50限目 LoSで遊んでみよう④

 悠珠はみるみると基本を吸収していった。


 LoSの一回のバトル時間は二十~四十程と比較的長めだ。マップの形だけでもかなりの種類が存在するし、マスのレイアウトや目標MPなどもある程度自由に設定できるようになっていて、短いコースで延々とぐるぐるさせることも出来るし、一周は長いが数週で終わってしまうような設定も可能だ。


 その点で言うと、このチュートリアルはどちらでもない「最短」といえる。目標MPは最小値になっているし、NPCは意図的に「お馬鹿」に設定されており、有効的な手段を取らない。先に上げた基本を押さえているだけで、問題なく勝利することが可能だ。



「ようやくルールが見えてきました」


 試合は中盤だ。マップのあちこちにモンスターが設置され、そこそこの頻度で戦闘が発生、いずれのデュエルも悠珠が勝利している。


「流れ自体はわかってきたみたいだな」


 ここでもう一度、このゲームの流れを整理しておきたい。

 ゲームはターン制で進行する。そのターンの手順は以下のようになっている。


 ①カードを一枚引く。カードが八枚以上になる時、七枚以下になるまで捨てる

 ②スペルカードを一枚使用できる。使用しないも可能

 ③ダイスを振る。出た目の数だけ進行する

 ④止まったマスが「土地」なら、モンスターカードを使用できる。設置による領土化、または侵略が可能。または、通過してきた自分の領土にコマンドが使用できる。止まったマスが「神殿」「遺跡」「祠」なら、自身の全ての領土に対してコマンドが使用できる

 ⑤ターン終了。この時、相手の領土上にいる場合は、通行料を支払う。不足する場合、自身の領地を明け渡してCP化して支払う



――このサイクルをプレイヤーそれぞれ順番に行っている。



「先生、ちょっといいですか?」


 悠珠が俺の肩に手をおいて画面への注視を促す。

 非モテ男なら一瞬ドキッとしてしまう展開だが、当の本人はゲームと画面に集中している様子だ。相手が俺で良かったぞ、本当。


「このマップの土地の基礎TPは五○だっておっしゃいましたよね」


「おお、そうだが」


「では、ここはどういうことなんでしょうか」


 指さしたのは、緑の土地だ。そこに悠珠は二つの領土を持っているのだが……


「この土地、私はレベルアップしていません。ほら、レベル一です。にもかかわらず、土地のTPが六○なんです。そもそもレベルアップしたら一二○になるはずなので、何かがおかしいです」


 そこは神殿より六マス目、最初の緑のマスと、一つ飛んだ先にあるマスだ。そこにはそれぞれケットシーとゾンビが置かれている。


「良いことに気がついたな。これは土地の連鎖だ」


「連鎖?」


「そうだ。神埼は今、緑の領土を二つ持っている。このように同じ色の土地を複数集めると、連鎖という効果によって、土地価値が上がるようになっているんだ」


 土地の連鎖はLoSの重要なシステムの一つだ。同じ色の土地を増やせば増やすほど、領地一個あたりの価値を高め、他プレイヤーから巻き取れるCPの量も増えていく。


 その倍率は、領土が二つの時に一・二倍、三つの時に一・四倍、以降○・二倍ずつ増えていき、六つの時で最大二倍になる。


「今、緑の土地を二つ持っているから、それぞれに一・二倍のボーナスがかかっている状態な訳だ」


「もしかしてそれは、土地レベルの倍率と乗算ですか?」


「そのとおりだ」


 土地レベルは一上がるごとに二倍していく。最大レベルの五なら、なんと一六倍にも達する。基礎TPが五○だったとしても九〇〇となり、十分過ぎる通行料であるが、そこに連鎖が勘定されれば、一六〇〇TPにまで達する。それは即死級の通行料であり、試合を決定づける一撃となる。


「先生、もしかしてなのですけれど、このゲームは、究極的には通行料を巻き上げるゲームなんですか?」


「そうだ。言ってしまえば、魔術師同士のカツアゲ合戦だ」


「カツアゲ!」


 悠珠はそう言いながら、モニターの前でガッツポーズを決めている。オラついている様子を再現したいようだが、似合っていないを通り越して伝わらないレベルだ。


「そのためにあの手この手を使う訳だ。ダイスをコントロールしたり、手札に悪さしたり、アイテムでモンスターの戦闘を後押ししたり」


「極悪人の所業ですね」


「まぁ魔石を奪って覇権を握ろうとする魔術師達だからな。直接相手に攻撃魔法を打ち込まないだけマシと思わないと」


「『命だけは取らないでくれ』という相手から本当に命以外全てを取るみたいな」


「おお、良い例えだな。本当にそんな感じだぞ」


 画面は悠珠のターンに切り替わっている。引いてきたのは『マジックボルト』というスペルカードだ。『対象の領地に二○ダメージ』と書いてあるのを見て、ピーンと来たらしい。早速カードを使用し、NPCが設置したゴブリンを選ぶと、ゴブリンの中心から白い閃光が花火のように弾け、ゴブリンは消滅した。


「こういう便利なカードもあるんですね」


「そうだな。HPが多いモンスターは倒せないが、侵略前に使っておいて倒しやすくしておく、そんな使い方もあるぞ」


「覚えておきます」


 ダイスは五を示し、ちょうど今ゴブリンを排除したマスに停止した。そこは青の土地で、悠珠がスライムを設置すると、二四○TPと表示された。


 それを見た悠珠が、自身の胸の前で手を合わせる。



「おいしいですね。ごちそうさま」



 その満面の笑みは、とても清くて純粋なはずなのに、何か恐ろしいものの気配を感じさせずにはいられなかった。

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