47限目 LoSで遊んでみよう①

 やたらと発音の良いデスボイスでタイトルが読み上げられると、ダークファンタジー系のオーケストラが腹の底から押し上げるように重厚な和音を奏で始める。半音を生かしたミステリー感漂う旋律が、このlegend of Stoneの世界観にプレイヤーを誘う。


「おお、おおおおーっ!」


 その雰囲気にすっかり飲み込まれて早くも興奮気味な悠珠がそこにはいた。


「どうだ、ワクワクするだろ?」

「はいっ!」


 見たことの無いほどの勢いで、キレッキレの返事が返ってくる。そこにいるのは少女というより少年で、退屈という病に侵蝕されていたのがよく分かる。


「じゃあ、早速プレイしてみようか」


 俺は悠珠の椅子の背もたれに腕を置き、後ろから手を伸ばしてキーボードのスペースバーを押した。それと同時に、悪魔の叫びのような音声が静かに響き渡り、画面が暗転していく。


 続いて流れてきたのはムービーだ。フル3Dで描かれたダークファンタジーの世界は一昔前のハリウッド映画のようだ。英語の音声に、字幕スーパーがつけられているところがまた渋い。おかげでそのストーリーに集中できる。


 この世界では「伝説の石」と呼ばれる魔石が争いの中心となり、厄災を招いてきた。今もそれは変わらず、その力を狙う魔術師達は、自身の支配下に置いた領土から魔力をかき集め、そうして高められた魔力を持って、その生命を奪いあっているという。プレイヤーも、そんな魔石の力に見せられた魔術師の一人だ。


「かっこいい……」


 登場する魔術師達は、いかにもダークファンタジーですと言った感じの格好で、マントだとかよくわからない仮面や眼鏡をかけており、不健康そのものだ。中二病患者を発症させる典型であるが、悠珠にとってもそれはかっこいいものらしい。


「さて、お前の分身を選ぶんだ」


 ムービーが終わると、アバター選択画面に入る。キャラクターは老若男女合計八体用意されており、課金要素でその衣装を変更できる。


「ええ……。どれにしましょう……」


「ここは見た目だけの要素だから、好みで選んでいいぞ」


「そうなんですか。ええと、じゃあ、これで」


 悠珠が選んだのは、細身な女性だ。続いて選択できる髪の色は、ピンク色を選んだ。


「あ、画面が変わりました」


「こっからはレクチャー編だな」



 legend of Stoneのゲームジャンルは、カード+ボードゲーム。


 簡単にいうと、モノポリーとデッキ型トレーディングカードゲームが合わさったようなゲームシステムを持つ。


 舞台となるのは、スゴロクのようにマス目がふられたマップだ。最大四人のプレイヤーが順番にサイコロを振って版目の上を進んでいき、周回を重ねることでゲームが進行していく。


 マスにはいくつかの種類がある。最初にプレイヤー達が配置されているマスは「神殿」と呼ばれ、マップ内に必ず一つだけ設定されており、ここから出立し、再びここに戻ってくることで一周とカウントされる。


 道中に最も多く配置されている基本的なマスを「土地」と言い、自分のものになった土地を「領土」という。土地には五種類の属性があり、それぞれが色に対応しているから、そのマス目はカラフルに見える。


 プレイヤーの目的は、周回する中で領土をたくさん集め、領土のレベルを上げることで自分の魔力値を上げていき、最初に目標魔力値を越えた状態で神殿に帰還する、つまり、勝者となることだ。


「スゴロクみたいですね」


「そうだ。だがそれだけじゃない」


 ゲームが始まると、魔法の柄が描かれたカードがシャッフルされはじめた。


「えっ?」


 それらは魔法のちからで舞い、うち七枚が画面下側に横並びになった。そして一斉に表に返り、いかにもダークな美麗イラストが姿を現した。


「――これ、カードゲームなんですか?」


「そうだ。これがこのLoSの特徴なんだ」



 プレイヤーである魔術師が行使する魔法を具現化したもの――。それが、カードだ。


 カードには様々な種類があるが、「モンスターカード」「スペルカード」「アイテムカード」の三つに大分されている。


 最も基本的なものはモンスターカードで、このカードによって召喚された魔獣を土地に配置することで、その土地を領土化できる、という仕組みだ。



「まぁ、まずはやってみよう。サイコロを振るんだ。マウスでいけるぞ」


 画面中央には、光り輝く六面体が高速で回転していて、うっすらと数字が読み取れる。悠珠が左クリックを押すと、回転が止まり、三という数字が表示される。それに合わせて、悠珠が選んだアバターが反時計回りに進み、三マス目で停止した。


「あ、カードが明るくなりましたね」


 アバターが停止したところで、再び七枚のカードがせり上がってくる。この内、二枚がハイライトされている。


「今ハイライトされているのが、モンスターカードだ。今止まったところには何も置かれていないから、モンスターを設置して、自分の領土にできるんだ。好みでいいから、どっちか置いてみろ」


「わかりました」


 悠珠は二枚のうち、一枚を選んで置いた。


「あ、かわいいですね」


 選ばれたカードはケットシー。ガイコツ型の半仮面を被っているいかにも怪しい猫だが、ずんぐりむっくりした姿がどことなく愛らしく、女性に人気のモンスターだ。


「そう。これでこの土地が神埼の領土になった。見ろ、右上の数字を」


 画面右上には数字が示されており、最初一◯◯だったのが、ケットシーを置いたことで一三◯になっている。


「増えていますね」


「そうだ。ケットシーの召喚コストは二◯。そして土地のコストは五◯だった。神崎がケットシーを置いたことで、差し引き三◯ぶん、魔力値が増加したんだ」


「なるほど。その土地の魔力を自由に使えるようになる、というイメージですか」


「そのとおりだ」


 続いて、相手のターン。二人目のキャラクターが召喚される。今はチュートリアルなので、相手はCPU、一対一だ。サイコロが四で確定し、悠珠のアバターの一歩先で停止する。相手もやはりそこにモンスターを置いた。置かれたのはスライムだ。相手の魔力値が増加し、悠珠の順番となった。


「あー、なるほど」


 悠珠の画面にはカードが一枚舞ってきて、画面下に加わった。


「これは、カードを一枚引いているという意味なんですね」


「そのとおりだ。こうしてターンの最初にカードを引いて、サイコロを振って、モンスターを設置して。これが基本的なサイクルになっているんだ」


 その俺の説明途中から、悠珠はサイコロを確定し、数マス進んだ所で停止、再びモンスターを設置した。


 さすが悠珠。飲み込みが早い。


「オッケー。じゃあ次は、このゲームの戦いについて説明していく」

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