかしいし、『だれかを救おう』とするのもおかしい話なんだよ。」
ぼくは何かに向かって言い訳をするように、何か大切なものを失ったことを思い出さないように、彼女にそう叫んでいた。なんでそこまで躍起になって、彼女に反論するのか自分でもよくわからなかった。ただただ、なにかに追われていて、そのなにかから逃げるために、あせって言葉を探していた。それだけだった。
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